【映画の料理作ってみたら:番外編】タカアシガニを食べてみました『湯を沸かすほどの熱い愛』

コラム

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文=金田裕美子/Avanti Press

11月。そろそろ日本海のカニ漁が解禁になる季節です。カニ。かに。蟹。なんて甘美な響き。実はわたくし、カニ好きが高じて友人たちと毎年「カニツアー」なるものを実施、美味しいカニを求めて北海道からスワイガニ(越前ガニ、松葉ガニ!)で有名な日本海側の各県、さらには韓国までも行ってしまったほどのカニオタクであります。

『湯を沸かすほどの熱い愛』
の舞台に大きなカニを食べに

そんなわたくしが、ちょっと珍しいカニの登場する映画があることを聞きつけました。『湯を沸かすほどの熱い愛』。宮沢りえ、オダギリジョー主演の、ハンカチどころかバスタオルが必要なほど泣けてしまう(そして笑ってしまう)と評判の作品です。何度か出てくる食事のシーンが、大事に丁寧に描かれていて、しかもストーリーに巧みに生かされているところも面白い。主人公たちが「湯を沸か」してカニを茹でるわけではありませんが、カニオタクの「映画の料理作ってみたら」担当としては黙って見過ごすわけには参りません。今回はこの珍しいカニを食べちゃいたいと思います。

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『湯を沸かすほどの熱い愛』新宿バルト9ほか全国でロードショー中
(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

映画の舞台は幸野家が営む銭湯「幸の湯」。でも1年前に父・一浩(オダギリジョー)が「湯気のように」蒸発して以来銭湯は休業中で、母・双葉(宮沢りえ)はパン屋のパートで家計を支えながら16歳の娘・安曇(杉咲花)と2人で暮らしています。そんなある日、双葉は末期がんで余命いくばくなくもないことを知らされます。夫は依然行方知れず、娘はどうやら学校でいじめにあっているらしい。夫を連れ戻して銭湯を再開し、気弱な娘を自力で生きていけるようにするまでは、死んでしまうわけにいかない! ここから双葉のこれまで以上の奮闘が始まります。

幸野家には、毎年同じ日に西伊豆の知人からカニが送られてきます。いつもは3人で食べるカニも、今年は2人なので思う存分食べられそう。このカニが、おなじみのズワイガニでも毛ガニでもタラバガニでもワタリガニでもサワガニでも上海ガニでもない、タカアシガニなのです! 映画のセリフにもあるように、タカアシガニは深海に生息する世界最大の甲殻類。大きいものは、ハサミを広げるとなんと全長4メートル近くにもなるとか。カニ料理より水族館でおなじみのカニかもしれません。

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双葉は探偵を使って一浩を探し出し、一浩が「浮気相手との間にできた自分の娘らしい」という鮎子(伊東蒼)と共に家に連れ戻します。鮎子にも自分の娘と同じように接する双葉。ある日思い立って「タカアシガニ食べに行こう!」と安曇と鮎子を一泊旅行に誘います。そして借りた自動車で3人が向かうのが、毎年カニを送ってくれる知人の住む西伊豆の港町、戸田。これ、「とだ」ではなく「へだ」と読みます。

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『湯を沸かすほどの熱い愛』新宿バルト9ほか全国でロードショー中
(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

タカアシガニは漁獲量が少なく、市場にはほとんど出回っていないそうです。食べるなら、タカアシガニの漁獲量日本一で、テレビなどでもよく紹介されている戸田に行くしかありません。でもそんなに大きなカニを、現地で買って茹でられるのか。どれだけ大きな鍋が必要なんでしょう。第一、どこで茹でるのか。海辺で火を焚いて……というわけにもいきません。「映画の料理作ってみたら」をうたうこのコラムではありますが、もろもろ考えた末、ちょっとだけ(けっこう)ズルすることに。タイトルを今回だけ、「映画の料理作ってもらってみたら」にしちゃいます。

「映画の料理作ってもらってみたら」
というわけで戸田へGO!

自分で作らないなら楽ちんです。西伊豆の小さな港町・戸田と、世界最大のカニ、タカアシガニ。どんなところなんだろう、どんなカニなんだろう、とカニオタクの私は胸を躍らせて伊豆に旅立った……と言いたいところですが、全然そうではなかったのです、白状すると。実は、我が家のルーツはまさにここ戸田。父方も母方も、ご先祖様は戸田出身。ゆえに子どもの頃から法事やら夏の海水浴やら、何度も来ている馴染みの町なのであります。映画にも親戚の家がばっちり写り込んでおりました。

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戸田の港はこんな感じ。水も超きれいです

タカアシガニも、もちろんしょっちゅうではないものの、親戚が集まった時などに食べていた馴染みのカニ。「え、タカアシガニって食べられるの?」と言われたことがありますが、私は水族館で展示されているのを見た時のほうがびっくりしました。開きでないホッケが水族館の水槽を泳いでいるのを見た時の衝撃のよう、といいますか。

そんなわけで、双葉たちと同じく自動車で戸田に向かいます。以前は沼津港と戸田を結ぶ高速船、ホワイトマリンが運航しており、西伊豆のごつごつした海岸線と、天気が良ければ駿河湾の向こうに富士山の絶景を眺めながら戸田入りすることができたのですが、乗客の減少に伴い数年前にこの航路は廃止に。うーん、とっても旅行気分の盛り上がる船旅だったのに、残念。

