鍵を握るのは妻だった⁉ 佐村河内氏を追った『FAKE』で浮き彫りになる奇妙な夫婦の絆

コラム

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(c)2016「Fake」製作委員会

『A』『A2』の森達也監督が、佐村河内守氏を追ったドキュメンタリー映画『FAKE』。果たして「ゴーストライター騒動」の真相はどうだったのか? ということ以上に印象的だったのは、佐村河内氏と妻との“共犯関係”ともいえる不思議な絆です。

■スクリーンに映し出される、佐村河内氏の知られざる日常

今から2年ほど前に、いわゆる「ゴーストライター騒動」で世間の注目を集めた佐村河内守氏のその後を、オウム真理教を題材にした映画『A』『A2』で知られる森達也監督が追ったドキュメンタリー映画『FAKE』が、いよいよ6月4日(土)より劇場公開されます。

聴覚に障害を持ちながら「交響曲第1番 HIROSHIMA」を作曲したとして、多くの人々の感動を呼んだ佐村河内氏でしたが、ある日、音楽家の新垣隆氏が自らゴーストライターであったことを名乗り出た上、「佐村河内氏の耳が聞こえないと思ったことはない」と暴露したことから、長かった髪をバッサリ切って、サングラスを外して佐村河内氏が謝罪会見を開いた、という一連の騒動を懐かしく思い出す人も多いでしょう。

バッシングに打ちひしがれ、一人孤独に過ごしているのかと思いきや、甲斐甲斐しく身の回りの世話を焼いてくれる奥さんと、ちょっと太めの可愛い猫と一緒に、郊外のマンションでひっそりと暮らす佐村河内氏のもとを、森監督がカメラを持ってたびたび訪れ取材を行うのですが、スクリーンに映し出される食事のシーン(豆乳が大好きすぎて、すぐお腹いっぱいになってしまう!)や、手話通訳を務める妻・香さんとのやりとりによって、少しずつ佐村河内守という人の日常が浮き彫りになってゆきます。

映画の中で何度か繰り返されるのは「ぼくを信じてくれますか?」というやりとりです。森監督が佐村河内氏に「嘘はついていないですよね?」と確認する場面もありますが、監督自身も「信じてなきゃ撮れないですよ。心中ですよ」と語り、妻の香さんも「同じ船に乗っているようなものだから」と話すなど、取材に対するそれぞれの立ち位置も明確にされています。

■シリアスなのに、思わず吹き出してしまうほどユーモラスなシーンが満載

面白いのは、ドキュメンタリーなんだからシリアスに違いない、と思い込み、「真偽の程を自分の目で見てやろう!」と意気込んで劇場に足を運んだとしても、意外性に満ちた佐村河内氏のユーモラスな姿が次々と目に飛び込んできて、思わず吹き出してしまうようなシーンが、たびたびカメラに収められていることです。

さらには、某民放テレビのディレクターが番組への出演交渉に訪れ、佐村河内氏を口説き落とそうとする場面や、どこよりも突っ込みの厳しい海外メディアの取材を受けたりする場面にも森監督が立ち合ったり、ご両親が息子である佐村河内氏について語る場面も出てきたり、週刊文春で暴露記事を書いたライターに、森監督が賞を授与する機会があったりと、いろいろ「すごいな~」と思わされるポイントが満載なんです。

カメラは、佐村河内氏が出演を打診されていた年末の特番に新垣氏が代わりに出演し、お笑い芸人らとコントまがいのことを繰り広げるさまを、佐村河内氏が自宅のテレビで見る、というシュールな状況を捉えたかと思えば、取材になかなか応じてくれない新垣氏に対し、ショッピングモールで実施された新垣氏の本のサイン会会場に、アポなし取材に行く様子をも映し出し、いったいどこまでが真実で、どこからが演出なのか、と勘繰ってしまうほど複雑な様相を呈してゆきます。

ファッション誌にまで登場する新垣氏に対して、「さすがにやりすぎじゃない?」と苦笑いしていた観客も、当事者という立場に立ってみると、果たしてどのように感じるのか、と改めて考えさせられ、そして、「撮る側」と「撮られる側」が入れ替わることによって浮き彫りにされるものがある、ということを、この映画は体感させてくれるのです。

■「撮る側」と「撮られる側、そしてそれを「目撃する側」による共犯関係

ここで言う“共犯関係”というのは、何かよからぬことを一緒に企て犯罪に加担する、ということではなく、信頼関係や絆という名のもとに、もしこれが真実でなかったとしても、墓場まで持っていく。とことんまで騙されてやろう、という関係のこと。この映画を見ていると、そこまで思える関係が構築できるというのは、ある意味、すごく幸せなことなんじゃないか、とちょっとうらやましくさえ思えてくるから不思議です。

見方によっては、「メディア論」ともいえるし、「夫婦の愛の物語」であるともいえる、なんとも奇妙なドキュメンタリー映画『FAKE』。共犯関係を結ぶのは、佐村河内氏と妻だけでなく、森監督と佐村河内夫妻でもあり、この映画を観た観客と森監督でもあるのかもしれません。

でも、もしかしたら、本当にすべてを見ていたのは、佐村河内氏のペットの猫なんじゃないかな?と思ったりもするわけです。

『FAKE』  6月4日(土)よりユーロスペースにてロードショーほか全国順次公開

(映画ライター・渡邊玲子@HEW)

記事制作 : dmenu映画

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