監督・脚本・美術・撮影など全作業をほぼ1人で行って制作された短編アニメ『ほしのこえ』で「文化庁メディア芸術祭 特別賞」など数々の賞をかっさらい、日本アニメ界にその名を知らしめた新海誠監督。

これまでアニメファン以外にその力量はなかなか伝わっていませんでしたが、私は、1人の新海監督ファンとして、ついに彼の名前が天下に轟く日が来たと震えています。最新作『君の名は。』(8月26日より全国東宝系にて公開)は、間違いなく新海監督のキャリアは今後、この作品以前/以後で語られることとなるでしょう!

神木隆之介&上白石萌音、声で魅せる演技がすごい!

1000年ぶりとなる彗星の来訪を1か月後に控えた日本。山深くの田舎町に暮らす女子高生・三葉と、東京で暮らす男子高校生・瀧は、自分たちの中身が時々入れ替わっていることに気づく。2人は、入れ替わった日はお互いメモを残すように取り決め、徐々に打ち解けていく。しかしある日、突然入れ替わりは終わった。そして瀧は居場所も知らない三葉を探しに出かけ、驚愕の真実を知る――。

風景描写の美しさに定評がある新海監督ですが、本作でもその手腕が光っています。三葉の暮らす田舎町の、自然やお祭り、“口噛み酒”の儀式など地方の風習が魅力的に描かれているのはもちろん、監督の手にかかれば、見慣れた新宿の風景だって美しいものへと変わります。澄んだ青空に向かって高層ビルがすっと伸びている様子は、なんだかとても爽やかで、三葉ならずとも「素敵!」とため息をついてしまうことでしょう。

もちろんキャスト陣の熱演もポイント。瀧役を神木隆之介、三葉役を上白石萌音が担当していますが、どちらも声の演技に違和感がまったくありません。「三葉と入れ替わった瀧」「瀧と入れ替わった三葉」なんて演技もなんなくこなしています。また瀧が憧れる奥寺先輩役の長澤まさみも「こんな声、出せたんだ!」と驚かせてくれますし、三葉の祖母役の市原悦子の語る昔話も耳に心地よく、あと三葉の妹の四葉役、子役の谷花音ちゃんは、この演技でまだ12歳って本当ですか!?  とにかく本職声優以外の声の演技にありがちな、「せっかく良いシーンなのに棒読み……」なんてことへの心配はしなくて大丈夫ですよ!

生きること、恋をすること、好きな人と触れ合うこと。この映画は、東日本大震災以降、“突然日常を襲う何か”への不安が常に漂うような時代の空気の中で生まれた、祈りのような作品なのかもしれません。

新海監督のブレークスルーに?

セカイ系の代表的クリエイターとして知られる新海監督は近年、SFから現実的な世界観でのラブストーリーを作るようになったものの、“キミとボク”的な閉じた雰囲気のためか、劇場映画としては物語展開がコンパクトで、良くいえば通好み、悪くいえば取っつきにくい印象もありました(好きだけど)。

ですが『君の名は。』では、さまざまな伏線が張り巡らされ、物語も劇場スケールの展開に! “入れ替わった生活を描く”という前提があるからこそ、それぞれの暮らす環境や交友関係などがしっかり描かれ、主人公とヒロイン以外にも魅力的な人物が続々と登場し、物語の幅がグッと広がっています。それでいてメイン2人の濃厚かつ繊細な心理描写はそのままなのですから、さすがの一言です。

近頃アニメファン以外からも知られるアニメ監督といえば、ほとんど細田守(『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』など)の一強体制でしたが、新海監督が『君の名は。』でその状況に待ったをかけるような気がしてなりません。来年からは夏の劇場アニメといえば、“細田守”と“新海誠”が並べて語られるようになりそう!

(文/原田イチボ@HEW)