でも陸路で戸田入りする時にも絶景を見ることができます。映画にも登場する、高いところから戸田の町全体を見下ろすショット。これは伊豆最古の温泉地、修善寺から戸田に向かう途中の戸田峠にある瞽女(ごぜ)展望地からの眺め。港を守るように細長く伸びた岬が、ちょっと天の橋立みたいです(先はつながっていませんが)。港の内側にある御浜(みはま)は、夏は海水浴場として賑わうところ。わたくしも子どものころは、底まで透き通ったきれいな海で、下を泳ぐ魚たちを何時間も眺めていたものです。

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戸田峠にある瞽女(ごぜ)展望地からの眺め

意外に標高の高い戸田峠から降りて行くと、詰まった感じの耳が抜けると同時に戸田の町に入ります。そのどんつきが港。ここからすぐのところに、映画にも登場したカニ屋さん、その名も「お食事処かにや」があります。

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1階では海産物などのお土産が売られており、大きな水槽には活タカアシガニがうじゃうじゃ。2階が食堂になっています。映画と同じくお座敷のテーブルに陣取り、映画と同じくタカアシガニを1匹オーダー。注文が入ってから茹でるので、20分ほどかかります。じゃあ、とついでにこれも戸田名物である深海魚の唐揚げをお願いしました。これは全国的にはメヒカリ、戸田的にはトロボッチと呼ばれている魚であります。

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港の向かい側にある御浜からの眺め。ホントにきれいなんです!

さくさくのトロボッチを食べながらカニを待つ間、あの漁船でカニを獲りに行くのかなあ、などとぼんやり考えながら戸田港を眺めます。戸田からもう少し南に下ると、温泉と金山で有名な土肥(とい)の町があります。タカアシガニは、昔はあまり食べることがなかったそうですが、私が想像するに、当時は伊豆で唯一温泉も出ないし、お隣土肥のように金(きん)も出ない戸田の人が、町おこしに何か特徴のあるものを!とタカアシガニを名物にすることを思いついたのではないでしょうか。ちなみに、戸田で温泉の掘削に成功したのは1986年。伊豆で一番新しい温泉です。私の母は、どこぞのおばあちゃんが “戸田は温泉が出る”と言い遺して亡くなった、本当だった、と言っておりました。

タカアシガニ、いざ実食!

さて、タカアシガニが茹であがりました!

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まっか! アツアツです。

やっぱりでかい。甲羅も人の顔くらいでかい。このまま「はいどうぞ」と渡されたら途方にくれてしまいそうですが、お店の人が食べやすいようにハサミで解体してくれます。

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もう「映画の料理作ってもらって何から何までしてもらってみたら」です。

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解体終了。いただきまーす!

まずは赤と白のまだら模様の長ーい足を1本取って、切り込みの入った関節のあたりからポキリ。するとこれまた長ーい身がしゅるしゅるーっと出てきます。これまで何度も見てきた光景ではあるものの、「おおー」と思わず声が出てしまいます。幸野家の子どもたちと同じく、大はしゃぎでカニの足を上にかかげ、パン食い競争のごとく下からガブリ。これです!これぞタカアシガニの醍醐味!カニの身を口いっぱいに頬張る、なんてことができるのはこのタカアシガニならでは。双葉たちと同じく私たちも3人でカニ1杯でしたが、これだけ大きいので充分お腹がいっぱいになりました。満足。

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世界最大の甲殻類の足を裸にしちゃいます。でかっ

映画で戸田についたばかりの子どもたちが「もしかしてあれって……」と富士山を見て歓声をあげる、灯台のある岬の外海側にも行ってみました。あいにく曇っていて富士山の姿は見えませんでしたが、それでも十分満足できる景色でした。見慣れた場所も、映画を見た後に見直すと一層感慨深く、改めて「きれいだねえー」とため息が出てしまいます。私の子どもの頃のような賑わいはすっかり影をひそめ、寂れた雰囲気になってしまった戸田ですが、この美しさはもっと多くの人に知ってもらったほうが絶対に良い! 戸田には昨年、温泉施設もついた道の駅「くるら戸田」(「くるら」は地元の言葉で「くるでしょ?」の意)もできたので、伊豆にお越しの際はぜひお立ち寄りください! と何だか勝手に観光大使のような気分になったのでした。

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天気が良ければ、この向こうにばーんと富士山が見えます

「映画の料理作ってみたら」ならぬ「映画の料理作ってもらって何から何までしてもらってみたら」、とっても楽しゅうございました。これを機に、映画のロケ地を訪ねてその土地土地の美味しいものをただひたすら食べ歩く「映画の料理食べに行ってみたら」という企画はどうでしょう? ダメ?

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帰りには伊豆・三津シーパラダイスで双葉と鮎子のようにクラゲも眺めてきました。もちろんタカアシガニもいました

お食事処 かにや 戸田本店
〒410-3402 静岡県沼津市戸田354-4
TEL 0558-94-2235
FAX 0558-94-2239
【営業時間】10:30~16:00
【休業日】月曜日・火曜日・不定休

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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