900本の映画を世に出した伝説の男『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』

コラム

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文=平辻哲也/Avanti Press

ハリウッドがひれ伏した銀行マン
『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』
Don Camp

『薔薇の名前』『プラトーン』『ダンス・ウィズ・ウルブズ』『氷の微笑』『ターミネーター2』『眺めのいい部屋』『トータル・リコール』『ランボー/怒りの脱出』『恋人たちの予感』――。ジャンルはさまざま。監督、出演俳優も違う80~90年代のハリウッドのヒット作だが、一つの共通点だけがある。これに答えられたら、“映画検定1級もの”だろう。

答えは、製作費の融資に関わった銀行マンが同じ。その人物の名はフランズ・アフマン。彼は生涯900本の映画に融資した伝説のオランダ人銀行マンだ。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(60)など多作で知られるB級映画の巨匠ロジャー・コーマンでさえ、監督作は50本、製作本数は400本。この900本というのがどれだけ多いかが分かるだろう。

その知られざる生涯にスポットを当てたのが、ドキュメンタリー映画『ハリウッドがひれ伏した銀行マン(原題:Hollywood Banker)』(7月16日公開)だ。「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」との邦題を聞くと、金に物をいわせた銀行マンとも聞こえるが、出すべき映画に金を出していた審美眼を持った人物だった。銀行やカンヌ映画祭で彼を探すなら、プロデューサーらが行列を作った先を見ろというのが常識だったそう。

1987年の第59回アカデミー賞では、関わった作品が主要部門で8冠。オランダの『追想のかなた(未公開)』が外国語映画賞、『眺めのいい部屋』が美術賞、衣装デザイン賞、『プラトーン』が作品賞、監督賞、録音賞、編集賞を受賞した。『プラトーン』のプロデューサー、アーノルド・コペルソンは「本当に必要とする時に(ロケ地である)フィリピンのジャングルまで金を届けてくれた」と感謝した。オスカー授賞式では家族や友人の名前を挙げて、謝辞を述べるのが恒例ではあるが、銀行マンの名前が読み上げられるのは史上初だろう。

同作は当時、新進監督だったオリバー・ストーンが自身のベトナム従軍体験を基に映画化したもので、反戦的なテーマもあって、資金繰りには苦労をしたようだ。同年公開されたトム・クルーズ主演の『トップガン』は製作費1500万ドル。『プラトーン』は半分以下の600万ドルだったが、米国内だけでその20倍の1億3800万ドルの興収を記録した。

ハリウッドがひれ伏した銀行マン
ジェームズ・キャメロン監督(左)とフランズ・アフマン(右)
Don Camp

しかし、オランダの銀行マンがなぜ、ハリウッド映画に関わるようになったのか?

フランズ・アフマン氏は1933年生まれ。ロッテルダムのスレーブブルグ銀行に入行。そこで、エンタテインメント事業部を立ち上げ、フェデリコ・フェリーニの『道』、ルキノ・ヴィスコンティの『異邦人』などで知られるイタリア人大物プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスと知り合う。

75年、ラウレンティス製作、ロバート・レッドフォード主演のアクション『コンドル』で映画界のキャリアをスタート。翌76年には大作『キングコング』に関わる。81年に勤務先が仏クレディ・リヨネ銀行に買収された後も、エンタテインメント部門の責任者を務めた。初期の頃は、クレジットに名前がない作品もあるが、『スーパーマン?』以降は、「ファイナンシャル・コンサルタント」「モーション・ピクチャー・バンキング」などといった形で記されている。

多作の秘密は、新たな資金獲得の手法にあった。通常、映画は完成後に配給権などが売りに出されるが、企画内容を完成前に公表し、国内外の配給権やビデオ権、テレビ放映権を売って、出資を募る「プリセール」を確立した。分かりやすく言えば、映画の“青田買い”である。これによって、資金力のない新興インディペンデント系のスタジオが大作を作ることができた。一方、世界各国のインディペンデント配給会社もプリセールでアメリカの大作を買えるようになり、日本では東宝東和、日本ヘラルド、GAGAなどが恩恵を受けた。また、銀行側にも売却の手数料が入り、三者三様にメリットがある、というわけだ。

このプリセールは今では世界的に一般的な手法となっていて、最近の例で言えば、岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』はあらかじめ、韓国、香港などに配給権を売ることで資金調達に成功している。

ハリウッドがひれ伏した銀行マン
フランズ・アフマン(左)とジェフ・ブリッジス(右)
Don Camp

ドキュメンタリーの面白さは題材の魅力による部分が大きいが、アフマン氏はどんな場所でもビシッとスーツを着こなす伊達男で存在感があり、この作品にいい味を加えている。監督はこれが初のメガホンとなる娘のローゼマイン・アフマン。2000年、父フランズが末期の膵臓ガンであることがわかり、かねてから望んでいた回顧録代わりにドキュメンタリーを製作した。父から仕事ぶりを聞くのは、初めてだそうで、ワクワクしているのが画面からも伝わってくる。フランズは2011年5月4日に死去するが、その後も製作され、ロサンゼルスなどで映画関係者のインタビューを撮った。

フランズ氏の広い交友関係もあって、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』のケビン・コスナー、『プラトーン』のオリバー・ストーン、『トータル・リコール』のポール・バーホーベンらが証言者として登場。特に、ラストのバーホーベン監督へのインタビューは感涙モノだ。バーホーベンと言えば、『スターシップ・トゥルーパーズ』『ショーガール』など過激な暴力描写やネチネチした性描写が得意の監督だが、生まれて初めて泣かされてしまった。この言葉はぜひスクリーンで確認して欲しい。

フランズ氏の折り目正しい生き方と、娘ローゼマインの父を思う優しいまなざしがあいまって、感動的なドキュメンタリーに仕上がっている。

ハリウッドがひれ伏した銀行マン
『"ハリウッドがひれ伏した銀行マン』
Don Camp

『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』
7月16日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にてレイトショー!
ほか全国順次ロードショー
配給:アークエンタテインメント/東北新社 STAR CHANNEL MOVIES

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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