『3月のライオン』実写化に続け!? 映画化してほしい傑作・将棋マンガ3選!

コラム

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文=金原由佳/Avanti Press

『聖の青春』から『3月のライオン』へ
映画会社を越えるエール!?

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『3月のライオン』桐山零(神木隆之介)
(c)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

2017年期待の映画といえば、羽海野チカの同名コミックを映画化した『3月のライオン』だ。来る3月18日に前編、4月22日に後編が公開される。

先日、最後まで伏せられていた人気キャラクター、二階堂役を染谷将太が演じるとの発表があった。特殊メイクによって、原作から抜け出してきたかのようにふくふくとした染谷の大変貌ぶりを伝えるビジュアルも解禁され、SNS上でも大きな話題となった。この二階堂役、11月に公開された『聖の青春』で松山ケンイチが一年かけて激太りして挑んだ実在のプロ棋士、村山聖をモデルにしていると噂される。奇しくも染谷は『聖の青春』に村山聖の後輩役で出演し、そのラストは、病魔に侵され、28歳の短い人生を駆け抜けた村山聖の幻影を見る染谷の感慨深い表情で幕を閉じるのだ。まさにそれは『聖の青春』から『3月のライオン』へ、映画会社を越えて、将棋という厳しい世界で戦うプロ棋士たちへの熱いエールをバトンタッチするかのような、美しい流れにも見える。

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『3月のライオン』二階堂役の染谷将太
(c)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

主役の桐山零は家族を事故で失った少年。彼自身の将棋の強さが、同じくプロを目指していた養子先の義理の姉と弟から将棋人生を奪うという苦悩を抱えている。彼は、高校進学を機に、養子先の家を出て、自立する中、たどたどしく周囲の人と信頼関係を築き、徐々に自分の居場所を見つけていく。演じるのは神木隆之介。幼い頃から子役として実力を発揮してきた彼が、早熟な天才の苦悩を演じるなんて、適役にも程がある。短いフッテージを見るだに、マンガのビジュアル面での違和感はゼロ。前作『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』でのハイテンション演技とのギャップも楽しめそうだ。連載中の原作で描かれる川本ひなた(清原果耶)との恋の行方もどこまで出てくるのか気になる。

将棋の面白さに目覚めていく母子を描く
将棋入門編「ひらけ駒!」

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「ひらけ駒!」南Q太(講談社刊)

さて、『聖の青春』、『3月のライオン』ときて、まだまだ映画化してほしい将棋マンガが控えている。テレビではこれまで「月下の棋士」や「ハチワンダイバー」など、将棋の勝ち負けにフォーカスしたものが映像化されてきたが、昨今、将棋好き女子も増えてきているということで、将棋の面白さに目覚めていく母子を描いた将棋入門編「ひらけ駒!」を紹介しよう。

原作者の南Q太は、1990年代、魚喃キリコややまだないとなどと同時期に、等身大の男女の恋愛風景を描いて人気を得、西島秀俊主演の『さよならみどりちゃん』など多くの原作が映像化されている。本作では作風を一変、自らの経験をもとに、将棋を始めた小学生4年生の宝と、彼の将棋熱に感化されて自らも習いだす母の「アマチュア将棋あるある」ネタを楽しく散りばめる。将棋の聖地、千駄ヶ谷の将棋会館に足を踏み入れたときのドキドキ感、級が上がっていくときのときめき、いざ対局をしてみて、相手の読みがわからず戸惑う感じなど、アマチュア将棋の楽しみが描かれると同時に、小学生にして段持ちとなり、奨励会を目指す早熟な子どもの独特の立ち位置なども繊細に描き出す。現在も最前線で活躍している羽生善治三冠も小学校3年生の時に、同学年の森内俊之9段と対戦して負けている。将棋ウォッチャーの楽しみはこういう小学校からのライバル関係の遍歴を見る愉しみもあり、その原点がこのコミックには詰まっている。また、女流棋士の知られざる生活ぶりなども描かれているのも興味深く、子供の演出に長けている萩生田宏治監督などに映像化してほしいところ。

渡辺明竜王の日常を赤裸々に描く「将棋の渡辺くん」

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「将棋の渡辺くん」伊奈めぐみ(講談社刊)

早熟な天才と言えば、この人もそう。ご存知、渡辺明竜王。2000年に、史上4人目の中学生のプロ棋士となり、2003年には史上3番目の19歳という若さでタイトル挑戦者として羽生善治と戦った(第51棋王座戦)。ここで将棋をあまり知らない人のために説明すると、プロの棋士になるためには奨励会に入り、そこで4段になる必要がある。なれるのは年に約4人。年齢制限もあり、23歳までに初段、26歳までに四段にならないと強制的に退会させられてしまうのだ(延長制度もあるがここでは割愛)。プロになったらなったで、A級をトップにB級、C級、そして名人、棋聖、王位、王座、竜王、王将、棋王の7大タイトルを競うのである。それぞれ違う棋士が勝てば、タイトル保持者は年に7人おり、10年続くと70人のタイトル保持者が存在する。だが現実はほぼ半分(20代の時は、7タイトルすべてをとった年も)を羽生善治棋士が獲得しており、残りをほかの棋士が獲りあうという状況なのだ。

