「これじゃ女の子にもてない」狂言師・野村萬斎が“演技”を獲得するまで

コラム

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文=鈴木元

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『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』©2016「スキャナー」製作委員会

狂言師の野村萬斎が、主演映画『スキャナー記憶のカケラをよむ男』で映画として初の現代劇に挑戦した。その役どころが、極めて異才を放っている。物や場所の残留思念を読み取る能力を持つがゆえに引きこもった元漫才師。脚本の古沢良太による当て書きだそうだが、萬斎は「こうきたかあ、というかねえ。でも、古沢さんは僕のキャラを好んでいらっしゃるようで、お笑い芸人にしたのは妙。光栄なことです」と意気に感じ、またひとつ新たな魅力を開花させた。

そもそも、3歳から芸道に身を投じることを宿命づけられた狂言方和泉流の継承者。「自分の意思に関わらず、狂言という特殊な才能をプログラミングされたチップを埋め込まれているわけです。サイボーグ009ですよね。ほとんど、島村ジョーの気持ちです」と自嘲気味に語る。

若い頃は「こんなことやっていたって女の子にもてやしねえ」と抗い、バンドを組んだりバスケに興じたこともあったが、1985年に黒澤明監督の『乱』に抜てきされたことが転機となる。「自分が外に出て戦う時に、何が武器になるかといえば、やはり誰にもマネのできない能力、狂言師として生きることが存在証明だと感じた」と意識改革。映画では『陰陽師』『のぼうの城』と、主に時代劇で代表作を生み出してきた。フィギュアスケートの羽生結弦が、フリーの演技に『陰陽師』を取り入れたことも記憶に新しい。

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『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』©2016「スキャナー」製作委員会

そしてもう一つ、映画やドラマに出演する大きな動機は女優との共演。「大概は男とばかり芝居をするパターンなので、いつも女優さんとやりたいという飢餓感には満ちている」と実に明快だ。『スキャナー』でも木村文乃や杉咲花らが花を添え、特に読み取った思念で浮かび上がった木村の「才能は自分のためでなく、人のためにあるもの」というセリフには、「人のために狂言をやらなければいけないと、心に響くとても効いた言葉でした」と満足げに振り返る。

多彩なジャンルで芸域を広げ続け、「前は狂言師の野村萬斎と、狂言の外の野村萬斎が違ったけれど、今はあまり垣根がないというか、ひとつひとつの壁がなくなってきている感じがする」という。4月5日には50歳の大台に乗ったが、狂言界では「40、50代は洟垂れ小僧」だそうだ。

「狂言(の芝居の表現)は型から入って内実を充実させていく方法論、でも普通の役者さんはまず内実があって、名優と呼ばれるようになっていくうちに表現のパターン(型)が確立されていく。だから、どちらから入るかということであって、最終的には隔たりがなくなってくるような気もする。私も型から入りつつ、いつかは型を感じさせないで中身の人間が飛び出してくるような演じ方になるといいなといつも思っています。それは父が80半ばで型を感じさせない境地になっているのを見るとますます感じる」。そう、見据えるのは父で人間国宝の野村万作の領域。さらなる精進のため、島村ジョーの加速装置はますますスピードを上げていきそうだ。

 『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』
出演:野村萬斎 宮迫博之
   安田章大 杉咲 花 ・ 木村文乃 ・ ちすん 梶原 善
   風間杜夫 高畑淳子
脚本:古沢良太 音楽:池 頼広 監督:金子修介
2016年4月29日公開
©2016「スキャナー」製作委員会 

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)