【ブルボンヌ新作批評17】イケメン×猫×親子×生死。ズルい特盛なのに、品がある『世界から猫が消えたなら』

コラム

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世界から猫が消えたなら

「せか猫」なんて呼ばれるくらいに原作も映画も大ヒットの、感動作品『世界から猫が消えたなら』。正直、パンフレットの「2016年、最も泣ける感動映画が誕生しました!」って言葉には、胸やけがしそうなくらいヒキつつ観たんです。基本的に、もう何年も前から続く邦画の「死にますよ~、泣かせますよ~」ラインが苦手でしょうがないんですよね。もちろんアタシも洋邦問わず、映画を観りゃ緩んだ涙腺から水漏れしまくるババアですけど、映画の宣伝がそれをあまりに押し付けてくるのって下品だなぁと思います。この作品は、泣かせます邦画の定番、「若者の死」だけでなく、他にも「それ出すのズルい」と言える要素のてんこ盛り。寡黙で不器用な父、儚くも優しい母、そして今もっともノリにノッてる生き物、猫まで勢ぞろいの、特盛なわけですよ。

あえて一線ひいて生き物呼ばわりしましたけど、「猫」はアタシ的にも、「ね、猫なんかに負けないんだから!……ら、らめぇぇ、きゃわひぃぃ」と気持ち悪い即落ちをしちゃうキラーコンテンツ。世間的にも、ここ数年で関連グッズ・イベントの人気はうなぎ上り、飼育頭数も今年ついに日本調査史上初の犬越えをすると言われている旬のアイドルです。うちにもタマ無し男子の可愛い子ちゃん2匹がいますし、性的少数者やお一人様にとっても、子供代わりの愛を注がれている存在のはず。今作でも、主役猫キャベツちゃんのシールやらハンカチやらグッズも用意されていて、それだけでもうデレデレ!

こんなにコテコテに揃えた「あざとさ」って、一周まわって清々しいくらい。定番人気素材ばかりで料理して、これで出来上がりが不味かったら、その分恥ずかしいんだからね!って思ったりもしたんですけど、結果、やっぱり泣きましたよ。そして、素材はあざといのに、話運びと見せ方は品のある作品でございましたよ。うーん、疑り深いババアでごめんなさい。

世界から猫が消えたなら

まず30歳の若さで突然、自身の死を突き付けられる主人公、という設定ですが、この作品は自分と同じ見た目の悪魔との駆け引きがあるので、「若くして死んじゃう」可哀想さがあまりありません。死を自分で操作する余裕がある設定な分、生が輝く構図なんですよね。実は、この映画を観る前に、お仕事で共演したばかりの前田健さんが亡くなるという体験をしたアタシにとって、「若くしてこの世を去る」ことを考えるテーマは、あまりにも刺さるものでした。同い年のオネエタレントで女装芸を持ち新宿2丁目でも働いていた、重なる部分が多かった前田さん。倒れる直前、いつも以上に張り切って「お笑い」の仕事で活躍された笑顔を思い出すと、運命には抗えなくとも、生きている間には精一杯それを楽しむことの大切さが染みるのです。そしてこの映画もまさしく、30歳で死が訪れる無念さではなく、30年の生の記憶とありがたみを噛みしめることこそを強く打ち出してくれていました。

世界から猫が消えたなら

この一番大事な芯を伝える顔ぶれも素晴らしい。透明感あるビジュアルだけでなく演技へのひたむきさにも定評のある「僕&悪魔」佐藤健くんはじめ、メジャーさと演技力を兼ね備えた皆さんが勢ぞろい。抑えた中で、爆発的な感情を見せる「彼女」宮?あおいちゃんの「生きてやるー!」はアタシも叫んでいきたい言葉ですし、父母の奥田さん原田さんも親友の濱田さんもさすがでした。そして何といっても、この設定を陳腐にしなかったのは、ベテラン脚本家・岡田惠和さんの腕によるところも大きいのだと思います。

個人的には劇中、ウォン・カーウァイ監督がゲイ・カップルを描いた名作『ブエノスアイレス』が、「彼女」との体験とシンクロして使われているのにもやられました。この映画で主役カップルの一人を演じたレスリー・チャンは、私生活でもゲイをカミングアウトしていた稀有なトップスターで、彼自身も若くしてこの世を去っているんですよね。

アタシのように「また売れる要素を集めて作った、お涙ちょうだい邦画だろぉ」なんて、つい斜に構えがちな皆さまこそ、「もうちょっと素直になってもいいよね」と思わせてもらえそうな、優しい作品でございました。アタシもその時まで必死に、生きてやるー!

『世界から猫が消えたなら』
全国大好評公開中!
配給:東宝
(C)2016 映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会

記事制作 : ブルボンヌtwitter(外部サイト)

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