電気がない生活なら若者は“死”を選ぶ!?『サバイバルファミリー』矢口史靖監督がみた「世代の差」

インタビュー

  • twitter
  • facebook
  • はてなブログ
  • google+
  • LINEで送る

文=高村尚/Avanti Press

SF6
『サバイバルファミリー』2月11日より全国東宝系にてロードショー
(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

面白くって気の抜けたコメディを書かせたら右に出る者はいない矢口史靖監督の新作『サバイバルファミリー』。原因不明の現象で電気が使えなくなり、ライフラインが止まった都市から、サバイバルの旅に出る家族の物語だ。矢口監督のオリジナル脚本による本作の企画は、パソコンが家庭に普及した『ウォーターボーイズ』公開後の2001年頃に始まった。IT機器オンチの監督の「こんなもの全部使えなくなっちゃえばいいのに!」というところから。

yagu1
矢口史靖監督

最初のタイトルは『サバイバルファミリー』じゃなかった

「電気が使えなくなったらちょっと面白くない? みたいな発想から始まったので、最初のタイトルは『サバイバルファミリー』じゃなかったんです。その時に桝井(省志)プロデューサーが付けたタイトルが『そのうち点くでしょう』。僕が付けたのが『OFFのほそ道』。電気がなくなることでちょっと楽しい旅が始まるみたいな気分で始めたわけですが、内容を詰めていく過程で、結構シビアな状況になることが分かってきたんです」。

Q:分かってきたシビアな状況とは?

「脚本を書く前に製作会社のアルタミラ・ピクチャーズが20代から50代オーバーの人たちにアンケート調査を実施したんです。“ある朝、電気が全くなくなっていたらあなたはどうしますか?”と。その紙いっぱいに書くスペースがあって、一番下に“答えを書き終るまでめくらないで下さい”って書いてある。最初の答えは皆さんスマホが使えなくて不便だとか、学校に行こうかどうか迷うとか、頑張って会社に行きますとかそんな感じなんです。次をめくると、3日後、1週間後、1カ月後、1年後となっていく。始めはのん気に構えていた人たちも、状況がシビアになっていく過程で、だいたい1カ月を境にして若い人たちはほとんど死んでしまうという……。“私、もうこの世にいません。高いとこから皆さんを見守っています”とか、“部屋から出ないで野垂れ死にしてます”とか。でも年齢が上がれば上がるほど“学校のグラウンドを耕して何か植えます”だったり、“海の側に行って釣りします”とか、“実家に身を寄せて自給自足”な感じで書いている。若い人は、スマホやインターネット、交通手段、物流がなくなった時点で、自分が生きている姿が想像できなくなっちゃうみたいなんです。でも地方で野菜を作ったり、山や海、川で食べ物を調達しているようなお年寄りの生活は、電気が止まろうがなんだろうがあまり変わらないということが分かった」。

SF1
『サバイバルファミリー』2月11日より全国東宝系にてロードショー
(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

Q:そもそもなぜ電気がなくなったのか? 裏設定はありますか?

「僕にも分からないんですよね。でもそういうのが好きなんです。結局誰にも分からない。そもそも電気を手に入れた時のことも、いま使えている理由も僕らははっきりとは分からないので、それでいいんじゃないかと(笑)。映画の中でガソリンで動くはずの車が動かないのはなぜかってよく聞かれるんですが、それは自動車も圧縮された混合ガスに電気の火花がスパークして爆発を起こし、クランクを動かすものだからです。ガスコンロも発火に電池を使うので点かない。電池を使わずに圧力だけで点ける圧電式もありますが、それにも電気が必要なんです。土砂降りのシーンが3回くらいありますが、雷は鳴っていません。稲光がないのは雷も電気だから。きっとオーロラも出ないでしょうね」。

体当たりの演技とはこういうこと!? 深津絵里の女優魂

Q:鈴木家のお父さんを小日向文世さんが、光恵お母さんを深津絵里さんが演じられていますが、実際の年齢差は19歳差ですよね? 2人を夫婦役に設定されたのはどうしてですか?

