【映画の料理Vol.20】『この世界の片隅に』のすずさんの野草を使った工夫ご飯

コラム

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文=金田裕美子/Avanti Press

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(c) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

アニメーション映画が大いに話題になった2016年。『君の名は。』『聲の形』に続いて、11月12日に公開された『この世界の片隅に』も、作品の素晴らしさがSNSや口コミで広がるにつれて観客数が増え、公開規模も全国63館からどんどん拡大され当初の予想をはるかに超えるヒットとなっています。

第二次大戦末期の1944年、広島市から軍港の町である呉に嫁いだすず。「よく人からぼうっとしていると言われる」という彼女は、見知らぬ土地でもその天然っぷり、ドジっぷりを遺憾なく発揮しながら、優しい夫と義父母と共につつましく幸せな新生活を始めます。

戦争がひどくなるにつれ、生活が不自由になり、配給される食糧も不足してきます。そんな中、すずはご近所から食べられる野草や、食事のかさを増やす工夫などを教えてもらい、さっそく野草を摘んできて献立に取り入れます。これが、すみれの花と葉が浮かんだお味噌汁とか、かさだけは立派に見えるもののどうやら不味いらしい楠公飯(なんこうめし)とか、ちょっと試してみたくなる料理ばかり。物がなくて大変な状況なのですが、すずにかかると何だか楽しそうに見えるのです。というわけで、今回はすずの作るご飯に挑戦してみます。

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(c) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

こうの史代による同名の原作コミックには、食べられる野草とそのレシピが詳しく描かれています。それによると、すずが近所で摘んでくる野草はタンポポ、スギナ、スミレ、ハコベ、カタバミ。どこにでもあるおなじみの草ばかりです。しかし。今は冬。映画と同じ5月ならその辺にわさわさ生えているはずですが、こんな寒い時期に手に入るのでしょうか。

今は冬。なんと雑草が手に入らない!
あるもので工夫しようという発想と真逆ですが…

さっそく近所に野草探しに出かけてみました。うー、寒い。あまりの風の冷たさに涙と鼻水が出てきます。涙を流しながら人の家の植え込みなどを覗き、ひたすら下を向いてウロウロする私。いつ通報されてもおかしくありません。怪しさ100%で近所の空き地や駐車場の隅、川原などを見て歩くと、意外や意外、冬でもタンポポやハコベ、カタバミが見つかりました。とはいえ、さすがに花は咲いていない。タンポポの葉は特徴的なので花がなくてもわかりますが、「でもこれ絶対にタンポポ? すごく似てる別の植物じゃない?」と言われたら、自信がありません。子どもの頃、飼っていたインコに食べさせるためにたくさん摘んだハコベも、あの小さな白い花がないと、なんだか不安。それに、川原とか駐車場の隅に生えている草って、ご近所の犬猫のみなさんのシッコがかかってるんじゃないだろか。

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(c) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

ヘタレな私は、購入できるものは購入することにしました。食用のタンポポ、ハコベは苗をゲット。ハコベは七草粥用に栽培されているので、この時期でも手に入れやすいようです。スミレは、「食べられるんだろか」と不安になりつつ花屋さんで鑑賞用の小さな鉢植えを買ってきました。スギナは、名前を聞いてもピンときませんでしたが、ツクシのあとに生えてくる、あの針みたいな葉の草のこと。ツクシだけでなく、あの葉っぱも食べられるんですね。ただのジャマッケな雑草じゃなかったスギナ。この時期、これはさすがにその辺に生えていないし、売られてもいなかったので、葉を乾燥させた「スギナ茶」を購入して参りました。カタバミは、外に出しっぱなしの植木鉢などにも勝手に生えてくる、これもジャマッケ系の三つ葉の草。多年草ゆえその辺にたくさん見つかったので、犬猫がシッコをかけにくそうなところから摘んできました。あるもので何とか工夫しようというすずの目的とは正反対のことをしているような気がしますが(カタバミ以外)、まあ、検証ということで。これからこのメニューを試される方は、ぜひ草の生い茂る暖かい時期にどうぞ。

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手前がカタバミ。左上がハコベ、右がタンポポ

スギナ入り甘藷餅

まずはスギナ入りの甘藷(かんしょ)餅を作ります。甘藷とはさつまいものこと。さつまいもは適当な大きさに切って蒸し、すぎなは軽く茹でて水にさらして刻みます。今回は生のものでなく、スギナ茶を使用。乾燥したスギナの葉を食べてみると、ちょっと青臭くてほろ苦く、抹茶のようです。さつまいもとスギナ、小麦粉を突きまぜて平たく丸めます。原作にはこのあとが書かれていなかったのですが、小麦粉に火を通さないのもなんなので、フライパンで両面をあぶってみました。

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しゃきしゃきしたスギナが味と食感のアクセントになって、素朴な美味しさです。当時のさつまいもは現在市販されているものほど甘くなかったそうなので、こんなにお菓子みたいではなかったかもしれません。実際、年配の方から「戦時中にまずいさつまいもをさんざん食べたから、もう食べたくない」という話をあちこちで聞きます。戦争から何十年も経った今でもそうなのか、と思う反面、こう言うのは大抵男性で、女性の口からこの言葉を聞いたことがないのが謎。