渡辺竜王は2004年から2015年度までタイトルを保持しなかった年は一度もない(2016年は12月21、22日に丸山忠久9段と第七局をかけて戦う)実力者なのである。そんな人なのだから、どんなに神経をとがらせた日々を送っているだろうと思いきや、その知られざる日常を赤裸々に描いた「将棋の渡辺くん」を読むと、あまりにもユニークかつ、キュートな人柄に驚かされてしまう。というのもこの漫画、渡辺竜王のことを誰よりも知る奥様である伊奈めぐみさんがともに暮らす中での常人離れしたエピソードを楽しく描いたもので、要は私たちの想像とは違うほのぼのとした「プロ将棋棋士あるある」ネタが満載なのである。例えば、その風貌から藤子不二雄の「魔太郎がくる!!」の魔太郎に似ていると言われる渡辺竜王。試合中の眼力の強さは有名だけれど、コミックによると、虫が大の苦手。対局中に虫が飛んでいると途端に集中力を欠き、そのため対局前は窓の開閉や隙間がないか、それはそれはこわごわチェックしている姿が描かれ、驚かされる。びっくりしたのが、渡辺竜王は大のぬいぐるみ好きで、外出先で可愛い子をみつけてしまうと買わずにはいられず、家はぬいぐるみだらけだということ。これ以上増やしたくない奥様との攻防も面白い。なにより、他の将棋コミックと違うのが、神経を減らしながら指すのではなく、将棋が好きで好きで仕方なく、暇があれば、楽しそうに将棋盤に向かい、負けても多少は凹むものの、数時間でリカバーする飄々さ。勝敗に左右されることなく、家ではマイペースに過ごし、サッカーの審判員の資格を取ったり、フットサルのチームを作ったり、仲間の棋士たちと山に登ったりと、アウトドアな面も披露され、将棋棋士への興味がさらに深化するのである。勝手にリクエストするのなら、渡辺竜王役はぜひ濱田岳くんでお願いしたい。

記憶喪失の女流棋士を主人公にした「盤上の詰みと罰」

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「盤上の詰みと罰」松本渚(双葉社刊)

最後に紹介するのは、女流棋士を主人公にした松本渚の「盤上の詰みと罰」(双葉社)。

主人公の霧島都は元女流六冠の棋士。将来を期待されていたが、ある対戦中に失神したことで、記憶を一カ月以上、蓄積することができなくなり、プロの活動を続けられなくなる。自分がなぜ、記憶を失うことになったのか、その時の棋譜を頼りに、対戦した相手を求め、日本中の将棋センターを訪ねる都。このコミックが興味深いのは、都がこだわるのは将棋の勝敗ではなく、対局を通して、指す相手との深い対話をしていることだ。81マスのどこに、どのコマを指すのか。どういうスタイルで戦うのか。相手の指した駒を受けるのか、無視するのか、違う駒で挑むのか、攻めるのか、逃げるのか、それともはったりをかますのか、はぐらかすのか。その駆け引きを通して、互いの個性や美学が浮かび上がってくる。記憶をとどめることが出来ない主人公という点で、クリストファー・ノーラン監督作『メメント』やアトム・エゴヤンの『手紙は憶えている』のような構成での映像化も考えられる。彼女は記憶の中では17歳であり続けるため普段セーラー服を着ているが、実際は20代。そんな違和感も演じる女優によっては面白く表現できそう。イメージとは違うけれど、現役の高校生の女流棋士、竹俣紅さんのような人が演じると、大きな話題になるのではないだろうか。

*  *  *

さて、将棋の面白さはもちろん勝つか負けるかの結果がはっきりしていることにあるが、勝敗については負けを認めた方が自ら「負けました」と声に出して投了しなくてはいけない。ときに年齢を重ねた棋士が、まだ少年のような面差しの相手に頭を下げるのだから、見ている方にいろいろな思いが宿るのだ。しかも、プロの世界はテレビをはじめ、最近ではニコニコ動画などで大勢の視聴者に観戦され、棋譜も後世にしっかり残る。そのため、多くの棋士は、負けが決まっても、無様な記録を残さないよう、全身全霊をかけて“形作り”に力を注ぐ。その必死さを見るのも、将棋観戦のだいご味である。きっと、『3月のライオン』でも、個性豊かな棋士たちが、プレッシャーと戦いながら、しのぎを削っていく姿が描かれるはず。これまで『るろうに剣心』や『ミュージアム』など激しいアクションを入れ込んだ、動の人間ドラマを得意としてきた大友啓史監督が、81マスの盤上で繰り広げられる棋士の心理的な激突をどう映像化するのか、そこにも大きな注目が集まっている。『3月のライオン』の2017年3月18日(土)の【前編】、2017年4月22日(土)の【後編】公開が楽しみだ。

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記事制作 : Avanti Press(外部サイト)