文=ロサンゼルス在住ライター 鈴木淨/Avanti Press

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限定公開が行われたレムリ・ミュージックホール

12月2日(金)、ロサンゼルスのレムリ・ミュージックホールで『君の名は。』(英語タイトル“Your Name.”)の米国上映がスタートした。この1館のみで、8日(木)まで1週間公開される。規模を拡大した本格的な米公開は、来年行われる予定だ。

今回の1週間限定公開は、第89回アカデミー賞(来年2月)の長編アニメーション部門にノミネートされる資格を得るためのもの。同賞のすべての部門において、審査対象作品となるには今年中にロサンゼルス郡内の劇場で最低7日間連続で商業公開を行うことが条件となるからだ。

週末の前売り券は即売り切れ!

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初日、午後5時からの上映回を待つ行列。皆、前売り券を購入した上で並んでいる

会場となったレムリ・ミュージックホールは、同賞を主催する映画芸術科学アカデミーの本部近くにあり、例年この時期には今回の『君の名は。』同様、ノミネーション資格を得るための“便宜上”の限定公開によく利用されるアート系シアター。

注目すべきは、“便宜上”の公開だけに告知が少なかったにも関わらず、週末分の前売り券が早々に売り切れたことだろう。しかも、この劇場は大手サイトにチケット販売を委託していないため、少し入手方法がわかりづらい。それでも金曜の夜と土日の上映回すべてが、1週間前の発売とほぼ同時になくなったところに、米国におけるこの作品への関心の高さが表れた。

148席の小劇場での公開ということもあり、興行成績をうんぬんすべき上映ではないが、大盛況でスタートしたと言っていいだろう。

新海誠監督と米観客とのQ&A

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Q&Aで登壇した新海誠監督

3日(土)の午後6時半からの上映後には、この日にロサンゼルスに到着したという新海誠監督が登壇し、インタビューやアメリカ人観客からの質問に応じた。

新海アニメの熱心なファンだという男性から、「『君の名は。』は過去の作品と比べ、テンポが速くて明るいなど、いい意味で“新海っぽくない”が、なぜか」ときかれ、監督は「そう思ってもらえるように、スピード感とスリルがあって、笑いもあるという、驚いてもらえるような作品にしたかった。この作品を作る少し前に、もっと新しいものができそうな自信がついたので」と嬉しそうに話した。

またインタビュアーから、象徴的なオープニングや音楽を使ったモンタージュ映像の意図を問われると、「(自分が最も大きな影響を受けた)宮崎駿さんとは違う手触り、雰囲気を作品に与えたかった。宮崎さんは偉大で、同じことをしようと思ってもできないから」。監督の率直な告白に、観客は真剣に聞き入っていた。

新海監督自身はQ&Aの冒頭から、「複雑な物語なので、混乱したのではないでしょうか」と、アメリカ人観客を気遣っていたが、そういった反応はほとんどなく、ひとまず胸を撫でおろした様子だった。

「こんなアニメ見たことない」「すごく感動した」

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劇場に展示された英語版ポスター

記者は、2日(金)の午後5時からと7時半から、そしてQ&Aが行われた3日(土)の6時半から、計3回の上映を取材した。観客のほとんどは10代から20代前半のアメリカ人学生。日本アニメのファンが目立ち、7:3の割合で男性が多かった。

新海監督はQ&Aで、「高校生だった頃の自分に向けてつくった作品。10代、20代や、いまだに思春期を引きずっている大人は楽しんでくれるのでは」と述べていたが、いみじくも狙いが的中した形となった。

鑑賞後の感想を紹介していこう。ある10代の女子は「こんなアニメーション見たことない。ストーリーが独創的で、何が起きるか予想がつかない」と興奮気味に話した。同作を見るのは2度目という(1度目は7月にロサンゼルスで開催されたイベント「アニメ・エキスポ」での上映)10代男子は「がらりと展開が変わる中盤がすごくいい。アニメーションがとても綺麗」。彼に連れられてきた友だちの男子も「後半が切なくて、すごく感動した」と満足そうだった。

一部の米映画評論家に指摘された「時空の越え方の矛盾」についてきくと、「まったく気にならなかった。ファンタジーだし」(20代男性)「少し混乱はしたけど、もう一度見たくなった」(10代女子)と前向きな声ばかり。また、RADWINPSの楽曲の使い方についても「すごくストーリーと合っていた」(20代男性)「最高。一番好きなところ」(10代女子)と総じて好意的。ネガティブな感想はほとんど聞こえてこなかった。ひとり、10代の女子が「“おっぱい”の遊びは少しやり過ぎだったかな」と照れていたぐらいだろうか。

前半は大笑い、後半はすすり泣き

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『君の名は。』全国東宝系にてロードショー
(C)2016「君の名は。」製作委員会

記者は同作を東京の映画館でも鑑賞していたので、観客の反応における日米の違いを見るのも楽しかった。アメリカ人の観客は感情が大きく表に出る。記者が参加したいずれの上映回でも、共通して前半は何度も大きな笑いに包まれた。意外だったのは、最もウケていたのが、瀧になった三葉が「わたし」「わたくし」「僕」「オレ」と一人称を言い直すくだりだったこと(“I [Watashi]、I [Boku]”のように字幕で説明された)。この部分がウケたのはどの上映回でも同じだった。英語には“I”しかないことが大きいのだろうが、日本語の一人称の多さとその違いついての知識を観客の大半が持っていることもうかがえた。

また、いずれの回においても、中盤からは物語に引き込まれているような沈黙が続き、終盤にはすすり泣きが聞こえた。そして、エンドロールが流れると大きな拍手が起こった。3日(土)に新海監督が客席の後方から登場しステージへ向かって行ったのも、そんな拍手の中だったのである。