【ブルボンヌ新作批評15】世界初の性別適合手術をした夫と、それを見守る妻の、愛のかたち『リリーのすべて』

コラム

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リリーのすべて

1926年代頃のデンマーク、風景画家の夫アイナーと肖像画家の妻ゲルダ。親友のバレエダンサーの肖像を仕上げるために、足先のモデルを夫に頼んだことをきっかけに、彼は自分の中に押し殺していた彼女、リリーの存在に気付く…。

LGBT映画特集第3弾は、『英国王のスピーチ』『レ・ミゼラブル』のトム・フーパー監督と、『博士と彼女のセオリー』のエディ・レッドメインという、絶好調のオスカー受賞コンビがタッグを組んだ話題作、『リリーのすべて』でございます。記録に残る初の本格的な性別適合手術を受けたと言われる、実在のデンマークの画家を描いた物語。つまりLGBTのT、トランスジェンダーと言われる性別違和を抱えた人が主人公なんですね。ずいぶんと情報が伝わるようになった今でも、一般の方は同性愛と性別違和の定義が曖昧なんじゃないかしら。今回の特集でご紹介してきた映画を例にすれば、『キャロル』の主人公は女性同士の恋人、L=レズビアン、『これが私の人生設計』でキャリア女性をサポートしたのは男性同性愛者たち、G=ゲイとなり、彼らは自分自身がそれぞれ女性・男性であることにはとくに違和感を持っていませんでした。(B=バイセクシュアルは両性ともに愛せる可能性を持つ人たち)トランスジェンダーというのは性愛の「対象」の話ではなく、「自身」の性別に対しての違和や、それを適合させることがテーマになっているんですね。ここ数年、便利使いされてきた「オネエ」は、いろんな形がある性の少数者のうちの、メディア向きのポップな女性性キャラを中心にごった煮で使っている単語なんです。

リリーのすべて

映画界最高峰のスタッフとキャストが集まった今作だけあって、80年以上前のデンマークの美しくしっとりとした映像は文句なし。同じくクラシックで気品ある空間を舞台に、性の少数者の草分けを描いた『キャロル』と甲乙つけがたい画作りですが、あちらが暖色(男色じゃないのよ)なら、こちらは青みがかった寒色がベースなのが印象的です。難病が進行していくホーキング博士役でアカデミー主演男優賞に輝いたエディ・レッドメインが、次は性別の移行を演じるというのも俳優冥利に尽きる挑戦で、やはり今作の演技も主演男優賞にノミネートされました。(受賞は誰もが待ち望んだレオ様でしたが。)彼は若手の英国紳士として女性ファンも多い美男子ですが、業界目線で見ても「こういう子いるいる」な既視感を覚える顔だち。野郎大好きなゲイ的には「整ってるけど女性的すぎてイケない」なんて言われちゃうタイプで、まさにこの設定はハマり役。ちなみに彼の存在に最初に気付き、偶然奥さんに目撃されてしまった「男性とのキス」の相手にもなるヘンリクはゲイ男性です。演じるベン・ウィショーが実際にゲイを公言している俳優なのも面白いですが、「ゲイとトランスの曖昧さ」がこの二人の関係にもリアルに表れているのが、とても興味深いところ。性の少数者の問題というのは、細かく違う意味があると同時に、グラデーションでつながってもいるんですよね。

リリーのすべて

アタシもゲイ男性のパーティ女装(ドラァグクイーン)の流れという立ち位置で、女装仕事をしていますが、この映画に描かれたリリーの目覚める衝撃シーン「おちんちんを股間に挟んでの女の子なりきり遊び」は、確かに子供の頃にやった記憶がありますもの。このアタシの中の女性性は、2丁目のショーやお仕事で「ごっこ」をすれば十分なものでしたが、リリーの中で気づいたそれは、まさしく「真実の自分そのもの」だったんですよね。彼があるべき性別に目覚め、その違和に苦しむのは、現代にも多くある葛藤です。ただし、この時代は本人の気持ち以上に、周囲の無理解や恐ろしい治療がより苦しめることになります。物語の結末が、分かりやすいハッピーエンドとは言いがたいのは、この時代だからこそ。それは一部で批判された「トランスが不幸であるかのように描かれている」という目線ではなく、「技術的・環境的な苦難の大きかった時代を身をもって切り開いた先駆者への想いとリスペクト」を感じるべきものではないでしょうか。

リリーのすべて

そして、見事アカデミー賞助演女優賞に輝いた妻ゲルダ役アリシア・ヴィキャンデルが演じきった、「女性になっていく夫」を愛し続ける想い。この場合は性愛の対象からは外れていく妻という難しい立場ですが、追い詰められた孤独な心にそれでも「生まれた意味」を感じさせてくれるのは、寄り添ってくれる他者の心なのだと、つくづく感じました。自分自身ですら理解・納得することができないものを抱えた人にとって、それを拒絶せず受け止めようとしてくれる人がそばにいることがどれだけ救いになるか。ゲルダの「飛ばせてあげて」という台詞に込められた、理解と許容に向かう想いが、少しでも多くの人たちに伝わりますように。

『リリーのすべて』
全国大好評公開中!
配給:東宝東和
レイティング:R15+
(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

記事制作 : ブルボンヌtwitter(外部サイト)

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