【映画の料理作ってみたらvol.14】家にある材料だけで作る『海よりもまだ深く』ご飯

コラム

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文=金田裕美子

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『海よりもまだ深く』 配給:ギャガ
丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー中
2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

すっかりカンヌ映画祭の常連となった是枝裕和監督が、昨年の『海街diary』に続いて今年カンヌの「ある視点」部門に出品したのが、現在公開中の『海よりもまだ深く』。是枝監督の作品はどれも、俳優たちの演技からロケ地、セット、小道具に至るまで徹底的にリアルさにこだわっています。もちろん食べ物もしかり。『海よりもまだ深く』にも、どこの家庭でも食べていそうで、だからこそ美味しそうな日常的な料理が登場します。今回は同作に登場する筑前煮とカレーうどん、プラスαを作ってみたいと思います。

■本日のお品書き 筑前煮 カレーうどん カルピス氷 とうもろこしの天ぷら

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『海よりもまだ深く』 配給:ギャガ
丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー中
2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

『海よりもまだ深く』の主人公は、15年前に小さな文学賞を受賞し、作家を自称しているものの、今は小説の取材だと言い訳しながら探偵事務所に勤める中年男・良多(阿部寛)。別れた妻・響子(真木よう子)に未練タラタラで、息子・真吾(吉澤太陽)に月一度会うことだけを楽しみにしているくせに、息子に野球道具をプレゼントするはずのお金ばかりか養育費までギャンブルでスッてしまうというダメダメな元夫&パパ。姉・千奈津(小林聡美)にお金の無心をして断られ、団地に住む老いた母・淑子(樹木希林)の家からこっそり金目の物を持ち出そうとしているダメダメな弟&息子でもあります。そんな良多が、台風で家に帰れなくなった響子、真吾と共に淑子の家で一夜を過ごすことになるのですが……。

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『海よりもまだ深く』 配給:ギャガ
丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー中
2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

半年前に夫を亡くして以来、気ままに生活しているという淑子は、娘や息子、そして孫のために料理を作ります。といっても凝ったものではなく、ごくごく普通の家庭料理。ちゃっかりおかず狙いで家にやって来る千奈津と一緒に作る筑前煮も、おせち料理のように人参を花の形に切り抜いたりきれいに盛りつけたりするわけではなく、材料の切り方も煮方も大雑把。淑子は「こんにゃくはゆっくり冷まして一晩寝かせたほうが味がしみるのよ。人とおんなじで」などと、時々ちょっとした名台詞を吐きます。

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花柄の鍋が家庭的。 『海よりもまだ深く』 配給:ギャガ
丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー中
2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

そして、急に夕飯を食べていくことになった良多と響子、真吾のために淑子が用意するのは、冷凍しておいたカレーで作ったカレーうどん。4人が使っているどんぶりがそれぞれバラバラなところにも生活感があふれています。そういえばわたくし、カレーうどんというものを外で食べることはあっても、自分で作ったことはありません(赤いきつねに残り物のカレーをかけてみたことはある)。実家で食べた記憶もない。カレーうどんて、うち以外ではポピュラーな家庭のメニューなんでしょうか。よくわかりませんが、よっしゃ、筑前煮と、それから初のカレーうどんに挑戦です。

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『海よりもまだ深く』 配給:ギャガ
丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー中
2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

■家にある材料だけで作る筑前煮

まず筑前煮。鶏もも肉はひと口大に切り、人参は乱切り、もどした干ししいたけは食べやすい大きさに切ります。ごぼう、れんこんも食べやすい大きさに切って水にさらし、こんにゃくは切って下茹でします。これで下準備完了。筑前煮には里芋やたけのこが入っていることも多いですが、淑子のバージョンには入っていないようなので今回はなし。家にある材料だけで作り、ないものは省いてしまうのが家庭っぽいです。

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鍋にサラダ油を熱して鶏肉を炒め、火の通りにくい野菜から順番に加えます。

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全体に油が回ったら、干ししいたけの戻し汁とだし汁を加え、落としぶたをしてアクを取りながら10分ほど中火で煮ます。

