橋本愛&宮﨑あおいの“新たな魅力”に感動! 話題作『バースデーカード』監督の演出術と女優魂

インタビュー

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『バースデーカード』

取材・文=大谷隆之/Avanti Press

橋本愛と宮﨑あおいが、時空を超えた母娘役で競演した話題作『バースデーカード』。余命の迫った母親が、未来の子どもたちに向けて誕生日のメッセージを綴るという愛情あふれる物語だ。オリジナル脚本も手掛けた吉田康弘監督は、2007年のデビュー作『キトキト』で主演・大竹しのぶにその演出力を絶賛された経歴の持ち主。そんな俊英は今回、日本映画を牽引する女優2人の新たな魅力をどう引き出したのか? 作品に込めた思いを伺った。

Q:まず最初に、母親を演じた宮﨑あおいさんのキャスティングについて教えてください。

A:あおいさんは、透明感があるのに芯は強くて、しかも映画ではまだあまり母親のイメージがないでしょう。文字どおり引っ張りだこの女優さんなので、本当に出演してもらえるとは思ってなかったんですが(笑)。脚本を読んで、気に入ってくださった。通常、劇中で死ぬ役にはあまり興味を持てないことが多いそうですが、『バースデーカード』はその瞬間をあえて描いてないこと、観客を泣かせる方向に引っ張っていないところに共感しましたと、後で話してくれました。僕自身、この映画で一番撮りたかったのは、子どもたちの顔を思い浮かべながら「さあ、どんな手紙を書こうかな」と思案しているお母さんの、希望に満ちた表情だったので。こちらが伝えたいエッセンスを、シナリオから感じとってくださったんだと思います。

Q:実際に現場で向き合ってみた印象はいかがですか?

A:脚本の芯となる部分を自分なりにギュッと掴んでしまわれるので、事前に細かい質問とかはほとんどされない。その分、現場での集中力の高さには常に圧倒されました。控え室から出てきてテストをする段階で、もう完全に役柄に入っているのがわかるんですね。カメラ位置やライティングを決めるためにはどうしても必要なんですが、そのお芝居がもったいなくて……テストを途中で切り上げて、すぐ本番に入ることも多々ありました。同じシーンを別アングルから撮る場合もそう。あおいさんは、セットチェンジの間も決して控え室には戻らず、現場の隅っこで黙々と、役柄上の趣味でもある編み物を続けている。そうやってしっかりと繋がった母親の気持ちを、そのまま映像に収めたくて。スタッフも僕も、とにかく早く撮影を再開しようと必死でした。

Q:手紙を朗読する宮﨑さんの声も素敵でした。

A:そう! 感情を抑えた読み方なのに、存在感がすごいでしょう。映画では橋本愛ちゃんがバースデーカードを開く芝居のうえにあおいさんの声が重なるわけですが、実はあの声はすべて2回ずつ録ってるんですよ。

Q:どういうことでしょう?

A:あおいさんはまず1回、愛ちゃんの感情を引き出すためだけに、現場で朗読してくれました。撮影が終わった後、たとえばスタッフが片付けをしてる横で録ったりしたものなので、ノイズが入ってもちろん映画本編には使えません。でも、もう反則技みたいに聞く人の心を揺さぶるんです(笑)。なので今回、愛ちゃんがお母さんの手紙を読むシーンでは毎回必ずあおいさんの声を流して撮影しています。それもテスト段階では白紙のカードを渡しておいて、本番で初めて実際の手紙と声に出会うようにした。いわばあおいさんが、その場にはいない共演者として愛ちゃんの気持ちを高めてくれた。劇中に使用したナレーションは後日、スタジオで撮りなおしています。

Q:吉田監督らしい細やかな演出術ですね(笑)。

A:いやあ、実際には女優さんのプロ意識に助けられている部分の方が大きいですよ。たとえば愛ちゃんは自分の出番がない日も現場にきて、あおいさんの演技を真剣に見つめていました。自分が演じるのは成長してからの娘なので、2人は本来、同じ空間には存在できない。それでもお母さんの声や表情を記憶しておきたいからと言って、自分の姿があおいさんの視線に入らないよう気を遣って、空気のように気配を消してモニターを眺めていました。それについて僕は何ひとつリクエストしていません。すべて愛ちゃん自身の意志です。

『バースデーカード』

Q:女優・橋本愛を演出してみた感想は?