「なぜ、でしたかね(笑)。まずお父さんを決めました。でも小日向さん、とても若く見えるので60過ぎてるって思わなかったんですよ。奥さんは、一度ドラマのお仕事させてもらった深津さんが、案外すっとぼけたことをする人だったんで、いつか僕の映画でその気の抜けたユーモアを見せて欲しいと思っていたんです。映画の後半には、ピンぼけな感じからだんだん弱っていって生命力を細らせる。そういう線の細い感じに変身できるのも深津さんだと。でも実際並べてみると、やっぱり年の差を少し感じたので、実は深津さんの眉尻を少しメイクで下げたりしているんです。暗くなるとかけるメガネもそのためで、のん気なおばちゃんに変身しています」。

SF9
『サバイバルファミリー』2月11日より全国東宝系にてロードショー
(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

Q:主演クラスの女優さんで自身への汚しOKな方って珍しいのでは?

「そうですね。まあ、でもこの台本読めばどんな目に遭うかは分かると思うので。それを受けた時点で、あら受けてくれるんだ、くらいの感じです」。

Q:でも皆さん想像以上だったのではないでしょうか?

「それは、俳優さんたちが皆言っていました。あ、今日も“本当に”やるんだって」。

Q:本当にとは?

「本来ならスタジオにセットを組んで、グリーンバックで合成するようなシーンを本当にやるわけです。高速道路を自転車で走るとか、筏で川を渡るとか。車で連れて行かれた先に豚がいて“豚のトレーナーさんとかいませんので、逃げる豚を皆さんで捕まえて下さい”とだけ言われる。そんな調子で毎日地方ロケ。全てぶっつけで撮影していました」。

SF7
『サバイバルファミリー』2月11日より全国東宝系にてロードショー
(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

Q:驚きですね。でも素手で豚を捕まえるチャンスってあまりないでしょうね。

「ないでしょうね。深津さんも小日向さんも、息子役の泉澤(祐希)くんや娘役の葵(わかな)さんも、多分こんな撮影、2度とないだろうって言いながら頑張ってました。現代の日本にいるのにどうしてこんな目に合わなきゃいけないんだって」。

矢口監督のサバイバル術、伝授なるか?

Q:映画を撮りながら矢口監督が体得したサバイバル術があれば伝授してください。

「僕ですか? 僕に頼っちゃだめです。予告に、この家族の真似はしないでくださいって出ますけど、僕の真似もしたらだめだと思います。多分、鈴木父(小日向)以上に役立たずだと思いますから。映画作った後もなにも変わってないんで(笑)」

Q:サイクリングウェアを着て、アウトドア用品を積んだロードバイクで移動している斎藤(時任三郎)一家は、アウトドアが趣味のようでサバイバルな状況を余裕で楽しんでますね。

「鈴木一家があれだけボロボロになっているのに、すごくスマートに過ごしてるから見ててちょっとムッとするかもしれないんですけど、あっちの方が生き方としては正しいんですよ。鈴木一家は間違いだらけ。見習うなら時任さんと藤原紀香さんの斎藤一家を見習ってください。ギアを揃えるのにお金がかかりますけどね」

SF3
『サバイバルファミリー』2月11日より全国東宝系にてロードショー
(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

Q:改めて購入を考えましたが、非常時に自転車は必需アイテムですね?

「ええ。でも電動アシスト付きはだめです。僕は普段、電動アシストに乗っているんですが、電池が切れるとすごく重くなるんで(笑)」。

矢口史靖 やぐち・しのぶ 1967年生まれ。大学で自主映画を撮り始め、『裸足のピクニック』(1993年)で劇場監督デビュー。オリジナル脚本をもとに絵コンテを書いて撮影する独自のスタイルで、ユニークな題材に挑み、一見相反するようなユーモアと感動を併せ持つ傑作を生み出し続けている。主な作品に『ひみつの花園』(1997年)『スウィングガールズ』(2004年)『ハッピーフライト』(2008年)『ロボジー』(2012年)『WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~』(2014年)などがある。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)