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主人公・古谷が教える映画学校の女子生徒・結花役には、芦那すみれ。(C)2016 日活

取材・文=大谷隆之/Avanti Press

気鋭の監督5人が、「総尺80分前後」「10分に1回の濡れ場」「制作期間1週間」など同じ製作条件のもと、完全オリジナル脚本で競作する「日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」。かつて日本映画が低迷していた1971年から1988年にかけて約1100本もの成人映画を送り出し、数多くのアバンギャルドな傑作、才能ある監督・脚本家を育てた「日活ロマンポルノ」のスピリットを現代に継承するという意欲的な企画だ。その第1弾『ジムノペディに乱れる』を手掛けたのは、鋭い現代感覚と叙情的な映像で定評のある行定勲監督。デビュー作『ひまわり』以来、つねに話題作を提供してきた行定監督に、ロマンポルノに込めた思いを伺った。

本当に面白い作品はロマンポルノにあった

「僕が本格的に日本映画を観始めた1980年代、本当に面白い作品は大手じゃなく、むしろ日活ロマンポルノが作っていました」。行定勲監督はこう振り返る。

「背伸びして読んでいた映画雑誌に、よくそんなことが書いてあった(笑)。当時、熊本の繁華街に『地下デンキ』というすごい名前の成人映画を上映している映画館がありまして。中学の終わりだか高校のはじめだかに、意を決して観にいきました。未成年なのでほんとは入っちゃいけないんだけど、昔の人は見逃してくれたんですね」

最初に観た作品は、山本奈津子主演の『宇能鴻一郎の濡れて打つ』(1984年)。後に「平成ガメラ」シリーズや「デスノート」シリーズを撮る金子修介監督のデビュー作品だ。

「そこからさかのぼって過去のロマンポルノも観るようになったんですが、十代の僕にとってそれは刺激的な映画体験でした。裸や濡れ場だけじゃない、それこそ表現として観たことのない荒削りさ、力強さがあって…。いま思えば当時の日活ロマンポルノって、低予算で年間60〜70本を量産していたので、あの手この手で工夫せざるをえない。多くの監督がそこで修行を積んで巣立っていったし、そうやって七転八倒している様子に引き付けられたんでしょうね」

今回の「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」には行定監督の方から手を挙げたという。

「製作費やスケジュールなど、厳しい条件が付くのはわかっていましたが、そういう企画があるならぜひ参加したいと。かつて自分が影響を受け、かつ勇気づけられたロマンポルノの系譜に連なりたいという思いがあったからです」

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演出中の行定勲監督。(C)2016 日活

女性が強い時代のロマンポルノって?

本作『ジムノペディに乱れる』は、なかなか作品が撮れない中年の映画監督が、鬱屈した思いを抱えながら女たちの間を彷徨するというロードムービー。「ロマンポルノの現代的なあり方ってなんだろう?」と考えていた際、ふっと思い浮かんだアイデアだった。

「もし仮に80年代の後半にアダルトビデオが出現せず、ロマンポルノが作り続けられていたとしたら、そこで描かれる男女の関係性もきっと変わっていったと思うんです。今の時代は男が受け身で、むしろ女の方が欲望にストレートだったりするでしょう。魅力的な異性にはぐいぐいアプローチしていって、その結果、一握りの男だけがモテてあとは全然ダメ、という状況が生まれている(笑)。だったら、物語の真ん中にちょっと無頼で謎めいた男を置くことで、そういう空気を描くのも面白いかなと」

相米慎二監督の伝説を下敷きに

主人公の直接的なモデルはいない。だが亡くなった相米慎二監督のエピソードは、行定監督のなかで「ちょっと下敷きになっています」とのこと。

「相米さんは日活ロマンポルノの助監督としてキャリアを出発させた方で、ご自身でも『ラブホテル』というロマンポルノの大傑作を撮っていますが、とにかくモテたらしいんです。中央線の各駅に親しい女性がいて、1週間かけてその家々を転々としていたという伝説も聞きました。そこは僕なりの隠れオマージュといいますか(笑)、シナリオのヒントにはなっています」

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主人公・古谷を演じた板尾創路。(C)2016 日活

板尾創路の表現する作品の“余白”

