『エリザのために』に見る、やり過ぎな父の愛情とルーマニアの抱える闇

コラム

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2017年1月28日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開-
(C)Mobra Films - Why Not Productions - Les Films du Fleuve – France 3 Cinéma 2016

昨年カンヌ国際映画祭(監督賞)を受賞した『エリザのために』が1月28日(土)から公開されています。メガホンをとるのは世界で高い評価を受けるルーマニアの映画監督クリスティアン・ムンジウ。混迷を続けるルーマニアの社会情勢を描きづづけ、『4ヶ月、3週と2日』(2007年)、『汚れなき祈り』(2012年)と過去手がけた2作品でもカンヌに衝撃を与えてきました。

そんな監督が本作で描くのは、不正に手を染めてまで娘エリザのために奔走する父ロメオ。しかし、やり過ぎに見える行動は、単なる暴走というわけではなく、父の深い愛とルーマニアが抱える闇を映し出しているようです。

逮捕確実!! 娘のための不正行為


2017年1月28日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開-
(C)Mobra Films - Why Not Productions - Les Films du Fleuve – France 3 Cinéma 2016

通学途中にも関わらずエリザを車から降ろし、愛人のもとへ向かうロメオ。ところがその後娘は暴漢に襲われてしまいます。イギリス留学を決める試験を間近に控えたエリザは、未遂だったとはいえ深く傷つき動揺します。そんな娘のためにロメオは警察署長、副市長、試験委員長と、コネをフル稼働してケンブリッジ大学の奨学生に選ばれるよう工作します。

逆説的ではありますが、ロメオがそのように仰天の行動に出る理由は、そんな不正も行われる場所から娘に離れて欲しいという想いのためなのです。

背景にはルーマニアの社会情勢


2017年1月28日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開-
(C)Mobra Films - Why Not Productions - Les Films du Fleuve – France 3 Cinéma 2016

ルーマニアは、1989年チャウシェスク大統領の独裁政権が倒され、共和制国家となりました。ところが、民主化運動がうまくいかず、経済発展に伴う貧富の差の拡大、雇用不安など社会情勢は悪化。汚職や不正がはびこるようになってしまいます。

医師であるロメオは、1991年に民主化への期待を胸に妻と帰国したものの、何も変わらない現実に失望した過去を持っています。また、エリザが乱暴されそうなのにも関わらず、通りかかった人々は無関心だったというエピソードは実話が元となっています。

ロメオは過去の経験や娘の事件から、“誰も助けてくれない”のなら「自分で何とかするしかない!!」と、不正を働いてまで娘を留学させる決意をしたのではないでしょうか。

カンヌの常連が描くルーマニアの危機

これまでムンジウ監督は映画にルーマニアの“今”を刻みつけてきました。

カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールに輝いた『4ヶ月、3週と2日』では、個人の自由が制限されていた政権下で、ルームメイトの違法な中絶手術を手助けする女子大生の長い1日を描きました。また、女優賞・脚本賞を受賞した『汚れなき祈り』では修道院で実際に起きた事件を元に、悪魔祓いに巻き込まれた2人の女性の悲劇を描き、『エリザのために』では不正を働く父親の姿を通して、革命後も変わることのないルーマニアの社会情勢を映し出し、監督賞を受賞しています。

ロメオの行為は許されないかも知れません。しかし混迷する社会下で、娘のために汚名を着るのも厭わず奔走する父親をただ非難することはできません。

ただし、ムンジウ監督は子供たちの将来を案じ、彼らの自由を縛ろうとする姿勢にはNOをつきつけます。辛い事件や一連の騒動を経験して、人間的にも成長したエリザが、最後にどんな未来を選択するのか、そこに監督からどのようなメッセージが託されているのか、ぜひ劇場で確かめてみてください。

(文/足立美由紀・サンクレイオ翼)

記事制作 : サンクレイオ翼