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馬鈴薯とハコベ入りお粥

お次は馬鈴薯(ばれいしょ)とハコベ入りお粥。米の5倍の水で炊いたお粥にじゃがいもの乱切りを加えてさらに10分ほど煮、最後にハコベのざく切りを加えます。おかゆにじゃがいも? と思いましたが、これがお粥にパンチを加えて意外な美味しさ。くせのないハコベにはビタミンやミネラルが豊富に含まれているそうなので、体にも良さそうです。

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タンポポ入り卯の花と大根のカタバミ和え

タンポポは、根を千切り、葉をざく切りに。大根の皮を千切りにしたものと一緒に醤油と砂糖で煮て、卯の花に混ぜてさらに煮ます。タンポポの根って、意外に太くてしっかり深いところまで延びています。空き地に生えていたものをシャベルで掘り起こそうとしましたが、地面が固くて深く掘れず、何度やっても根が途中で切れてしまいました。タンポポを狙うなら、土の柔らかいところに生えているものがおすすめです。さて、卯の花のお味は……至って普通。あっさりした卯の花です。用意したタンポポの量が少なすぎて、本当はかなり苦いらしい味はわからずじまいでした。

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カタバミは、千切りにした大根と一緒に塩もみに。かたばみには「すいば(酸い葉)」という別名もあるだけに、不思議な酸っぱい味がします。

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いわしの干物の煮物梅干しの種風味

いわしの干物の煮物梅干しの種風味は、鍋に水と梅干しの種を入れ、煮立ったらいわしの丸干しを加え、蓋をせずに煮汁をかけながら煮ます。最後に塩で味を調えて出来上がり。干物を煮魚風にすることで、メインのおかずっぽくしているのでしょう。でもカラカラの丸干しを使ったゆえ、かなり長いこと煮ても軟らかくなりませんでした。だったら最初に水でふやかしておいてから煮ればいいのでは、と思ってやってみましたが、今度はいわしの味が抜けてしまって本当にだしがら。半生の丸干しを使えば、もう少し煮魚風にできるかもしれません。

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スミレの花のお味噌汁

いわしを取り出したあとの煮汁に水と味噌、スミレの葉と花を入れてひと煮立ちさせ、お味噌汁に。すみれは鑑賞用のビオラという種類で鉢植えには化学肥料が使われているかも……と思いましたが、このくらいの量ならまあ食べても問題ないでしょう。しかし根や種に毒性のある種類もあるので、食べる際は花と葉だけにしてください。スミレの花が浮かんだお味噌汁は、なんだかおしゃれ。葉もくせがなく、ほうれん草のようです。

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最後は楠木正成考案(!?)の楠公飯

さて最後に、今回一番やってみたかった楠公飯を作ってみます。これは南北朝時代の武将、楠木正成(くすのきまさしげ)公が考案したとされる「節米(せつまい)料理」。まず玄米をフライパンで炒ります。しばらくすると、ポップコーンのようにぱちぱちと玄米が爆ぜて、香ばしい、いい匂いがしてきます。ここに3倍の水を加え、弱火でじっくり炊き上げます。

すると。本当に、普通に炊いた場合の2~3倍の量になっています。すずの家族も、その増量に喜びますが、いざ食べ始めると食卓は微妙な空気に。あー、美味しくなかったんだね……。原作にも「流行りませんでした」とあるので、どんなにマズイのか食べてみると……味は香ばしい玄米茶で炊いた茶粥みたい。なんだ、美味しいじゃない。ただ食感は、水につけたポップコーンみたいにスカスカ、フガフガして心もとない。楠木公、これじゃ戦(いくさ)で力が出ないよ。この脱力する感じが不評の原因だと思われますが、もう一度言います、味は悪くありません。

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水に浸けたポップ玄米(上)はひと晩でこんなこと(下)に!

原作に「正確には炒った玄米を三倍の水にひと晩浸け、その後普通に炊く」とあるので、そちらもやってみました。炒った玄米を水に浸け、翌朝見てみると……うおおおっ。すでに炊いたかのように激しく膨らんでいます。このまま炊くとのことですが、米が水を吸ってしまって全くなくなっています。これじゃ焦げるでしょと思い、ちょっとだけ水を加えて炊いてみました。すると、スカスカ、フガフガの上にべちょべちょ、という何とも不思議なご飯が出現。さらにこれが冷めると、スカフガべちょ&プルプルののり状態に。こちらは……さすがにあまりおすすめいたしません。

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(c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

今回作ってみたすずの節約料理は、物がない中でもなんとか美味しく楽しく食事をしようという工夫と知恵に溢れていて、とても新鮮でした。戦争中の辛い時代に日々を暮らしていかなければならない市井の人々の思いが、料理にも表れている気がします。春になったら、野草を摘みに行ってもう一度いろいろな料理を作ってみたいなと思います(ひと晩水に浸けるバージョンの楠公飯は除く)。

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【すずの工夫料理レシピ】
すぎな入りの甘藷(かんしょ)餅
・さつまいも、すぎな、小麦粉
馬鈴薯とはこべ入りおかゆ
・米、5倍の水、じゃがいも、はこべ
たんぽぽの根と葉、大根の皮入りの卯の花
・たんぽぽの根と葉、大根の皮、うの花、砂糖、醤油
だいこんとかたばみの葉の塩もみ
・大根、かたばみ、塩
いわしの干物の煮物梅干しの種風味
・いわしの干物、梅干しの種、塩
スミレの葉の味噌汁
・いわしの煮汁、すみれの葉、味噌、水
楠公飯
・玄米、3倍の水
映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具
・ちゃぶ台、かまど、釜、モンペ、スケッチブック

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記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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