ツール・ド・フランス7冠アームストロングがハマったドーピング

コラム

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文=平辻哲也

『疑惑のチャンピオン』
映画『疑惑のチャンピオン』
PHOTO BY LARRY HORRICKS ©2015 STUDIOCANAL S.A. ALL RIGHTS RESERVED.

リオ五輪も近づく中、トップアスリートによるドーピングが相次いで明らかになっている。特に、元テニス女王のマリア・シャラポワ(ロシア)の名前が挙がったことは、世界に大きな衝撃を与えた。

今年1月の全豪オープンの検査で禁止薬物の「メルドニウム」の陽性反応。この薬はラトビアの医師が開発した狭心症や不整脈の薬だそうで、持久力を高める効果などがあるという。世界反ドーピング機関(WADA)が今年1月から禁止薬物に指定していた。

シャラポワは10年前から、医師の処方により別の名前の同じ薬を服用しており、禁止薬物になったことは知らなかった、としている。メルドニウムをめぐってはアイスダンスのエカテリーナ・ボブロワら約40人のロシア選手の違反も明らかに。ロシアによる組織ぐるみの違反という指摘もあり、この問題はしばらく続きそうだ。

『疑惑のチャンピオン』

なぜ、アスリートはドーピングに走るのか? その一つの答えが分かるのが「疑惑のチャンピオン」(7月2日公開)だ。世界最高峰の自転車レース「ツール・ド・フランス」で7冠に輝き、後に記録を剥奪されたランス・アームストロングの光と影を描く。

『疑惑のチャンピオン』
映画『疑惑のチャンピオン』
PHOTO BY DEAN ROGERS ©2015 STUDIOCANAL S.A. ALL RIGHTS RESERVED.

13年にはアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞受賞のアレックス・ギブニー監督が撮ったドキュメンタリー「ランス・アームストロング ツール・ド・フランス7冠の真実」が公開されたが、ドラマとして描かれるのは初めて。『ローン・サバイバー』で兵士役を演じたベン・フォスターが肉体改造を経て、ランスになりきっている。顔や表情もよく似ている。レースさながら、畳み込む演出もあって、引き込まれる。

アームストロングが手を染めた薬物は、赤血球を増やし、酸素を筋肉に送る効果のある貧血の治療薬「EPO」を始め、成長ホルモン、テストステロン、コルチゾン、血液ドーピングと数知れない。

劇中では、イタリア人医師による独自プログラムをきっかけに、レース中に靴に隠して注射器を持ち込む様子、冷凍保存しておいた自分の新鮮な血液を点滴する「血液ドーピング」、検査逃れのための点滴投与、金と権力を使っての恫喝、自転車競技連合ぐるみの隠蔽工作……とドーピングにハマっていく姿が描かれる。

『疑惑のチャンピオン』
映画『疑惑のチャンピオン』
PHOTO BY DEAN ROGERS ©2015 STUDIOCANAL S.A. ALL RIGHTS RESERVED.

アームストロングは25歳だった96年10月に、精巣腫瘍と肺と脳への転移が発覚。医師から生存率50%以下と死の宣告を受ける中、過酷な化学療法と脳手術によって、奇跡の復活を遂げた。ツール・ド・フランスで快進撃を続ける中、ガン患者のチャリティーを行うヒーローとなった。

05年のツール・ド・フランス7連覇を花道に現役引退。その後はチャリティー活動などに力を入れていたが、08年に突如、現役復帰を表明。09年にはツール・ド・フランスへ4年ぶりに出場し、総合3位。しかし、この復帰がアダとなった。

かねてから囁かれてきたドーピング疑惑が再燃。チームメイトらが続々と告発。一人のジャーナリストが衝撃の真実を明らかにする。

やがて、12年6月、全米アンチドーピング機関が正式にドーピング違反を判定。98年8月1日以降の記録の抹消と永久追放が宣告された。

『疑惑のチャンピオン』
映画『疑惑のチャンピオン』
©2015 STUDIOCANAL S.A. ALL RIGHTS RESERVED.

英巨匠がノンフィクションを映画化

映画の原案は、サンデー・タイムズ紙記者で、「スポーツライター・オブ・ ザ・イヤー」4度の受賞を誇るデイヴィッド・ウォルシュのノンフィクション。ウォルシュはドキュメンタリー映画にも登場する人物である。

アームストロングの伝記映画の企画はほかにもあった。ソニー・ピクチャーズが06年頃から、ガンからの復帰を軸にした感動ストーリーとして企画開発。しかし、ドーピング騒動が本格化してから、中断。その後は、ニューヨーク・タイムズ記者によるノンフィクションの映画化権をパラマウントピクチャーズが獲得。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のJ・J・エイブラムス監督がプロデュースするとも伝えられていたが、その後は聞こえてこない。

存命する人物の伝記映画。しかも、その闇の部分を描くのだから、簡単ではない。本人だけでなく、関係者や企業も実名で登場する。モデルの協力は当然得られないどころか、訴訟のリスクもある。社会的な制裁を受けた米国の元ヒーロー、アームストロングをこれ以上貶めることも必要ない、という意見もあったかもしれない。

本作はイギリス・フランスの合作で、昨年9月のカナダ・トロント国際映画祭でプレミア上映され、その後、欧州をめぐったが、なかなか米国では公開されず、ようやく今年3 月に公開されたばかり。

監督は米アカデミー監督賞に『グリフターズ/詐欺師たち』『クィーン』で2度ノミネートされたイギリスの名匠スティーヴン・フリアーズ。実際にツール・ド・フランスを観戦し、「サイクリストの背後にある、あくなき勝利への執念を見た。彼らの後ろにいるのは全員、ツールの組織の人間だ。全体が巨大な“サーカス”であることを理解したよ」と語っている。

ガン発症以前からもドーピング?

ドーピングの歴史は競技者が興奮剤などを服用した古代ギリシャにまで遡る。瞬発力や持久力を求められる陸上競技や自転車競技ではその依存傾向が強いようだ。90年代の自転車界ではアームストロングに限らず、多くの選手がルールの抜け道を見つけ、ドーピングに手を染めていたようだ。

アームストロングは「ガンになる以前からもやっていた」「ドーピングは仕方ないと思った。罪悪感はなかった」「どんなことをしても、勝ちたかった」と話している。引退していれば、英雄のままで終われたはずだが、それ以上に「勝利の味」は“劇薬”だったということか。

また、アームストロングには、上部組織からの「これ以上やると、検査に引っかかる」との囁きもあったという。個人の飽くなき勝利への欲に、ビッグビジネスとなってしまった自転車業界。この二つの利益が合致し、“疑惑のチャンピオン”を産んでしまったのではないか。

WADAによれば、2014年のドーピング違反者数は1693人。薬物検査で見つかったのが1462人で、残り231人はサンプルの提出逃れや拒否に基づく違反という。

『疑惑のチャンピオン』
映画『疑惑のチャンピオン』

この記事で紹介している作品

『疑惑のチャンピオン』
7/2(土) 丸の内ピカデリー&新宿ピカデリーほか全国公開!
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:ジョン・ホッジ
原案:「Seven Deadly Sins: My Pursuit of Lance Armstrong」デイヴィッド・ウォルシュ著
出演:ベン・フォスター、クリス・オダウド、ギヨーム・カネ、ダスティン・ホフマン
提供:松竹・ロングライド
配給:ロングライド  movie-champion.com

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)