驚愕の実話!ホームレスを選択したファッションカメラマンの都会に生きる究極の術『ホームレス ニューヨークと寝た男 』

コラム

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文=高村尚/Avanti Press

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『ホームレス ニューヨークと寝た男 』1月28日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(C)2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

ある意味、衝撃のドキュメンタリー。188センチの長身を趣味のいいスーツで包み、ロマンスグレーの髪をきちっとなでつけた50代の紳士。どこから見ても成功した大人の男という風情だけど、彼はホームレス。住む家がない。彼の名前はマーク・レイ。ニューヨークを拠点に活動するファッションカメラマン兼俳優だ。洗練された手つきで髭をあたり、身なりを整え、革のバッグを手に颯爽と出てきた場所が公衆トイレでなければ、誰も彼に家がないなんて思わないだろう。

家がないマークはどこで眠っているのか?

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『ホームレス ニューヨークと寝た男 』1月28日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(C)2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

どんな人間も眠らずには生きていけない。マークはどんなところで寝ているのかというと、友人の住むアパートメント(日本でいうマンション)の屋上。友人が長期出かける際に預かった鍵でスペアキーを作り、フロントを突破。そのまま屋上へとあがり、タンクの下の隙間まで行くと彼の寝床がある。常備されているのは、寝袋と雨露をしのぐタープ、そして尿瓶代わりのペットボトル。PCやスーツ、カメラの備品などは、体型維持も兼ねて入会しているジムのロッカーに預けている。マークの1カ月の支出は、ジムの会費125ドル、健康保険料280ドル、食費450ドル、交際費300ドル、携帯電話代50ドルと約1205ドル。日本円では約13万7000円(1月現在のレート)となる。ニューヨーク・マンハッタンの1DKの家賃は平均2200ドル(た、高い!)だそうなので、マークは家賃よりも安い金額で1カ月暮らしているというわけだ。しかし夏はまだしもニューヨークの冬は寒い。寒波が押し寄せた昨年2月には氷点下18度を記録した。屋外で暮らすのは命の危険さえある。

マーク・レイという男

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『ホームレス ニューヨークと寝た男 』1月28日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(C)2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

マークの巧みな話しぶりとナイスルックは、彼がカメラに収める女性のみならず、この映画を見る観客をも魅了する。マークは、サウスカロライナのチャールストン大学卒業後、故郷ニュージャージーの輸入会社で働くが、自身の魅力を活かし、1990年からヨーロッパでモデルを始める。4年後に帰国し、演技を学ぶと同時に写真家として働き始める。2000年、チェルシー地区再開発に伴い、立ち退きを迫られて再び渡欧。7年後に帰国し、「デイズ・アンド・コンフィーズ」誌用にファッション・ウィークを撮影してからは、ファッショニスタやモデルを撮るストリートフォトグラファーを続けている。時に自身がモデルとなる仕事や、エキストラ俳優としての映画出演で稼ぐが、それでもマンハッタンに家をキープするギャラを稼ぐことはできない。ゆえに2007年から本作が完成した2014年を過ぎても彼のホームレス生活は続いている。なぜそこまでしてマークはニューヨークで生きようとするのか?

マークがしがみついているもの

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『ホームレス ニューヨークと寝た男 』1月28日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(C)2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

彼はなぜ屋上生活をしてまでも、ほかの仕事に就こうとしないのか? 理由は一つではないだろうが、映画の中で彼は「モデルの仕事では知性は必要とされなかった」とつぶやく。彼が仕事にしたかったのは“クリエイティブなもの”。彼自身の考えが反映された“なにか”で対価を得たかったのだろう。でもたいていの人生は妥協の繰り返しだ。やりたいことで対価が得られないのであれば、生きるために職を変えるしかない。ふつうはかなり若いうちにそれをジャッジし、方向転換を図るものだが、マークは夢をあきらめなかった。

夢はいくつまで追えるものなのか?

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『ホームレス ニューヨークと寝た男 』1月28日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(C)2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

この生活を選んだ時、マークは結婚をあきらめたという。そしてそれでも夢が実現しないことに焦れて、数年前には本気で自殺を考えたこともあったのだそう。

夢ってなんだろう? 豪邸に住むこと? 素敵なファッションを身にまとうこと? いつでも美味しいものが食べられること? 好きな人と一緒に居られること? やりがいの感じられる仕事をして生きていくこと?

“やりがいのある仕事”以外はその仕事から得られるもので、仕事はそれを獲得する財源となるものだが、時として自身のアイデンティティとなることもある。だから容易く諦められないのだ。マークに関して言えば、ホームレスではあっても、生きる目的は失っていない。本作に登場する“家を持たない”ほかの人々とは明らかに違う。原題が表すように“Homeless(家無し)”ではなく、“HOMME LESS(希少な人)”なのだと思う。

トーマス・ヴィルテンゾーン監督に注目

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左からトーマス・ヴィルテンゾーン監督、マーク・レイ
『ホームレス ニューヨークと寝た男 』1月28日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(C)2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

マークの家――マンハッタンの屋上から見たニューヨークは美しい。トーマス・ヴィルテンゾーン監督が自らまわすカメラは、マンハッタンの息遣いをクリアに捉えている。使ったカメラは動画も静止画もイケるキャノンEOS 5D Mark II。写真家憧れのフルサイズ(35ミリ)カメラなのだそう(結構なお値段です!)。本作が他のドキュメンタリーと一線を画すのには、映像の美しさ、ため息が出るような構図、音声のクリアさ、そしてクリント・イーストウッド作品でもお馴染みの息子カイル・イーストウッドが手掛けたジャズなどといった要素が一役買っている。自らもモデル出身で、マークと古くからの友人であるというヴィルテンゾーン監督の名前は気にかけておきたい。皮肉なことに、ヴィルテンゾーン監督こそマークがなりたい理想の姿に近いのではないかとも思う。

マーク・レイは近々来日するのだそう。そうなると進行形の彼の現在を無性に確かめたくなる。なぜか? それは彼が心から語る言葉に、いま私たちがさまよっている迷路の、出口に関するヒントがたくさん隠されているからだろう。ワーキングプアが社会問題化している今こそ見たいと思わせる映画だ。

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記事制作 : Avanti Press(外部サイト)