薬物依存、法廷闘争……死の淵から『沈黙-サイレンス-』映画化まで、スコセッシ監督は語る

コラム

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文=ロサンゼルス在住ライター 鈴木淨/Avanti Press

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昨年12月にロサンゼルスでインタビューに答えるスコセッシ監督
(c) Armando Gallo via ZUMA Studio

浅野忠信、窪塚洋介、イッセー尾形ら日本人キャストが多数出演していることでも話題のマーティン・スコセッシ監督『沈黙 -サイレンス-』がいよいよ公開。宗教を通して生死を見つめる同作のお披露目に合わせ、74歳の大監督が、薬物依存で死の淵をさまよった過去を米誌「ハリウッド・リポーター」に告白した。この経験が、遠藤周作による原作小説の映画化を目指すきっかけになったという。

スコセッシは、およそ40年前の1978年を振り返り、長年にわたる生活難と薬物の乱用によって自分の身体が限界まで蝕まれていたと明かした。「人生に不安を抱え、別の世界を求めた。言い換えれば、生きることの危険な側面の魅力を受け入れたんだ」。当時35歳の彼は監督作『ニューヨーク・ニューヨーク』(1977年)を仕上げ、変わらぬ生活を続けていた9月のある日、突然に倒れた。「気がつけば病院にいた。驚いたことに、私は死ぬ寸前だったんだ」。

「私は死を望んではいない、生を無駄にしてはいけない」

体重が40キロ台にまで減少していた。薬物が誘発したぜんそくなどにも苦しんだ。盟友のロバート・デ・ニーロらが見舞いに訪れた入院生活で、医者からも手厚いケアを受けたスコセッシは、破滅的な生き方を改めようと決意。「私は死を望んではいない、生を無駄にしてはいけない、と悟ったんだ」。カソリック信徒として育ち、聖職者を志しさえした自身の原点を思い返し、生き抜くために病院で祈り続けたという。「祈って、もし救われれば何か意味があるし、意味がなかったとしても、(生を)無駄にしてはならないと」。

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『沈黙-サイレンス-』1月21日(土)全国ロードショー
(c) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

幸運にも危機から抜け出したスコセッシはその後、遠藤周作著「沈黙」に出会うことになる。それは丁度、キリストの生涯を描いて物議を醸した『最後の誘惑』(1988年)を監督した後だった。キリスト教徒が激しい弾圧にあった江戸時代初期を舞台に、ポルトガルから日本にやってきた司祭の苦悩を描いた小説に衝撃を受けた。「恵みにあふれた物語だと思った。人々や自然のなかの恵み。生きることにおいてそれは計り知れず大きい」とスコセッシ。自身と同様に幼い頃からのカソリック教徒で、キリスト教を小説の主題とし続けた遠藤との出会いは、運命的だったと言える。

「何が起きても、この企画を失うことだけはないように」

スコセッシは、89年に同小説の映画化権を獲得。しかし、この企画は迷走に迷走を重ね、熱望した実現までには、なんと25年以上の月日が費やされた。脚本家との方向性の違いによる幾度ものシナリオ改訂、映画化権の所在を巡る製作会社との金銭問題などが、複雑な法廷闘争に発展。スコセッシ自身にも、次々とほかの作品の製作に追われ『沈黙』を後回しにしたことで、数億円以上の賠償責任が生じるなどした。

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『沈黙-サイレンス-』1月21日(土)全国ロードショー
(c) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

ダニエル・デイ=ルイス、ベニチオ・デル・トロ、ガエル・ガルシア・ベルナルら多くの配役が決まっては、その度に企画が流れた。「もう(細かいことは)覚えていない。確かなのは、私がマネージャー、代理人、弁護士に、何が起きてもこの企画を失うことだけはないように、と頼んでいたことだけ」と監督は回想する。

こじれにこじれた企画は2014年1月、ついに泥沼を抜け出し、スコセッシと製作会社は和解。その後もロケ地や撮影に関し問題は後を絶たなかったが、監督が夢見た映画化は、製作費4650万ドル(約52億5450万円)でようやく実現に漕ぎ着けた。

窪塚洋介のキチジロー役は、三船敏郎がゴラムを演じるようなもの?

日本よりひと足先に、1月13日(金)から全米で公開された同作は、2時間40分の長尺ということもあり、興行的には大苦戦。だが、米メディアの批評には作品を称える声が多く、映画評まとめサイト「ロッテントマトズ」は、約85%の批評家がポジティヴに評価しているとした。最後に、そのいくつかを紹介する。

何という美しさ、何という無慈悲、何という狂気。
  ――「シカゴ・サンタイムズ」紙の有名映画評論家リチャード・ローパー

覚悟して見るべき映画。鑑賞後に予定を入れないように。映画館を出たからといって、作品はあなたを離してくれない。
  ――「ニューズウィーク」誌

これは「好き」とか「好きじゃない」という類の映画ではない。体験し、ともに生きる映画だ。
  ――「ロジャー・イーバート・ドットコム」

マーティン・スコセッシは、自身の宗教観を中世の日本で組み伏せた。
  ――「ハリウッド・リポーター」誌

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『沈黙-サイレンス-』1月21日(土)全国ロードショー
(c) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

また「ヴァラエティ」誌は、「はぐれ者で狡猾なキチジロー役の窪塚洋介は、(例えば『ロード・オブ・ザ・リング』の)ゴラムを三船敏郎が演じる様を思わせる」「嘘の優しさで人の気を萎えさせる井上筑後守役のイッセー尾形は、『イングロリアス・バスターズ』でナチの大佐を演じたクリストフ・ヴァルツのようだ」と独特の表現で日本人キャストの演技を評価している。

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記事制作 : Avanti Press(外部サイト)