江戸時代のマネー・ウォーズ『殿、利息でござる!』! 1000両集めて貧乏脱出作戦

コラム

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文=紀平照幸

問題勃発:町人に課された重税

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「無私の日本人」文春文庫

刀を抜かない時代劇です。ちょんまげ姿の経済ドラマと言い換えてもいいかもしれません。この『殿、利息でござる!』の原作は『武士の家計簿』の磯田道史の中編集「無私の日本人」に収録されている「穀田屋十三郎」。原作に惚れ込んだ中村義洋監督が自ら磯田氏を口説き落として映画化にこぎつけた作品。感動の実話です。

江戸時代後期の明和3(1766)年、仙台藩伊達家、吉岡宿の人々は重税に苦しみ、破産や逃亡が相次いでいました。迫り来る存亡の危機。町の将来を憂う造り酒屋・穀田屋の十三郎(阿部サダヲ)は、知恵者の茶師・菅原屋篤平治(瑛太)のひらめきから、ある秘策を実行に移します。それは藩に大金を貸付け、その利息で町を救うという前代未聞の内容でした。思い込んだら命懸けの十三郎は、同志を集め、私財をなげうって町のために奔走するのですが……。

窮乏の理由:名門藩主の見栄

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『殿、利息でござる!』
© 2016「殿、利息でござる!」製作委員会

そもそも、なぜ伊達家や吉岡宿はこんなに窮乏していたのでしょうか。原因のひとつは伊達家七代目当主・伊達重村の猟官運動にありました。格式を重んじる重村は薩摩藩・島津家への対抗意識が強く、自分より若い島津重豪と対等な「従四位上・左近衛権中将」の位を得るため、江戸の老中らに多額の金品を送っていたのです。そのため幕府の御手伝普請(大規模土木工事)も買って出ており、その出費も大きな負担でした。

しかも名門の伊達家は他藩とは違う体制を持っており、家臣を城下に集めるのではなく、各地の領地に城館を建てて住まわせ、藩の中で参勤交代のようなことを行なわせていたのです。宿場には“伝馬役”という任務があり、通常の農民のような年貢とは別に、公用で役人が街道を往来する場合は人馬を強制的に徴用していきます。その馬や人足の経費はすべて町人の負担でした。これが藩の直轄地であれば“伝馬御合力”という助成金が出るのですが、吉岡宿は伊達家の家臣・但木氏の領地(しかもわずか1500石の小身)だったため、その恩恵に預かることもできませんでした。

解決方法:藩に貸付けた金の利息で賄う

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『殿、利息でござる!』
© 2016「殿、利息でござる!」製作委員会

十三郎たちの狙いは、藩に貸付けた金の利息で、その伝馬役の経費を賄おうというものです。そうすれば皆が自分の仕事に専念でき、町は再び活気を取り戻すだろう……。しかし、それに必要な額は、なんと1000両。現在の相場に換算すると3億円という大金です。大好きな風呂もお酒も我慢して、大切な家宝や家財道具も売り払い、家族を奉公に出してまで、爪に火を灯すような苦労の日々が始まりました。

しかしこの時代、町人の方から武家に対して金の貸付を申し出るということはまず有り得ない事態でした。それは主家の窮乏につけこんだ高利貸しのような行為と受け取られる恐れもあったのです。現に藩の財政の実権を握る出入司・萱場杢(松田龍平)が、十三郎たちの前に立ちはだかります。ところで、映画では悪役的なポジションで登場する杢ですが、彼の「利息は取るものであって、取られる側になるべきではない」という考え方は、当時にあってきわめて優れたものでした。事実、金銭感覚に疎い他の藩では両替商に多額の借金をして財政を破綻させるところも続出していたのですから。ちなみに当時の金利は年に一割が相場。したがって、圧倒的に貸す側が有利なのです。

「無私の日本人」町の将来のために私欲を捨てた人々

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『殿、利息でござる!』
© 2016「殿、利息でござる!」製作委員会

十三郎たちの計画が動き出してから、実際に資金が集まるまでに費やした時間は8年という長いものでした。映画はその間の出来事を、涙と笑いを散りばめて快調なテンポで描きます。竹内結子、妻夫木聡、山?努、草笛光子、西村雅彦、寺脇康文、きたろうといった芸達者な面々に、千葉雄大、ジャニーズWESTの重岡大毅といった若手も加わり(フィギュアスケートの羽生結弦も特別出演!)、豪華キャストの演技合戦が見もの。さらにナレーターに濱田岳を起用、音楽も時代劇らしからぬものを使用と、既存の枠を超えた展開で楽しませてくれます。個人的には、いつもの笑顔を封印した妻夫木に彼の新境地を見た思いがしました。

十三郎たちの行為が素晴らしいのは、彼らが私欲を捨てて、ひたすら町の将来のためだけに行動を起こしたことです。大願が成就しても子孫の代までこのことを語らぬようにと言い残した“つつしみの掟”にうかがえるように、自らの功を誇らず、あくまでも無名のままでい続けた、そんな日本人がかつていたことを忘れないでほしいと思わせてくれる映画でした。

『殿、利息でござる!』
出演:阿部サダヲ 瑛太 妻夫木聡 竹内結子
寺脇康文 きたろう 千葉雄大 橋本一郎 中本賢 西村雅彦
山本舞香 岩田華怜 重岡大毅(ジャニーズWEST) 羽生結弦(友情出演) 
松田龍平 草笛光子 山崎努
監督:中村義洋 脚本:中村義洋 鈴木謙一
音楽:安川午朗 原作:磯田道史『無私の日本人』所収「穀田屋十三郎」(文春文庫刊)
制作・配給:松竹株式会社
2016年5月14日公開

 

この記事で紹介している作品

 『殿、利息でござる!』

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)