『君の名は。』米メディア“矛盾”を指摘しつつも「一流」と絶賛

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文=ロサンゼルス在住ライター 鈴木淨/Avanti Press

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『君の名は。』全国東宝系にてロードショー
(C)2016「君の名は。」製作委員会

日本で記録的なヒットを続ける『君の名は。』(英語タイトル“Your Name”)の米公開スケジュールが具体的になってきた。北米配給を務めるファニメーションが、12月2日(金)から8日(木)までロサンゼルスの1館で限定公開を行い、さらに来年初めに規模を拡大した上映を予定していると発表した。

12月の1週間限定公開は、第89回アカデミー賞(来年2月)の長編アニメーション部門にノミネートされる資格を得るために行われる。審査対象作品となるには、今年中にロサンゼルス郡内の劇場で最低7日間連続で商業公開を行うことが条件となるからだ。

これまで韓国、スペインで映画賞を獲得してきた『君の名は。』が、本格的な米国上陸を果たすことになる。北米上映とアカデミー賞の行方を占う上でも、ハリウッドの映画人たちが同作をどう評価するかは気になるところだろう。

ちょうどこのタイミングで、米映画界での注目度が高い2大エンタメ業界誌「ヴァラエティ」「ハリウッド・リポーター」による同作への批評が出揃ったので、その内容を紹介していこう。結論から言って、両誌とも概ね高く評価している。

「魅力的で、型破りな恋愛映画」
「ほろ苦く、信じ難いほどのロマンス」

まず、物語についての「ヴァラエティ(以下、V誌)」の記述が印象的だ。「多くの恋愛映画は出会いで始まり、そこから進展していくが、『君の名は。』では、主人公2人が本当に出会えるのかどうかもわからない。このジャンルの伝統的ルールは適用されず、空想的な前提がベタな『出会いのときめき』を無視し、『いつか巡り会うかもしれない2人』を描いていく。タイムトラベルと“体の入れ替わり”とパニック映画の愛らしく風変わりなミックス。極めて魅力的で、型破りな恋愛映画だ」。

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『君の名は。』全国東宝系にてロードショー
(C)2016「君の名は。」製作委員会

「ハリウッド・リポーター(以下、H誌)」も、「主人公2人が互いの名前を覚えておこうと努め、巡り会いを求める様子が、ユーモアと神秘的な暗示を織り込んだ、ほろ苦く、信じ難いほどのロマンスを生んでいる」と称えている。

さらに同誌は、「映画の後半にエネルギーを与えている迫り来る自然災害は、東日本大震災による被害のトラウマを呼び起こす。新海誠監督は、ハングリーなアニメファンの支持を受ける多くの要素を積み上げた」とも述べている。

「新海誠の名を西欧に知らしめる新作」
「一流の日本アニメの趣」

また、「この新作は新海誠監督の名前を西欧に知らしめるだろう」(V誌)「一流の日本アニメの趣がある。新海の評判を世界のアニメファンに認知させる作品」(H誌)と両誌揃って監督の手腕に賛辞を贈っている。

具体的な内容はこうだ。「新海ほど美しい空や風景を表現できるアニメーターは探すのが難しい。特にスタジオジブリの宮崎駿、高畑勲の引退もあって手描きアニメーションが衰退すると言われる中、新海は自ら編み出したというオール・デジタルのアプローチで、手描きアニメーションの伝統が死んでいないことを証明している」「彼のトレードマークである超リアルな背景描写は絵画以上で、古いセル画の技術では決してできなかった新しいきらめきを全体像に与えている」(V誌)。

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『君の名は。』全国東宝系にてロードショー
(C)2016「君の名は。」製作委員会

「同作の優れた点は、示唆に富み、想像を掻き立てるオープニング・シークエンスに見られるような、美しく深みのあるアニメーションそのものにある。新海による建物や景観のリアルな描写は、ほとんど写真を超えている」(H誌)。

どちらも、過去の新海作品も例に挙げて説明するなど、よく勉強して批評していることがわかる文章になっている。それだけ、この監督に関心があるということだろう。

「キャラクター描写」
「時間と空間の超え方」には苦言も?

しかし、称賛だけで終わらないのがハリウッドの映画評。ややネガティブなコメントも紹介しよう。

H誌は、「宮崎駿や細田守の描く人間性や洞察力の深さには、まだまだ及ばない。主人公2人の物語は心に大きく響いてこない。それは恐らく、背景にある彼らの『家族からの独立性』が、彼らを抽象化してしまっているからだろう」とキャラクター描写の厚みの足りなさを指摘。また、特に日本の若年層に好まれたと言われる音楽の使い方に関しても、「RADWIMPSの楽曲が、時に煩わしいほど現代的で陳腐なビートを(作品に)与えている」と苦言を呈した。

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『君の名は。』全国東宝系にてロードショー
(C)2016「君の名は。」製作委員会

そして、V誌が「タイムトラベルの矛盾は説明がつかない」と述べるように、2誌そろって疑問符を付けたのが、「時間と空間の超え方」だった。H誌は批評の冒頭で、「矛盾をはらんだSFファンタジー。解釈については、ネット上でメインターゲットであるティーンの論争が起こりそう」と記している。

SFファンの多い米国では科学的整合性へのこだわりが強い傾向があるものの、説明のつかないファンタジーが受け入れられないということもない。それでも、『君の名は。』のある意味、日本文化的なファンタジー(時空の超え方)は、少しアメリカ人に理解しにくい部分があるのかも知れない。

とはいえ、H誌が「もし最終的に理解できなくても、十分に魅力的な作品だ」とまとめているのを見ると、あまり気にする必要もないのだろう。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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