自分を捨てた“実母”と愛をくれる人たち、どちらとの人生が幸せなのか?

コラム

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その映画を「観たい」と思う理由は人それぞれ異なるものだが、自分のなかで、この監督の作品は絶対に観たい! と新作を心待ちにしている映画監督が何人かいる。荻上直子監督はそのひとり。2004年に『バーバー吉野』を観てからずっと追いかけている。一般的には『かもめ食堂』や『めがね』で注目を浴び、日本映画界の新しいジャンルを築いた人物。作品の雰囲気はどれもやわらかいが、実際は何かを決断してたくましく生きていく人たちの話だと思っていて、そこに惹かれている。荻上監督の新作『彼らが本気で編むときは、』は、セクシュアル・マイノリティ(LGBT)の女性を主人公にした物語だ。

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リンコ(生田斗真)はトランスジェンダーの女性で、介護士として老人ホームで働き、恋人のマキオ(桐谷健太)と一緒に暮らしている。2人の出会いはその老人ホーム。マキオの母を献身的に介護するリンコに彼が一目惚れをしたのがきっかけだ。ある日、マキオの姉が家出をしてしまい、彼女の娘のトモをマキオが預かることになる。トモにとってリンコは初めて出会うトランスジェンダーの女性だったが、一緒に暮らすうちにリンコとトモはまるで母と娘のように仲良くなり、心を通わせ、リンコのなかでトモのママになりたい……という思いが強くなっていく。

トモにとって、自分を置いて家出をしてしまう実母と、血のつながりはなくても深い愛情を注いでくれるリンコ、どちらとの人生が幸せなのかを考えることで、何を持って親子というのか、何を持って家族というのか、大きな問いかけを受け取る。その問いかけの答えを探すことは、愛について考えることでもあって。この映画がずっと心に残るのはそういう理由もある。そしてもうひとつ心に残ったシーンがある。悔しいことがあるたびに趣味である編み物をして心を落ち着かせてきたリンコの“悔しさや怒りを消化させる方法”はこういうのもアリだと、真似たいと思った。

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マキオのセリフ「男とか、女とか、もはや関係なかったんだ」からも分かるように、この映画は、男だからとか女だからとかではなく、人として好きになるとはどういうことかを描いている。そんなリンコとマキオの恋愛にも感動するが、それ以上に感動するのはリンコの母の愛情だ。身体的には男性なのに心は女性であるリンコのすべてを受け止めて、中学生になったリンコが「おっぱいが欲しい」と言うと「あなたは女の子だもんね」と胸につけるニセ乳を一緒に作ってくれるお母さんって、一体どれくらい居るのだろう。そういう母親に育てられたからこそリンコもまた愛情深い女性に育ち、その愛情がマキオやトモに注がれ、きっとトモも他の誰かにリンコから受け取った愛を注ぐことになるのだろう。愛情は連鎖する。もちろん映画を観た人にも連鎖するはずで、自分の大切な人を大切にしよう、愛する人に気持ちを伝えよう、そう思った。

文・新谷里映

『彼らが本気で編むときは、』2017年2月25日全国公開
第67回ベルリン国際映画祭 パノラマ部門・ジェネレーション部門 正式出品作品
出演:生田斗真、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、込江海翔、りりィ、田中美佐子 / 桐谷健太 ほか
脚本・監督:荻上直子
配給:スールキートス
公式ウェブサイト :http://kareamu.com
(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

記事制作 : 新谷里映

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