『日本で一番悪い奴ら』綾野剛インタビュー

インタビュー

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「スター」ではなく「役者」という立ち位置

映画『日本で一番悪い奴ら』は6月25日より全国公開

実際に起きた「日本警察史上最大の不祥事」と言われる事件を題材に、悪に染まる警察官を魅力たっぷりに演じた綾野剛。変幻自在にあらゆる役に挑み続ける彼は、この作品のどこに魅力を感じどう向き合ったのか。

■美しい映画の対極にある映画

Q:犯罪に手を染める警察官を描いたアンモラルな作品ですが、オファーは快諾なさったそうですね。
映画『凶悪』を撮られた白石和彌監督でしたから、オファーの段階で即答でした。ただ、「悪い奴を演じたい」というような表層的な発想ではないです。たぶん僕は役者の中でも作品で、相当人を殺してきたほうなので(笑)、今さらそんな願望はないです。単純に、世の中には美しい作品もあって、僕はそれも大好きでたくさん観ていますが、世の中それだけじゃいけない。対比があってこそ美しい映画がより美しく思ってもらえる。ですから、高倉健さんがやっていらした昔の東映の任侠映画みたいな、コンプライアンスとはある意味で遠い作品が、今の時代に作れるのはすごく意味のあることだと思いました。

Q:監督からはどのような要望がありましたか?
「甲子園を目指す高校球児で」と(笑)。犯罪ですが、僕が演じた諸星たちにとっては青春なんです。芝居とはいえ犯罪について罪の意識はあったのですが、「青春」という一言がそれを全部取り除いてくれて、「楽しい!」と思いながら撮影できました。

■役者としてのそれぞれの道

Q:こういうダーティな映画に出演することは、俳優さんにとってもリスクがあることではないですか?
それは、僕が周囲に恵まれているからできるのだと思います。僕はオファーをいただければゴールデンタイムも深夜ドラマも出演しますし、ローバジェット(低予算)の作品もアート系も単館系も、メジャー映画の作品でも出演したいです。暴力やアダルティーなR15も。映像全般を愛してやまないからです。その点を、各関係者の方や周囲のスタッフが理解した上でオファーしてくださる。作品を選ぶか良いイメージを選ぶかの二択になっちゃいけないと思うんです。その中でちゃんと貢献できるよう、精一杯やるということを認知していただけたので、ありがたいです。

Q:素晴らしい立ち位置です。
僕は「スター」ではなく「役者」寄りだと思っています。その部分では、小回りが利きやすいのかなと。スター性のある役者は、できることとできないことのジレンマがすごくあると思います。でも、僕にはスターのような華は絶対的にない。かたや、若い頃に主役をたくさん演じた反動で、今はちょっと変わったチョイスで面白おかしい作品に多く出演している役者もいます。みんなそれぞれの立場で新しいことに挑戦している。そこがいいんだと思います。僕自身は、何かに偏りたくない。偏らないことが固まらないことにつながって、固まらないことが変化を恐れないことにつながって、それが変化していくことにつながっていく。役者として、そうありたいですね。

■監督がすごく愛おしい

Q:役づくりはどのようにされたのですか?
僕は基本、役づくりはしないんです。諸星のモデルになった稲葉(圭昭)さんとお会いして、ものすごく引力のある方だと思いましたけど、僕は白石監督とともに稲葉さんの経歴をお借りして新しい人物をつくりました。いつもそうですが、僕は自分では1割の心を用意するだけ。残り9割は衣装部やメイク部と相談して、それを現場に持って行ってつくり上げるところに面白みを感じます。26年間の物語ですけど、時代に合わせてスタッフさんが衣装や小道具を用意してくださったので、そこの苦労はありませんでした。ただ、今回はあえて誇張して演じたり、声に変化を付け加えたりしました。大学を出たばかりのまっすぐさ、マル暴時代のドスの効いた声、銃器対策課の加齢臭がするような声、最後は薬をやっているのでかすれ声。今は携帯電話の時代なので、声の重要性はより大きいと思います。

Q:完成品をご覧になって、どう思われましたか?
こんなにも監督のことを愛おしいと思いながら観たのは、園(子温)監督以来だと思います。白石監督のブラックでチャーミングな部分がすごく表現されていると思います。この物語には暴力や犯罪が出てきますけど、決してそれを描きたいわけではなく、警察という日本で一番大きい組織の中で、関わった人間がどんなふうに生きていったかの人間讃歌です。そこが素晴らしいと思いました。僕にとって代表作になりえる作品ですが、それ以上に白石さんにとっても大きな意味のある作品になればいいと思っています。決してダークな作品ではなく、すごくポップな映画だと思いますし、観るとすっきりしてもらえると思うので、ぜひ映画館に足を運んでください。

取材・文:早川あゆみ 写真:高野広美

記事制作 : シネマトゥデイ(外部サイト)