「動員伸びずヤケクソで」作ったら驚異的記録樹立!?異才・山内ケンジの映画術

コラム

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(C)SPOTTED PRODUCTIONS

昨年11月に新宿武蔵野館で7日間限定上映が行われ、全回満席という驚異的な記録を樹立したインディペンデント映画がある。「ソフトバンク白戸家」などの個性的なCMを生み出してきた山内ケンジ監督による、ワンシチュエーション会話劇『At the terrace テラスにて』がそれだ。ベストセラー小説や漫画が原作ではなく、超有名俳優がキャスティングされているわけでもない。しかしその面白さがSNSを中心に話題となり、この好評を受けて2月18日からの全国順次公開が決定した。メジャー邦画作品が記録的なアベレージを叩き出す一方、単館系のインディペンデント作品との格差も激しくなっている。そんな状況下で山内監督はどのような狙いを持って本作を世に送り出したのだろうか。

“どうせ観てくれない”ヤケクソな気持ち

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原作は、第59回岸田國士戯曲賞を受賞した山内監督による戯曲「トロワグロ」。石橋けい、平岩紙、古屋隆太、岩谷健司ら公演時の実力派がスライドする形で再演した約90分間のワンシチュエーションの会話劇。はる子(平岩)の白い腕の話題を端緒に、パーティー終了間際の豪邸のテラスで男女7人のエゴと欲望がおかしな方向へと転がっていく。カット割りやアングルの変化はあるものの、カメラが捉えるのはテラスにいる男女の会話のみ。演劇ものを映画化する場合は、舞台設定の変更やシーンの追加などを行い、より映画的なものに寄せることもある。だが山内監督はそれを選択しなかった。

「こだわったのは“普通の映画”にしないこと。長編デビュー作の『ミツコ感覚』はマニアックな感じで作り、次の『友だちのパパが好き』は一般層へすそ野を広げる意識で作りました。ところが自分が思った以上に動員が伸びず、かなりガックリきた。ならば大衆に受け入れてもらおうという気持ちは捨てて、“どうせ観てくれない”というヤケクソな気持ちで、流行の映画にはないことを優先しました」と尖る。

“わかりやすさ”が善とされる現代とは真逆の発想は、原題「トロワグロ」から変更した映画タイトルにも反映されている。「“At the terrace”は、テラスから動かない映画ですよ、という宣言だし、わざとローマ字タイトルを頭に持ってきたのもインターネットで検索する際に面倒だからです。あえて“見てください、お願いします”という要素をゼロにしました」と説明する。

劇中でも、現実的なやり取りの中で急にシュールさが顔を出す。田ノ浦(師岡広明)が「はる子で、ひとつ」といきなりカメラ目線でセリフを発したり、和美(石橋)がショールを脱ぎ捨てる際に神秘的効果音が流れたり。エンドロールでは、山内監督が俳優陣を紹介する一風変わった演出もある。

「それらは、あなたが今見ているのは普通の映画ではないですよ?狙って作ってるんですよ?わかってらっしゃいますよねえ?というメッセージです。自分の中では大衆向けだった『友だちのパパが好き』の反動で、あえて観る人を限定する作りにしています」と挑発的だが、山内監督が手掛けたCMや主宰する劇団・城山羊の会は、そういった挑発性と独自の世界観が視聴者や観客にインパクトを与えてきた。

今あるジャンルやカテゴリーにないものを

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テラスで起こる約90分の出来事をそのままの時間軸で見せる本作は、肉体を使ったアクションは皆無ながらも、作品全体を包むのは凄まじいまでの躍動感。真に迫った俳優陣の演技と、コミカルさとブラックさが混ざり合ったリアルな山内節セリフが合体し、予想外の結末へと突進する。その会話のやり取りは、まるで言葉のアクション。撮影は5日間だったが、編集には約2か月をかけた。

「観る人を限定して」山内監督が上から目線で問うた『At the terrace テラスにて』は第29回東京国際映画祭上映の反響もあり、新宿武蔵野館ではオンライン予約が繋がらない状態になる盛況ぶりだった。

拡大公開決定に山内監督は「観る人を限定する映画と覚悟を決めて作ったので、昨年11月の限定公開であそこまでお客さんが入った事には正直驚きました。でもこの作品を観たいと思う人はその時点で全員が観てしまったはずなので、拡大公開にはまったく期待しておりません」とニヒルだが「単館のインディーズ映画は演劇と違って、集客も反応も含めて未知数です。映画の作り方や状況も変化している渦中にあって、数字として納得いく結果が出ていないのは悔しいし、解決しない問題ほど興味の湧くものはない」と映画製作への熱量は高まるばかりだ。

そもそもエンドロールのナレーション演出は、イングマール・ベルイマン監督の『ある結婚の風景』へのオマージュであるなど、山内監督は映画愛に溢れた人でもある。現在は長編映画監督作第4弾の脚本を執筆中。「こんなのほかにないだろうと思うものを作りたいけれど、商業映画である限り集客も必要。観客を呼び寄せるためにはどんな要素が必要なのかを意識しつつも、自分自身が面白いと納得するものを書かなければいけない。自分だからこそ書ける物語、今あるジャンルやカテゴリーに囚われないものを生み出していきたい」。唯一無二の世界観を武器にCM界と演劇界で注目を集めたように、映画界でも“山内ケンジ”という名前を轟かせていきたい。

文・石井 隼人

記事制作 : 石井隼人

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