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本当は、どんな素顔の人間だったのか? その謎がドラマチックな展開と共に解き明かされる、歴史上の偉人たちを主役に据えた映画は、今も昔も観る人の心を掴んで離しません。しかしこれ、よく考えると、演じる側の負担は相当なものではないでしょうか?
……例えば、日本史上の人物でいうと、源義経や織田信長くらい過去の人なら陰影のない平らな絵しか残っていないのですから、信長⇒面長&口ヒゲ、義経⇒弁慶並べたときに小男、くらいな接近の仕方で十分かもしれません。

しかし、近現代になると、勝手が違います。何故なら、写真、さらには映像資料が残っているからです。しかも今や、「調べよう」と思えば、すぐにYOUTUBEで貴重な演説映像などが閲覧できてしまう時代。要するに、ホンモノの姿・格好・声・仕草などの、諸情報全てが、一般大衆に共有されているのです。そんな中で、つい先ごろまで生きていたような20世紀の巨人を演じる俳優は大変です。見てくれだけではなく、話し方や動作の癖、何気ない所作まで体得しなければならないのですから。そこで今回、近現代史に残る歴史上の偉人を演じて、話題となった俳優とその作品を、いくつか紹介していきます。

1:『ヒトラー/最期の12日間』(2004年公開・独)アドルフ・ヒトラー×ブルーノ・ガンツ

さまざまな社会的制約・しがらみにより、真正面から映画の題材として扱いにくいナチス政権下のドイツ。にも関わらず、その総統・ヒトラーの人間的な部分を描いた、『ヒトラー/最期の12日間』は、公開当時大きな反響を呼びました。
主演の大役を担ったのは、ブルーノ・ガンツ。ドイツの国民的俳優である彼をヒトラー役に据えることは、監督の中で、似てる似ていないに関わらず、構想段階からの決定事項だったのだそうです。しかし、軍服を着て頭髪をセットし、チョビヒゲをつけると、これが期待以上に似ていることが分かります。
こうして大役を担ったガンツは、独裁者の内面の深いところまで表現する名演を披露。それが高く評価され、その年のアカデミー外国語映画賞にもノミネートされました。さぞかし、役作りには苦労したのだろうと思いきや、「本を読むくらいで、何ひとつ特別なことはしなかったよ」とのこと。ナイーブかつ癇癪持ちで、コンプレックスの塊…そんな人間・ヒトラーは、ドイツの名優・ガンツにとっては案外、演じやすい役だったのかも知れません。

2:『マリリン 7日間の恋』(2011年公開・米=英)マリリン・モンロー×ミシェル・ウィリアムズ

1956年、マリリン・モンローは、ロンドン・ヒースロー空港に降り立ちます。映画監督で名優のローレンス・オリヴィエと共演する『王子と踊子』の撮影のためです。その撮影期間中に出会った助監督の青年との恋愛を描いたのが、この『マリリン 7日間の恋』です。
主役のマリリンを演じたのは、ミシェル・ウィリアムズ。顔立ちは、正直、そこまで本人に似ていません。しかし、ファンの前でポーズを決めたり、口を大きく開けて笑う仕草、さらに何気ない所作の一つひとつまで、びっくりするくらい、かつての大女優そのもの。とびきりキュートでゾクっとするほど妖艶なマリリンの魅力を、見事なまでに憑依させているその演技は、圧巻の一言です。

3:『太陽』(2005年・露) 昭和天皇×イッセー尾形

昭和天皇の“人間”としての姿に初めて切り込んだ映画。これを制作したのは、ロシアの映画監督でした。言論の自由が広く認められて久しいはずの現代でさえ、日本には「菊タブー」と呼ばれるメディアへの圧力が未だ根深く存在し、国内の創り手たちも、それに抗するほどの勇気や熱意を持ち合わせていなかった、と言えるかもしれません。
さて、そんな本作において、昭和天皇を演じているのは、舞台俳優のイッセー尾形。タブー中のタブーに挑んだ彼の心境は、どのようなものだったのでしょうか? ある時は威厳たっぷりに、ある時は拍子抜けするくらい飄々とした一人の紳士として、人間・ヒロヒトの姿を、軽妙に演じています。イッセー自身の風貌は全くといっていいほど本人に似ていないのに、仕草や表情でそっくりに見せているのは、さすがプロの業といったところでしょう。

●文 ロックスター小島

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