A:僕らが想像していた以上に、いろんな表情を生き生きと表現できる方だなと。今回、彼女が演じたのは17歳から25歳までの女性──思春期から大人へと、人生のなかで一番ダイナミックに成長する時期だったんですが、そういう幅を自然に出せる女優さんって本当に少ないと思うんです。これまでは、ちょっと人当たりがキツかったり心に闇を抱えたような役どころも多かったんですが、『バースデーカード』では映画ファンがイメージするのとはまた違う、本当に普通の女の子っぽい瞬間もたくさん見せてくれました(笑)。その意味では、新しい魅力も引き出せてるんじゃないかと思います。

Q:間違いなくこれからの日本映画を引っ張っていく女優2人が同じ撮影現場にいながら、物語の性質上、その2人を同じフレームに収めることはできない。監督としてフラストレーションはたまりませんでしたか?

A:そこは最後の最後までグッとがまんしました(笑)。2人を同じショットに収めれば絵になることはわかっていますが、それは本当の話に嘘を塗り重ねることになる。それは避けたかったんですね。映画のなかで一箇所だけ、2人が同じ空間を共有するシーンがありますが、あおいさんも愛ちゃんもそのことを深く理解していて、本番までほとんど目を合わせなかった。だからこそ画面に映った2人の視線にグッとくるんじゃないかなって。手前味噌ですが、そんな風に思っています。ラストシーンのカメラワークには僕たちスタッフの思いが集約されているので、注目していただけるとすごく嬉しいですね!

Q:最後に改めて、この物語の成り立ちを教えてください。

A:はい。余命を悟ったお母さんを描いたノンフィクションのお話をプロデューサーから渡されたのがきっかけです。正直に言いますと、いわゆる難病ものや悲しいお話というのはあまり得意じゃないんです。ただ、残された子どもたちがお母さんの手紙を読みながら成長していく姿がきちんと描ければ、観た人に希望を感じてもらえるかもしれない。亡き母と娘の、一風変わったバディー・ムービー(相棒もの)だったら面白いなと思って、シナリオを練りはじめました。それが2010年から翌年にかけてで、企画の実現に5年かかってしまいました。

Q:吉田監督のデビュー作『キトキト!』は、バイタリティーの塊だったはずの母親(大竹しのぶ)がある日、突然世を去って、息子(石田卓也)がぼう然と取り残されてしまうお話でした。

A:1作目ということもあって、『キトキト!』には自分自身の経験がかなり投影されています。主人公の台詞は、完全に僕の気持ちを代弁していて……実際に亡くなったオカンに向けて語りかけているところがありました。一方、今回の『バースデーカード』には、親の目線と子どもの目線がほぼ均等に入っている。実はこのシナリオを書いている途中で、僕にも子どもができたんですね。東日本大震災の4日前だったんですけど、親になって初めてわかる気持ちというのはやっぱり多かった。たとえば昔は「オカンは僕のために、自分の人生を犠牲にしたんじゃないだろうか」と感じていたのが、子どものために頑張ったり背伸びしたりするのは親自身の幸せでもあるって、素直に思えるようになりました。僕の場合、父母は両方とも他界してしまいましたが、子どもに接しているとき、かつて言われた何気ない言葉を思い出したりするんですよね。そういう変化はおそらく、作中の会話にも滲んでいるんじゃないかなと思います。

『バースデーカード』

吉田康弘 1979年、大阪府出身。井筒和幸監督作品『ゲロッパ!』(2003)の現場に見習いとして参加し映画の世界へ。その後、『パッチギ!』(05)、『嫌われ松子の一生』(06)などの制作に参加。『キトキト!』(07)で監督デビュー。主な作品に『ヒーローショー』(10、脚本)、『黄金を抱いて翔べ』(12、脚本)、『旅立ちの島唄~十五の春~』(13)、『江ノ島プリズム』(13)、『クジラのいた夏』(14)。TVドラマ「埋もれる」(14)、「びったれ!!!」(15)などがある。

『バースデーカード』
2016年10月22日(土)公開
(c)2016「バースデーカード」製作委員会

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)