華原朋美、「弱さを認めて」再スタート 辛い過去を告白して得たもの

インタビュー

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華原朋美

中国映画『更年奇的な彼女』の日本版主題曲に新曲「君がそばで」を提供した、歌手の華原朋美。活動20周年を迎えた華原だが、彼女ほど波乱万丈の半生を歩んでいるミュージシャンも珍しい。“歌姫”として彩った90年代から一転、約5年間の活動休止。その長い不在期間は、再起不能を意味する時間とも捉えられた。ところが2013年、華原朋美は帰ってきた。精神的にも肉体的にも疲弊していた休業期間中の経験を様々な場所で発信し、自らの“弱さ”を認め受け止める“強さ”を身に着けて。ともすればマイナスになりかねない、辛い過去をカミングアウトした理由とは何だったのか。

復帰曲「夢やぶれて -I DREAMED A DREAM-」発売記念ライブの際に、休業期間中の自らの病状を告白。その包み隠さぬ姿は大きな反響を呼んだ。華原は当時の心境を「休業中の自分の状況を明かすことは、二度と同じ過ちを繰り返さないという自分自身への誓いでもあったのと同時に、今現在同じ悩みの中にある人たちへのメッセージという意味もありました」と振り返る。

芸能界という組織に属するゆえ、発言や行動が書きたてられるリスクを負う立場にあるが、この時はそれを逆手に取った。「私のような人は多くの方たちにメッセージを伝えることが可能な場所にいる。その立場にある自分が、自らの経験をオブラートに包んでしまうことは人間としても歌手としても成長しない。自分に嘘をついてしまうと、歌に対しても嘘をつくことになる。自分の状態を正確に伝えたいという思いがあった」と打ち明ける。

休業期間中は「(芸能活動を)辞めようかな、というよりも自分の居場所なんかもうない、だから辞めなければいけない、という気持ちでした。必要とされていない現実を理解した時期で、ずっと自分を責めていた」という。そんな葛藤の中にあって、希望の光になったのは、家族の愛だった。特に一緒に暮らした父親の「一生元気でいてくれたら、それだけでいい」という言葉は今でも忘れられない。そんな支えもあって徐々に回復。「誰だって落ち込む瞬間はあって当然、そんな自分の弱さを認めるところからスタートして、徐々に“まあ、いいか”という気持ちになれた。そこから元気になって、落ち込む状態から抜け出せるようになった」と、ありのままの自分を受け止めた。

同時に、再起への思いも膨らんだ。「これまでの人生で“華原朋美”という人間しか経験してこなかったので、戻るところはそこしかないと感じたし、自分自身もう一度“華原朋美”という人にチャレンジしてみたかった。やはり歌が好きなんだ、という気持ちが強かった」と、表現者として今一度スタートラインに立つ覚悟を決める。周回遅れであっても構わない。長い助走になっても構わない。酸いも甘いもすべてを自分の人生と割り切り、受け止めた人間は強い。

華原朋美

カミングアウトがきっかけでファン層にも変化があった。往年のファンはもちろんのこと、90年代の“朋ちゃん”を知らない若年層もライブに足を運ぶ。「ある女子高生にコンサートに来た理由を聞いたら『どうしてこの人(華原)は辛い事があったのに笑顔でいられるのか、それを知りたかった』と言われました。今の中高生は私が中学生だった頃よりも、悩みが深刻だったりする。心の悩みを持つ人が増えている事を実感したし、私自身が辛さを経験したことで、その気持ちに寄り添える事もできるようになった」。歌を届けるべき存在を身近に感じる事は、活動の原動力となる。

立ち止まった時間は長かったかもしれないが、それがあったからこそ自分自身を見つめ直し、信頼し、仕切り直しの新たな一歩を踏み出せた。災いは転じて福ともなる。「90年代の急上昇中の時は、必ずヒットチャート1位をとっていたけれど、今考えるとオカシイ時代だったと思う。これからは煌びやかに飾り付けて生きるのではなく、歌を通して自分の思いを伝える生き方を選びたい。その方が死を迎えた時に、自分自身も納得するはずだから」。今後の目標は背伸びをせず「現状維持」としつつも「向上心を忘れず、仕事も選ばず、すべてを受け入れてすべてを乗り越えていく意気込みで」と声を弾ませる。その笑顔は、どの時代の“朋ちゃん”よりも晴れやかだ。

様々な経験を経た事で表現の幅も広がった。新曲「君がそばで」には、華原の歌にかける思いと人間としての深みが聴き取れる。「自分の経験と歌詞に運命的なリンクを感じて、レコーディングの日に自分が生かされてきた意味が分かった気がした。これまでの自分の経験が無駄ではなかったと思えたし、歌手でよかったと思えた。聴いてくれる方の気持ちにもきっとシンクロすると思う」とシミジミ。映画『更年奇的な彼女』にも「ヒロインの生き方は、そのまま私に重なる。彼女は挫折しながらも、友だちや周りに救われて成長と幸せを手に入れる。それは私も同じでした。ヒロインの姿はたくさんの希望を与えてくれるはず」と共感を寄せている。

(取材・文/石井隼人)

『更年奇的な彼女』
4月8日よりTOHOシネマズ日本橋・新宿ほか全国公開
日本版主題歌:華原朋美「君がそばで」(UNIVERSAL J)

記事制作 : dmenu映画

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