女優・冨手麻妙と鬼才が放つ、過激な反ポルノ闘争「日活ロマンポルノ・リブート」Vol.4 園子温監督

インタビュー

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取材・文=大谷隆之/Avanti Press

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「エロ」の概念を根本から揺さぶる『アンチポルノ』 (C)2016 日活

日本映画が低迷していた1971~1988年、低予算で約1100本もの成人映画を送り出し、あまたの監督・脚本家を育てた「日活ロマンポルノ」。そのスピリットを現代に継承する企画が、昨年11月にスタートした「日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」だ。すでに公開された3作品はいずれもスマッシュヒットを記録。往年のファンはもちろん、若い女性客の間でも高い支持を得ている。園子温監督による第4弾『アンチポルノ』は、そんな話題作を上回る、“炎上”すら起こさせそうな問題作。次々に繰り出されるアヴァンギャルドな手法とアナーキーな世界観は、男社会を流通してきた「エロ」という固定概念を根本から揺さぶる力強さ、もっと言えば“明るい悪意”に充ち満ちている。

高だかと掲げた園子温監督の「反=ポルノ」宣言

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観客に居心地悪さを強いる“園子温印”の仕上がり (C)2016 日活

78分。その全編に大胆なヌードと激しい濡れ場が散りばめられている。過激なセリフも「これでもか!」とばかりに頻出する。だが、誤解を恐れずに言うなら、いわゆるエロい気分にはさせてくれない。閉ざされた空間内で展開するドラマの濃密さと、まるで俳優と観客がダイレクトに向き合っているような演劇性、そして何より、劇中を飛び交う挑発的言葉が「お前にとって、エロって何だ?」と問い詰めてくるようで、観ている間ずっと、居心地悪さを強いられる。まさに“園子温印”の仕上がり──。

「最初はこの話、お断りしたんです」

日活ロマンポルノの再起動プロジェクトへ参加するにあたって、なぜ自作に「反ポルノ」などという題名を掲げたのか? その経緯について、監督はこう説明する。

「だってロマンポルノは、まだアダルトビデオもなかった時代の産物でしょう。ネットを開けば過激な映像がいくらでも溢れている昨今、エロを求めてわざわざ映画館に行く人がいるとは思えません。かといって、過去へのノスタルジーから今さらロマンポルノっぽい作品を撮っても面白くないし、少なくとも僕には耐えられない」

だが、プロデューサーと「これはやりようがないね」と話し合っていた際、園監督がふと口にした一言から、状況は大きく動いたそうだ。

「既存のポルノという枠組みを全否定するような映画なら撮ってみたいなと。あまり深い意図もなく、僕が話したんですね。そしたらそのプロデューサーが、それでも構わないと。たぶん5本のシリーズものだから、1本くらい目先の違う作品があってもいいと思ったじゃないかな(笑)。当時、僕も日本社会に対してすごく苛立っていたので。せっかくなら全方位に『アンチ』とか『ノー!』って言いまくる作品にしてやろうと。それが最初の発想でした」

女優・冨手麻妙になら、何でも要求できる

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売れっ子小説家兼アーティストを体当たりで演じた冨手麻妙 (C)2016 日活

物語の舞台は、極彩色に彩られた部屋。時代の寵児となった若い小説家兼アーティストの京子が、分刻みのスケジュールに追われながら創作に没頭するシーンから始まる。深刻な表情でひとり言をつぶやき、いきなり感情を爆発させたかと思ったら、次の瞬間には輝く笑顔で室内を踊り回ったり……。

「パッと見ると躁鬱病みたいですが。あのキャラクターは、実は僕自身の分身なんです。彼女はすごい二面性を抱えていて、いわばエロス(生への欲望)とタナトス(死の衝動)の間を行ったり来たりしている。もちろんあれほど激しい振り幅はないけれど、同じ心の動きは僕の中にもあるし。みんな多かれ少なかれ抱えてると思うんです。あと京子は、嘘や欺瞞に耐えられなくなるとすぐ吐いちゃうでしょ。あれも僕と同じ(笑)。そうやって自分の中にある感情を、いろいろ反映させています」

自由奔放を絵に描いたようなヒロインを演じたのは、女優の冨手麻妙。『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』『みんな!エスパーだよ!』と2015年だけで3本もの園子温監督作に出演した、いわば近年のミューズ的存在だ。

「彼女はもう園組の一員で、根本的に信頼してるし、これからも一緒にやっていきたい人なので、キャスティングに迷いはなかったですね。とにかく思い切りがよく、納得すれば裸でもセックスでも『それがどうした!』って感じで堂々と演じてくれる。こちらも一切気を使わずに、何でも要求できます(笑)。例えば今回、京子が室内を四つん這いで動きまわるシーンがありました。で、僕があまり深く考えずリテイクを重ねていたら、いつの間にか彼女の膝が血まみれになっていた。そういうときも、痛いとかツライみたいな弱音はまず吐かない。『これは事務所的にちょっと……』みたいな面倒なことも絶対に言わない。演出家としてはやっぱり非常に頼もしい存在ですね」

どこか愛憎入り混じる筒井真理子との関係

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抜群の演技力で作品の“仕掛け”を支えるベテラン・筒井真理子 (C)2016 日活