主演に起用したのは芸人・板尾創路。以前、お互いに監督として参加した映画祭で知り合って、強い印象を受けたという。

「芸人さんなのに口数が少なく、ときおりボソッと面白いことを呟かれる感じがとても印象的で…。この役にはぴったりかなと思ってオファーしました。主人公の古谷という男は、他人には言えない事情と借金を抱えて、女たちの間を彷徨っています。この映画ではその姿をただ追いかけることで、彼が抱えている鬱屈や空虚さが淡々と描かれていく。逆に言えば、今回はそこさえ切り取れればいいやと割り切っていました。せっかくロマンポルノを作るのに、へんに小綺麗な作品を仕上げてもしかたないからね」

メインセットは組まず、すべてロケ撮影。あえてロードムービー的な手法を選んだのも、やはり「整った作品にはしたくない」という理由からだ。

「今回のプロジェクトには『撮影期間=1週間』という縛りがあったので、プロデューサーやスタッフは天候を心配していたけれど、僕自身は『そもそも1週間の話なんだから、雨が降ったら雨のシーンを撮ればいい』と考えてました(笑)。とにかく素材をゴロッと放り出したような、余白のある演出にしたかった。その微妙なバランスを、板尾さんは本当にうまく体現してくれました」

意外に自然だった濡れ場の演出

「総尺80分前後」で「10分に1回の濡れ場」というのも、本プロジェクトの大きな製作条件。ただ、絡みのシーンを演出は「普段作っている映画とさほど変わらなかった」と行定監督は振り返る。

「やってみると意外に自然だったというのが正直な感想です。ご存じのようにロマンポルノの絡みシーンは、すべて演出。本番さながらの演技を見せても、撮影中は全裸ではなく前貼りをするルールがあって、ちゃんと『R18+』の映倫審査も通らないといけない。でもそこさえクリアすれば、物語に必要なベッドシーンをきちんと描くことができます。最近は映倫の規制が厳しく、ちょっと女性の胸が露出するとすぐ『R15』指定が付いてしまったりする。今年公開された『ピンクとグレー』などもそうですが、僕らはいつもその縛りと戦っているので……逆に、自分の伝えたい物語を描きやすかった部分もあったと思います」

ただし、女性が服を脱ぐシーンからきちんと見せることにはこだわった。

「たとえば汗ばんだ下着を脱ぐと、太もものところでクルクル丸まったりするでしょう? ああいうリアルな感覚をきちんと描きたいという執着は、『贅沢な骨』(2001年)という作品の頃から変わらずありますね」

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古谷を振り回すワガママな若手女優・安里役には、岡村いずみ。(C)2016 日活

女性にもオススメの『悶絶!! どんでん返し』

最後に、若者に向けたおすすめの日活ロマンポルノ作品を挙げてもらった。

「たくさんありすぎて困りますが……1つは、先ほど話に出た相米慎二監督の『ラブホテル』(1985年)。人の切なさや侘びしさを、こんなに詩情たっぷりに描いた作品はそうありません。もう1つは、神代辰巳監督『悶絶!! どんでん返し』(1977)。これはヤクザの情婦とデキちゃったエリートサラリーマンが、そのヤクザにカマを掘られて女性化し、三角関係になっていくというハチャメチャな話。女性が見ても文句なく面白いと思います。最後はやはり神代辰巳監督の作品で、『嗚呼!おんなたち 猥歌』(1981年)。売れないロック・ミュージシャンを演じる内田裕也さんのやさぐれ加減がすばらしくて、今回の『ジムノペディに乱れる』と通じるところもあるかもしれません」

行定勲監督 1968年、熊本県生まれ。助監督として林海象監督や岩井俊二監督の作品に参加。長編第一作『ひまわり』(00)が第5回釜山国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。『GO』(01)で、日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ国内外で50もの賞を受賞。『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)が観客動員620万人、興行収入85億円、その年の邦画1位を記録する大ヒットに。10年には『パレード』が第60回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。近年の作品として、『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』(13)、『円卓 こっこ、ひと夏のいまじん』(14)、『真夜中の五分前』(14)、『ピンクとグレー』(15)など。2017年は、くまもと映画『続 うつくしいひと』、『ナラタージュ』(秋公開)などがある。

『ジムノペディに乱れる』(R18+版)
2016年11月26日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開