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鶏肉と野菜がやわらかくなったら、しょうゆ、酒、みりん、砂糖を加え、煮汁がほとんどなくなるまで煮詰めます。彩りに茹でたいんげんを加えれば出来上がり。これはさやえんどうでもいいのですが、淑子に同じようにいんげんを使いました。

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いろいろな材料が入る煮物は、それぞれの材料を少量に抑えたつもりでも結果的に鍋に大量に出来てしまい、一人暮らしだと何日も食べ続けることになりかねません。でも煮物は少量作るより大きなお鍋にどーんと作った方が美味しくできる気がするし、やはり大勢で食べる家庭向きの料理なのかもしれません。千奈津や良多がよく訪ねてくるからこそ、淑子も張り切って筑前煮を作るのでしょう。

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■ストックしておきたい簡単カレーうどん

次はカレーうどん。映画ではまず、冷凍庫から大き目の容器に入ったカレールーらしきものを取り出して鍋にあけています。これをストックしてあったのは「お父さんがカレーうどんが好きだから」って、じゃあお父さんが亡くなった半年前の、そのもっと前から冷凍してあったのか!と良多は一瞬箸を止めますが、響子は「男の人はすぐ賞味期限を気にするから」などと言うばかりでまったく動じません。ま、私もどちらかといえば響子タイプですが。

さて、この冷凍カレールーが謎です。肉類や人参など、通常カレーに入っている具が見当たらない。淑子が「かつおだしがポイント」というようなことを言っているので、もしかするとカレーの残り物を冷凍したのではなく、最初からカレーうどん用に作ったスープを冷凍保存していたのかもしれません。実際はどちらなのかわかりませんが、「残り物のカレーを使ったカレーうどん」ではなく、「カレーうどんを作るために作ったカレーうどん」を作りたいと思います。

淑子は凍ったルーをまず電子レンジで解凍します。これを鍋に移し、じゃがいもと真吾がお手伝いして切った油揚げを入れ、良多の好物らしいグリーンピースも加えます。じゃがいもをこの段階で加えているのは、カレーに入ったじゃがいもを冷凍すると温めなおした時に水分が抜けてスカスカになったり崩れたりするから。こんなところの描写もいちいち細かいのが是枝作品です。

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映画の料理を作ってみるとはいえ、わざわざカレーを凍らせてまた解凍することもないか、と思い、フリーズ行程はスキップ。映画ではスープの中に肉類の姿を発見することはできませんでしたが、やっぱりなんとなく寂しいので私は豚コマを入れちゃうことにします。鍋にだし汁を温め、しょうゆとみりんを加えて麺つゆを作ります。あとでカレールーも加えるので、ここは薄めの味付けで。ここに豚コマと玉ねぎ、じゃがいもを加えて煮込みます。炒めず直接加えるので、親子丼的な雰囲気。

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火が通ったら、市販のカレールーを割り入れ、食べやすい大きさに切った油揚げ、缶詰または冷凍のグリーンピース、長ネギの小口切りを加え、味を調えればスープの出来上がり。うどんは、急ごしらえらしく淑子が乾麺を使っているので、私もそれにならって乾麺を茹でました。熱々の麺を器に盛ってカレースープをかければカレーうどんの完成です!

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うーん、初めて自分で作りましたが、確かに出汁がきいて美味しい。野菜をじっくり炒めたり肉を煮込む必要もないので、カレーより簡単に素早くできるし、これはなかなかのめっけもんです(私が初めて知っただけ?)。

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■淑子特製「カルピス氷」

映画でもうひとつ印象的だったのは、料理といえるほどのものではありませんが、淑子特製「カルピス氷」。これは名前そのまま、カルピスを器に入れて凍らせただけのもの。製造途中で撹拌するわけでもないので、金属のスプーンでも歯が立たないほどガッチガチに凍っています。孫にバクバク食べられないようにするための対策らしいのですが、あまりの固さに良多も苦笑。おまけに「冷蔵庫臭い」らしい。

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二人とも本気で笑っているように見えます。
『海よりもまだ深く』 配給:ギャガ
丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー中
2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

このカルピス氷が入っているのが、グラスではなくプリンの容器の再利用っぽいところがこれまたリアルです。この容器のシェイプはモロゾフのプリン? でも良多が食べている方は、イッタラのおしゃれなグラスのようにギザギザがついています。近所のモロゾフを覗いてみたら、ありました、まさに映画で使われていた容器が。スタンダードなプリンと抹茶プリンを購入して両方の容器をゲット。早速中身を食べて空にし、適度に薄めたカルピスを注いで凍らせます。

