映画『アズミ・ハルコは行方不明』(12月3日公開、監督:松居大悟)を見てちっとも共感できなかったというアラサー女性は、きっと幸せな人、もしくはとても強い人なんでしょう。毎日幸せ!と即答できるほど現状に満足できておらず、なんとなく疲れたまま日々をだましだまし乗り切っているような女たち……。そんな人のための処方せんのような作品です。

蒼井優、『百万円と苦虫女』以来の映画単独主演作

地方都市の独身OL・安曇春子(アズミ・ハルコ)の失踪事件の背景と行く末を“アラサー、ハタチ、女子高生”の3世代の女たちの生き方を浮き彫りにしつつ描いた山内マリコの青春小説を、『アフロ田中』や『私たちのハァハァ』などを手がけた松居大悟監督が映画化。街中に拡散される女の顔のグラフィティ・アート、無差別に男たちをボコる女子高生集団、春子の失踪をきっかけにふたつのイタズラが交差する――。

春子役を演じる蒼井優は、本作で2008年公開の『百万円と苦虫女』以来の映画単独主演を果たします。また春子の行方を探す張り紙をモチーフとしたグラフィティ・アートを街中に広げるチーム“キルロイ”にくっついてまわる愛菜役を演じるのは高畑充希。恋愛体質で将来のことなんて真剣に考えていない愛菜は、率直に言って大変“バカ”な女の子。この役を演じるに当たって高畑はかなり悩んだらしいですが、見事に新境地を開拓。会話シーンでも、絶対今この話の意味わかってないんだろうな……という雰囲気をプンプンさせています。

太賀、加瀬亮、菊池亜希子、そして映画初出演のミュージシャン・石崎ひゅーいといった人々が脇を固める他、主題歌はチャットモンチーによる書き下ろし楽曲「消えない星」、劇中アニメーションはひらのりょう、音楽は環ROY……とスタッフに至るまで、ある種の女子の“好き”を直撃してくる布陣です。

ぐだぐだな別れ話シーンに過去を思い出し…

それなりの年数を生きてきた女なら、春子と愛菜を取り巻くいろいろを見て、自分の過去を思い出して辛くなってしまいそう。女を「オバサン」と「若い子」の2種類にくっきり分けて、結婚だのなんだの上から目線で口出ししてくる男たち。こちらの気持ちを揺さぶるようなことをするわりに、自分の逃げ道はしっかり残している恋人未満の卑怯な男。同性同士の友情なんてものの裏で身近な女はぞんざいに扱っている男たち。『アズミ・ハルコ~』は、“こんなムカつく男いるいる”図鑑といってもいいかも。

この映画、恋愛関係で男女が揉めているときの空気がものすごく生々しいです。とくに春子が、恋人同然の関係だった曽我(石崎ひゅーい)が他の女に入れ込んでいることを知り、「結婚とか言いたいわけじゃないけど……」と彼に詰め寄るところのぐだぐだな感じ。身に覚えがある人も多いのでは?

現実から逃げるのは悪いことじゃない

28歳の春子は何かを諦めるように生きており、キャピキャピした性格の20歳の愛菜だって上手くいかない問題にもぶつかるようになってきました。ありふれているけどやっぱり苦しい、年齢ごとの女の悩みに対して、本作は「闘え!」と命じるのではなく、「逃げちゃってもいいんじゃない?」と耳元で優しくささやいてくれます。ファンタジーな空気も漂う作品ではありますが、人々の悩みと、問題解決のための提案に関してはものすごーく現実的なんです。

ところで悩みの多い春子と愛菜に対して、本作で“女子高生”だけは無敵の集団として描かれています。かわいくアレンジした制服でパンツが見えてもおかまいなし! 細い体で男をボコボコにしてしまいます。この万能感、確かに10代ってこんな感じだったかもな~。ただ春子にだって昔はこんな時代があったんだろう……なんてしんみりしていただけに、少女ギャング団のリーダー(花影香音)が、吸い寄せられるように近づいてきた春子を「オバサンには無理」と拒絶するのではなく、「来る?」と誘った部分にグッときたのでした。本当はいつだって“あの頃”みたいに最強に戻れるのかもしれないね。

(文/原田イチボ@HEW)