『アンチポルノ』にはもう1人、京子と対照的な女性が登場する。忠実なマネージャーの典子だ。清楚な服を身につけたこの秘書は、年下の「先生」のサディスティックな言動を一身に受け止めている。ときには首輪を付けられ、まるで犬のように主人を見上げながら恍惚の表情さえ浮かべる(ただしこの悪夢的な関係には、驚愕の真実が隠されているのだが)。難しい役柄を演じたのはベテラン女優の筒井真理子。やはり『希望の国』(2012年)や『みんな!エスパーだよ!』(2015年)など、園作品の常連と言っていい。

「筒井さんと僕は、文字どおり同世代。監督と役者というビジネス的な関係を超えて、どっか兄妹っぽい感覚もあって……。一緒に仕事できて嬉しい反面、ある種のやりづらさもあるんですよね。彼女は脚本の読み込み方も的確だし、そもそも僕のことをよく理解してくれている。でも、あまり分かってる人が現場にいると監督的にはやりにくかったりするじゃないですか(笑)。ちょっと愛憎が入り混じるっていうのかな。でも、ここぞという難しい役には、やっぱり彼女をキャスティングしたくなります」

デモの先頭を歩くヒロインの姿も撮影!?

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劇中に登場する絵画はすべてその監督の手によるもの (C)2016 日活

物語が進むにつれ、ヒロインの中で虚構と現実、過去と現在が激しく交錯。アナーキーな映像演出とも相まって、観客は思いもよらない地平までどんどん運ばれていく。そういうアヴァンギャルドな主題を、冒頭で描いた「極彩色のアトリエ」というほぼワンセットで撮りきってしまう手腕も、いかにも園子温監督らしい。

「もともと、1つのシチュエーションだけで完結しちゃう映画が好きなんですね。加えて今回のプロジェクトでは、製作費は一律同じという縛りもあったので。あれこれシーンを増やすことで安っぽさが目立ってしまうよりは、むしろ低予算を逆手に取りたい気持ちもありました。逆転の発想ですね」

アトリエに飾られている(京子が描いた設定の)ドローイングも、実は園監督自身の手によるもの。ただし、シチュエーションこそ密室的だが、そこには当時、園監督が抱えていた社会意識もリアルに反映されている。

「この『アンチポルノ』の撮影時期は、ちょうど安保法案(安全保障関連法)に反対する国会前デモが盛りあがっていた頃で……。僕自身、いろいろ腹に据えかねることもあって、実はヒロインの京子がデモの先頭に立って大声を発する映像を撮ったりもしていました。撮影から1年以上たって編集したので、残念ながら鮮度が足りなくなってカットしちゃったんですが……。せっかくプロデューサーが『好きにやっていいです』って言ってくれたんだし、そうやって虚構と現実をごちゃまぜにしたり、商業映画的なルールをぜんぶ反故にする作品にしたかった。それは完成版にも十分生きていると思います」

男のためのポルノを揺るがす「売女」の響き

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主演・冨手麻妙を演出する園子温監督 (C)2016 日活

「おまえは売女(ばいた)になれるか?」。本作のヒロイン・京子は、何度もこの言葉を繰り返す。あるときは他者に対し、あるときは自分に向けて──。女性が主体的に放ったその声はまるで、男のために作られたポルノグラフィーという分野を内側から揺るがし、自壊させるかのように力強く響く。

「マドンナやレディー・ガガもそうですが、自分で自分をビッチとか売女と呼ぶことで、男が思い描く女性像から自由になれる部分もあるのかなと。それに、いわゆる男権社会に生きる息苦しさって、僕たち男性自身にもある気がします。そういう僕自身の感覚も、京子というヒロインに託してみました」

本作で高々と「反=ポルノ」を掲げてみせた園監督。だがそれは「映画におけるエロス表現を否定するものではまったくない」。

「むしろ逆で、艶めかしいエロスを感じさせない映画なんて、僕は何の魅力も感じません。ただ本当の意味でのポルノグラフィーって、いかにも男が喜びそうな女性の媚態を集めることじゃないと思うんですね。今回『アンチポルノ』ではそのことを再確認できた。作家として、あらためて解き放たれた感覚がありました」

園子温監督 1961年、愛知県生まれ。87年、『男の花道』でPFFグランプリを受賞。PFFスカラシップ作品『自転車吐息』(90)は、ベルリン国際映画祭正式招待のほか、30以上の映画祭で上映された。ほか『愛のむきだし』(08)で第59回ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞、『冷たい熱帯魚』(11)で第67回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門・第35回トロント国際映画祭ヴァンガード部門、『恋の罪』(11)で第64回カンヌ国際映画祭監督週間に正式招待される。『ヒミズ』(12)では、第68回ヴェネチア国際映画祭にて主演二人にマルチェロ・マストロヤンニ賞をもたらした。近年の作品として、『TOKYO TRIBE』(14)、『新宿スワン』(15)、『ラブ&ピース』(15)、『リアル鬼ごっこ』(15)、『映画 みんな!エスパーだよ!』(15)、シオンプロダクション製作第1作目となる『ひそひそ星』(16)などがある。現在、『新宿スワンⅡ』が公開中。

『アンチポルノ』
1月28日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)