文=高村尚/Avanti Press

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『君の名は。』
(C)2016「君の名は。」製作委員会

飛騨市の粋な計らいで実現した
ロードショー中の上映会

興行収入176億円を超え、快進撃を続けるアニメーション映画『君の名は。』の特別上映が、同作の“聖地(モデルとなった場所)”のひとつである岐阜県飛騨市の文化交流センターで行われた。

本作は、予知的な運命により、田舎町に住む女子高生と、東京に住む男子高生の肉体が入れ替わり、時空を超えて“出会う”物語。

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飛騨市文化交流センターでの上映会当日の様子

田舎町のモデルとなった岐阜県飛騨市の人口は2万4388人。この町に映画館はない。一番近いのは富山県富山市の「TOHOシネマズ ファボーレ富山」で、そこまでは電車で片道約2時間、自家用車では1時間半かかる。今回の上映は、映画の舞台を訪ねる“聖地巡礼”者が増える中、当の飛騨市民が映画をなかなか見られない状況にあることを憂慮した市が、配給会社・東宝に働きかけたことで実現した。

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上映会では新海誠監督のビデオメッセージも流された

実はこれ、とても異例なこと。ロードショー中に映画館以外で映画が上映されることはまずない。上映会のチケット料金も、一般1600円、大学生1300円、高校生以下800円、シニア900円と、本来の価格より100円から200円安い。この価格設定は行政からの市民サービスとのこと。Twitterには、飛騨市の上映会開催という粋な計らいと価格設定に、“太っ腹”と羨む他市からの書き込みも見られた。

『君の名は。』の大ヒットにより、飛騨市の認知度もあがったと手ごたえを感じるのは、飛騨市役所商工観光部観光課の横山理恵さん。訪れるファンの傍若無人な振舞いが問題視されることもある聖地巡礼。敬遠する“聖地”も少なくないが、飛騨市は歓迎しているという。もっとも飛騨市を訪れる方は、礼儀正しく舞台となったスポットを楽しんでくださる方が多く、一般的な聖地巡礼のケースより、幅広い年齢層かつ女性の比率も多いのだそう。「20代と思われる若い方々が街を歩かれる姿を多く見かけるようになり、街に活気がでてきたように感じます。近年の飛騨市ではあまり見られない光景でしたので」と横山さん。

市では「【飛驒市版】映画『君の名は。』を探す旅!(https://www.hida-kankou.jp/model/1000000603/)」なるモデルルートをWEB上に作成。ここではヒロイン、三葉が住む糸守(架空の町です)を7時間かけて回るコースが紹介される。メイン舞台である古川町の古い街並みや、宮川町のバス停など、これからの季節は紅葉も楽しめるコースとなるのではないか。

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左上から時計回りに飛騨古川駅、飛騨古川駅前、気多若宮神社、宮川町落合

魅惑の飛騨市!高山の古い町並や伝統文化から
『君の名は。』に「スーパーカミオカンデ」まで

『君の名は。』飛騨市上映会のチケット約2000枚は、発売から2時間ほどでほぼ完売。鑑賞した人々は、登場する飛騨市の舞台を、「あの場所だね」「きれいだね」などと楽しんだと言い、「感動しました」「泣きました」と映画そのものの満足度もかなり高かったという。「飛騨市の魅力である自然が本当に美しく描かれており、改めて飛騨市がよいところであると実感された市民も多かったようです」と前出の横山さん。

その鑑賞者の内訳はと問うと、60歳以上がダントツだという意外な答え。「シニア」チケットの売上枚数は、20代から50代という幅広い世代を含む「一般」とほぼ同数。次いで高校生以下、大学生の順となるとの答えが返ってきた。大学生や高校生など時間と行動力のある年齢層はすでに近隣の映画館で鑑賞済み。アニメーションを見る習慣がなく、劇場での鑑賞から久しく遠のいているシニアや、働き盛りの一般層、足が確保できない小・中学生以下が多くなるのは仕方がない。その一方で横山さんは、「これは飛騨市の人口構成をそのまま反映しているとも言えます」という。「ですので、映画をご覧になり、飛騨市へ遊びに来ていただくだけでなく、地元出身の方のIターンやVターン、この地を魅力的と感じた若い方の移住などにもつながっていくと嬉しいですね」。そういえばノーベル物理学賞を支えた素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」があるのも飛騨市。その施設を見学するイベントなど他が真似のできない文化活動を行ってきた飛騨市は、知れば知るほど魅力的な場所だ。

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『君の名は。』
(C)2016「君の名は。」製作委員会

『君の名は。』の鑑賞者に、シニア層、小・中学生が少なかったのは飛騨市だけの傾向ではない。国民的映画となりつつある今、本作は観客層をさらに上下へと広げていくだろう。飛騨市は今回、チケットを買えなかった市民のために、さらなる上映会の開催を発表した。1本の映画がどこまで地域の活性に貢献するのか、『君の名は。』のポテンシャルは計り知れない。

『君の名は。』全国東宝系にてロードショー
【声の出演】神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ、市原悦子
【スタッフ】監督・脚本:新海誠 作画監督:安藤雅司 キャラクターデザイン:田中将賀 音楽:RADWIMPS
(C)2016「君の名は。」製作委員会
【公式サイト】http://www.kiminona.com/