現場の混乱、数億の損害…『虐殺器官』スタジオ倒産を乗り越えたプロデューサーの“今だから語れる”真相

インタビュー

  • twitter
  • facebook
  • はてなブログ
  • google+
  • LINEで送る

gyakusatu300
『虐殺器官』2月3日(金)より公開 配給/東宝映像事業部-(C)Project Itoh / GENOCIDAL ORGAN

フジテレビ深夜アニメ枠「ノイタミナ」発の劇場版プロジェクト「ノイタミナムービー」。その第二弾として2014年3月に製作が発表された「Project Itoh」は、2009年に34歳の若さで逝去した小説家・伊藤計劃が遺した『虐殺器官』『屍者の帝国』『ハーモニー』の三作を2015年に一挙公開するというものだった。

しかし、2015年10月2日に第1弾となる『屍者の帝国』公開直前の9月29日に、『虐殺器官』を制作していたアニメスタジオ、マングローブが事業を停止、11月4日に破産宣告を受けるといった事態に見舞われた。未曾有の事態によって三部作完成が危ぶまれた同プロジェクトだが、当時フジテレビのプロデューサーだった山本幸治氏が、新スタジオ「ジェノスタジオ」を設立し、制作を続行するという英断を下してから約1年と3ヵ月となる2月3日、遂に『虐殺器官』が劇場公開される。

今回、前代未聞の困難を乗り越え、プロジェクト完遂を目前にした、ジェノスタジオ代表・山本幸治チーフプロデューサーに、今だから語れる事態の真相を伺った。

2割の完成率。まるで「霧」の中

yamamotoshi500
ジェノスタジオ代表・山本幸治チーフプロデューサー

Q:実際のところ、マングローブの倒産が発表されたタイミングでは、『虐殺器官』はどれくらい完成していたのでしょうか。

A:当時、何割完成しているかを把握できないような混乱状況でした。製作委員会やその中心でもあるフジテレビに、 「おそらく半分はできていた」みたいな不明瞭な報告をせざるを得ないくらいでした。実際、今、ほぼ作り直しした状況から言うと、2割くらいしかできていなかったんだなっていうのが、わかった感じですね。

Q:倒産の発表は、公開予定日だった2015年10月よりさらに延期された11月13日まで2ヵ月を切ったころでした。その時期で進捗2割は絶望的状況では?

A:絶望的でしたね。僕らスタッフは、当時の混乱状況を「霧」という言葉で表現していたのですが、霧が濃くて本当にわからなかったんですよ。誰か一人が隠しているというよりは、当然、全体的に隠さなきゃいけない状況が、財務状況を含めてマングローブにはあったのでしょう。そのうえ、『虐殺器官』に携わっている村瀬監督をはじめとするスタッフ陣が「GANGSTA.」というTVアニメを同時に制作していたんです。

Q:その体制とスケジュールは無理がありますよね……。

A:本来ならば、『虐殺器官』は1年前には完成しているはずだったんです。それが先送りされたうえに、「GANGSTA.」も半年くらい伸びたことによって、スケジュールが揃っちゃったんですよね、不幸にも(笑)。さらに「GANGSTA.」はTVオンエアがある、という強制スケジュールだったので、『虐殺器官』の優先順位が下がり、支払いができなくて作業予定が飛ぶっていう、一番悲惨な状況に追い込まれた感じですね。なので、本来ならば「Project Itoh」は、伊藤さんが発表した通り、『虐殺器官』『ハーモニー』と公開して、それからしばらく時間をおいて『屍者の帝国』の順番で上映する計画だったんですが、各アニメスタジオのスケジュールによって、現在の公開順になってしまったんです。

数億円の全損回避!! プロデューサーとしての責任

Q:マングローブで制作していた当時の制作中間素材などは、山本さんの方で買い取ったのでしょうか。

A:フジテレビが契約に基づいて素材を引き上げて、それから再発注をジェノスタジオにした、という状況ですね。僕は『虐殺器官』の制作を始めた時はフジテレビのスタッフの立場でしたが、今はジェノスタジオの代表になったので、右手と左手みたいな感じがあるんですけど。

Q:山本さんとしては、三部作と銘打ったからには、『屍者の帝国』と『ハーモニー』で終わらせたくない、という気持ちが強かったのでしょうか。

A:本来、プロデューサーというのは、作品を観てくださる方々や原作を提供してくださる作家や出版社に対する責任も大きい仕事なんですけど、その瞬間は、何億円かを出資しているフジテレビに全損させる訳にはいかないという、プロデューサー業務の責任がほぼ全ての動機でした。もし、制作を中止すれば何億円という損失を確実に出してしまいますが、作り続ければ少なくとも全損は避けられるというのが、継続を決意した時の一番の動機ではありましたね。

トラブルのリカバリーは『虐殺器官』の反響次第

gyakusatsu500
『虐殺器官』2月3日(金)より公開 配給/東宝映像事業部-(C)Project Itoh / GENOCIDAL ORGAN

Q:ジェノスタジオは『虐殺器官』を制作するためだけに設立されたスタジオなのでしょうか?

A:今後のTVシリーズの制作も予定しています。

Q:いよいよフィナーレ目前の「Project Itoh」ですが、振り返ってのお気持ちを聞かせてください。

A:本当にいろんなことがあり過ぎて、全然俯瞰できていないんですけど、やっぱりすべては『虐殺器官』の完成を見守って、そして結果が出ないと何とも言えないという感じですね。僕だけでなく、「Project Itoh」に関わったスタッフの皆さん、そして映画の完成を待っていてくださる方々も含め、これまでに起きたトラブルをリカバリーできるかは『虐殺器官』の反響次第ですよね。今は口コミの時代なので、ぜひ応援の口コミをお願いします!

yamamotoshi2_500

『虐殺器官』
2月3日(金)より公開
配給/東宝映像事業部
(C)Project Itoh / GENOCIDAL ORGAN

(取材・文/中村実香・サンクレイオ翼)

記事制作 : サンクレイオ翼