若返りも思いのまま!世界で活躍する日本人ヘアメイクの超絶技術

コラム

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文=中山治美

 米映画『スポットライト 世紀のスクープ』の撮影をマサノブ・タカヤナギ、『レヴェナント:蘇えりし者』の音楽を坂本龍一、『ヘイトフル・エイト』の美術を種田陽平etc……と海外作品での日本人アーティストの活躍が目立つ。中国のジャ・ジャンクー監督『山河ノスタルジア』(4月23日公開)にも音楽の半野喜弘と共に、ヘアメイクで橋本申二が参加。主演女優チャオ・タオ演じる“タオ”の1999年から2025年の26年に及ぶ波乱の半生を描く本作で、時間の経過を表すのに重要だったのは橋本の経験と技術だった。

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映画『山河ノスタルジア』撮影中のオーストラリア グレート・オーシャン・ロード(Great Ocean Road)
12使徒(Twelve Apostles)でジャ・ジャンクー監督(左)とメイクの橋本申二(右)

 長期に及ぶドラマを描く場合、米映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)のようにCGに頼るか、または成長過程に合わせて複数の俳優を使用するのが常識だ。だがリアルを追求するジャ監督は、チャオの表現力とメイクに期待を込めた。しかし撮影当時37歳のタオを20歳代に若返らせる手法として、中国人ヘアメイクが提案したのはプチ整形。納得のいかなかったジャ監督に、市山尚三プロデューサーがアッバス・キアロスタミ監督『ライク・サムワン・イン・ラブ』(2012)などを手がけた橋本を紹介した。

「ジャ監督から『キアロスタミ監督と仕事をした橋本さんならお会いしたい』と。撮影中にサングラスをかけるキアロスタミ・スタイルを真似るほどファンだそうです(笑)」(橋本)

 ジャ監督がチャオ・タオを連れて第15回東京フィルメックスで来日した2014年11月、テストメイクを行った。橋本が提示したのが、こめかみ、もみあげ、襟足の6点の髪の毛を、和紙をひねった元結で引っ張ってフェイスラインをあげる方法。滅多に行わない技法だが、タオにはこれが合っていたという。ジャ監督は即座に橋本に参加を依頼。クランクインの約半月前のことだった。

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メイクの技術で20代に若返った、タオ役を演じる37歳の主演女優チャオ・タオ

「でも当初は、若返りメークが必要な1999年のパートのみで、7~10日間の参加かなと思っていたのです。それが途中で、2014年のパートのタオのみならず2025年のパートのシルヴィア・チャンさんほか、ほぼ全員を担当することに。結局、62日間の撮影すべてに同行してしまいました(苦笑)」(橋本さん)。

 撮影は、乾燥激しい中国のフェンヤンと紫外線の厳しい豪州。タオをはじめとする俳優陣には毎日リンパマッサージとパックを施し、常に肌のコンディションを整えておくのが重要だったという。それでも撮影が長引くとどうしても皮膚がたるんでしまう。そこで、その都度医療用テープを使用して、肌の張りをキープさせたという。

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2014年のパートを演じるノーメイクのタオ

「撮影の90%はレールを敷き、ユー・リクウァイさんのカメラが動く。ヘリコプターの中でもレールを敷いてましたからね(笑)。なので写ってしまうところにはテープを貼れない。カメラアングルを探りながらの作業でした」(橋本)

 一方の老けメイクは、目の下に特殊なフィルムを貼り、ほうれい線や白髪を入れる。2014年のシーンで父を亡くしてからのタオは、今の年齢肌をそのまま生かしてノーメイクで出ているシーンもあるという。

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ほうれい線や白髪を入れた老けメイク。2025年のタオ

「ジャ監督がものすごくメイクに精通していて驚きました。例えばお産のシーンでは『もっと肌が茶色になるはずだ』と細かい指示が出る。また照明チームからは『寒くてタオの顔色が悪いからチークを足して欲しい。僕たちはハイライトを当てるから』とか、『車中のシーンでは光を入れるから肌質をマットにして欲しい』という注文もありました。自分が何をすればジャ監督が望む絵を成立させることができるか。役者とヘアメイクという関係だけではなく、クルーとして作品を作っていく面白さがありました」(橋本)。

 橋本の新作は荻上直子監督『彼らが本気で編むときは、』(2017年2月25日公開)。生田斗真がトランスジェンダーに挑むことで話題だが…、またも橋本のメイクマジックを堪能できそうだ。

 

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)