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数時間後。どれどれ。スプーンを当ててみますが、ほんっとに固っ。スプーンでガシガシ削って少しずつ口に運ぶしかありません。真夏にこれを食べると、涼しくなるどころか汗びっしょりになりそうです。でも淑子と良多が半分笑いながらガシガシしているシーンは、なかなか微笑ましいものがありました。

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■絶品!「とうもろこしの天ぷら」

ところで、設定こそ違いますが、良多という名のダメ男を阿部寛が、その母親を樹木希林が演じた是枝作品がもう1本あります。2008年に公開された『歩いても 歩いても』がそれ。こちらも実家に家族が集まるシーンに様々な料理が登場します。その中でも、これは美味しそう!とよだれが出そうになったメニューを、今回はついでに作ってみます。

久しぶりに集まった横山家の面々が、かつて住んでいた板橋で「隣の畑からとうもろこしを盗んだ」という思い出話をしながら作る「とうもろこしの天ぷら」。居酒屋やタイ料理屋などでもたまに見かけるメニューですが、ここでは良多が生のとうもろこしの粒を手でひとつひとつ外して作っているところがポイント。旬のとうもろこしを使った天ぷら、美味しくないわけがない! 

というわけで、私もまずとうもろこしの皮をむき、粒外しにかかります。が。両端は粒がバラバラに並んでいるのでうまく外れず、手で外そうとすると粒がつぶれてしまいます。こりゃ包丁でそいだ方が簡単で早い……と思ったものの、それではイカン、ダメ男の良多だって根気よくやってたじゃない、と自分を戒めます。楽することに関しては割と冴えているわたくし、両端の粒が揃っていないなら揃っている真ん中から外せばいいじゃない、とコロンブスの卵のようにひらめき、とうもろこしを真ん中で折ってみると、あーら楽ちん。粒をつぶさずに外すことができます。とはいえ1本全部外すのはなかなか骨が折れました。

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このとうもろこしに小麦粉(好みで天ぷら粉)をふりかけ、水を少しずつ加えます。これをスプーンですくって中温の油に入れ、両面をカリッと揚げれば出来上がり。簡単。映画では揚げる際にとうもろこしの粒がボンボン爆発し、横山家の台所は大変な騒ぎになっていました。恐ろしいので私も油の中にとうもろこしを落とした瞬間にさっと海老のように後ろに避難しましたが、なぜかまったく爆発は起こらず、ちょっと寂しい……。

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あとで調べたら、手で粒を外すより包丁でそいだ方が粒の袋が破れるので爆発しにくいとか、水で溶いた天ぷらの衣を使うより、とうもろこしに直接粉をまぶしてから水を入れた方がはねないとか、いろいろ説がありました。いずれにしても、カリッと揚がったとうもろこしの天ぷら、塩をパラっとふりかけて食べると、あまーくて、もう絶品です。横山家の人々が、爆発することを承知で作りたくなるのもうなずけます。

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是枝作品に登場する料理は、どれも変わった材料を使うわけでも凝った作り方をするわけでもありませんが、実際に作ってみると、なんだかしみじみするお味なのでした。どれも簡単なので、ぜひお試しあれ。

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*レシピ

【筑前煮】
 鶏もも肉、人参、ごぼう、れんこん、こんにゃく、干ししいたけ、いんげん、サラダ油
 だし、しょうゆ、みりん、酒、砂糖
【カレーうどん】
 豚コマ、玉ねぎ、じゃがいも、油揚げ、長ネギ、グリーンピース
 だし汁、しょうゆ、みりん、カレールー、うどん(乾麺)
【カスピス氷】
 カルピス、水
【とうもろこしの天ぷら】
 とうもろこし、小麦粉、水、揚げ油、塩
【映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具】
 花柄のついた家庭的なホーロー鍋、様々な色・形のどんぶり、モロゾフのプリンの容器、昭和40年代に建てられた団地

この記事で紹介している作品

 『海よりもまだ深く』
 『歩いても 歩いても』

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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