『トイ・ストーリー』監督が予言「iPhoneで撮った映画がアカデミー賞」は目前!?『タンジェリン』

コラム

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文=平辻哲也/Avanti Press

カメラを意識させずに役者の自然な演技を引き出す

「映画のような動画をiPhone7で」。

これはテレビでオンエア中のiPhone7のCMでのキャッチコピーだ。『ロミオとジュリエット』の映画のようなシーンが展開されていると思いきや、娘が出演する学芸会をiPhoneで撮影している父親が映し出される。iPhoneなら、映画並の動画が撮れるとアピールするというものだ。昨今のスマホの動画の高機能ぶりには驚かされるが、実際に全編iPhoneで撮影された長編の劇映画がある。米インディーズ出身のショーン・ベイカー監督による『タンジェリン』だ。1月28日の劇場公開に先駆け、Netflixで配信されている。

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『タンジェリン』1月28日渋谷シアター・イメージフォーラムほか順次公開
(C)2015 TANGERINE FILMS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

クリスマス・イブのロサンゼルスを舞台に、刑務所から出所したばかりのトランスジェンダーの娼婦が娼婦仲間とともに浮気した恋人を見つけ出そうとして巻き起こす騒動を描く“ガールズ”ムービー。2015年のサンダンス国際映画祭や東京国際映画祭に出品され、“ヒロイン”の友人アレクサンドラを演じたマイヤ・テイラーは演技未経験ながら、第31回インディペンデント・スピリット賞とゴッサム・アワードで助演女優賞を受賞。映画は世界の映画祭を席巻した。

LAのストリートでの躍動感あふれるカメラワークと派手な色彩が特徴的。撮影に使用されたのは、2013年9月に発売されたばかりの3台のiPhone5sだった。ベイカー監督はこんなふうに語っている。「ちょうどその頃、iPhone5sが発売されたのですが、カメラの性能がそれまでと比べて格段にアップしていた。そこで、iPhoneが活用できないかと考え始めました。そして、演技経験のない役者を撮るのにとても適しているということに気が付きました」

小さいiPhoneであれば、役者がカメラを意識することはなく、自然な演技を引き出せる。また、周囲にも気づかれることなく、小回りも効く。ストリートを舞台にしたドラマには最適だった、というわけだ。iPhone5sには、Moondog Labs社が開発したアナモフィックレンズのプロトタイプを装着。これはスコープサイズの動画が撮れるレンズで、クラシック映画のフィルムのような質感を実現(このレンズは同社の直販サイトにて175ドルで売られている)。

このほか、フォーカスをロックできるアプリや、手ぶれによる揺れを軽減し、独特の浮遊感を持つ滑らかな動画撮影を可能にするスタビライザーも使用。ポストプロダクション(編集作業)でも、かなりの時間と手間をかけ、独自のルックを作り上げた。ベイカー監督はこの後も、KENZOのショートフィルム『Snowbird』(YouTubeで視聴可)をiPhoneで撮影している。

iPhoneがオスカーに導いた作品も

iPhoneのカメラ機能は数年前から、映画の現場で使われている。『JSA』『オールド・ボーイ』で知られる韓国のパク・チャヌク監督は、約30分の短編ホラー『ナイト・フィッシング/波瀾万丈』(2011年)をiPhone4で撮影。これはiPhoneだけで撮影された世界初の劇場用映画とされ、ベルリン国際映画祭では短編部門の金熊賞(グランプリ)を受賞した。

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『タンジェリン』1月28日渋谷シアター・イメージフォーラムほか順次公開
(C)2015 TANGERINE FILMS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

iPhoneがオスカー(アカデミー賞)に導いた作品もある。反アパルトヘイトのシンボルソングを作った幻のシンガーソングライターの消息を追ったドキュメンタリー『シュガーマン 奇跡に愛された男』(2012年)だ。同作ではスーパー8というフィルムが使われたが、撮影の最後に資金不足に陥り、当時1ドルだったiPhoneの動画アプリ(8mm Vintage Camera、現在240円)を代用。同作は同年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞に輝いた。

日本では、2015年の大ヒット作『シン・ゴジラ』でも、iPhoneやウェアラブルカメラ「GoPro」が使用され、臨場感のあるシーンを作り出している。特に狭い場所や動きのあるシーンで機動力を発揮したようだ。高梨臨主演の『種まく旅人 夢のつぎ木』(2015年)の実景部分の一部はiPhoneでの撮影だという。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭への応募は?

iPhoneは、既に映画製作のプロの大きな武器になっている。ならば、映画製作を志す人の中にも、iPhoneを使っている人がいるのではないか。デジタル作品をフィーチャーした「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」(2017年7月15日~23日、SKIPシティ映像ホールほかで開催)の事務局に、iPhoneで撮影した応募作があるかを聞いてみた。

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『タンジェリン』1月28日渋谷シアター・イメージフォーラムほか順次公開
(C)2015 TANGERINE FILMS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

「2012~2016年の5年間を調べました。長編では、2014年にアメリカの応募作品にiPhone4sの撮影がありました。短編は日本作品のみですが、2016年に1本(iPhone5s&6)、2013年は3本(すべてiPhone4)の応募がありました。カメラの種類まできちんと書いてくれる人はなかなかなく、記録では『HD camera』となっているものの中にも、iPhoneで撮影したものはあるかもしれません」と事務局。なんとも微妙な数ではあるが、少なからず使っている人はいるようだ。

『トイ・ストーリー』(2006年)のジョン・ラセター監督は2015年5月、映画芸術科学アカデミーで開催されたパネルディスカッションでこんなことを話している。「いずれはiPhoneとGoProのみで撮影された映画がアカデミー賞を受賞する日が来るだろう」。

最新のiPhone7はプロ用カメラ並の4K解像度で、『タンジェリン』の撮影時にはなかった光学式手ブレ補正機能などもある。ラセター監督の“予言”が的中するのは、そんなに先のことではないかもしれない。

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記事制作 : Avanti Press(外部サイト)