美しき仮面ライダー女優・飛鳥凜が挑んだ“女同士の究極愛”「日活ロマンポルノ・リブート」Vol.5 中田秀夫監督

インタビュー

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取材・文=大谷隆之/Avanti Press

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女性同士の究極の愛を描いた『ホワイトリリー』 (C)2016 日活

日本映画が低迷していた1971〜1988年。低予算で約1100本もの成人映画を送り出し、あまたの監督や脚本家を育てた「日活ロマンポルノ」。そのスピリットを現代に継承する企画が、気鋭の監督5人が同じ条件でオリジナル新作を競い合う「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」だ。昨年11月に始まり、劇場に多くの女性客も集めているこの試み。ラストを飾る『ホワイトリリー』は、『リング』(1998年)や『クロユリ団地』(2013年)など“Jホラー”の名手としても知られる中田秀夫監督が手がけた。実は中田監督、今回の5人のなかでただ一人、助監督としてロマンポルノの撮影に参加していた経験を持つ。かつての現場を知る中田監督は、リブート(再起動)とどう向き合ったのか?

タランティーノ監督も驚く「世界映画史上の大事件」

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演出する中田監督 (C)2016 日活

東京大学を卒業した中田監督が日活の撮影所に入ったのは、1985年。この年、大手映画会社で新規採用があったのは日活だけだった。すぐに助監督として、上垣保朗監督『オフィス・ラブ 真昼の禁猟区』(1985年)の現場に参加。計7作品を通して、ロマンポルノ最後期の3年間を見届けた。

「僕にとってロマンポルノの定義というのは、わりあいシンプルなんですよ。とにかく人間の恋愛を、普通のラブ・ストーリーなら省くような性愛も含めて赤裸々に描ききった作品。よく“10分に1回程度、濡れ場を入れる”という今回とも共通するルール。僕の知る範囲でも、現場レベルでそういう不文律は機能していました。でも、その根底にあるのはあくまで性というフィルターを介して人間を描く、“ロマン”の部分に尽きると思うんです」

ロマンとはフランス語で、物語という意味。実際、70〜80年代に撮影された膨大な日活ロマンポルノの作品群は「欧米の基準でいうとポルノと呼べるかどうかもあやしい」と中田監督はいう。

「向こうでポルノというと、行為のみでほぼドラマ性はないものを指すことが多いので。映画ファンはむしろ“エロティック・フィルムズ”と呼んでいます。国を代表する元メジャー撮影所が、そんな作品を17年で1100本以上も世に送り出したこと自体、空前絶後と言っていい。クエンティン・タランティーノ監督がよく言うように、世界映画史上の特筆すべき事件なんです」

ねっとりした感情劇としてのレズもの

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「女性の目線で女の生きざまを描く」ロマンポルノの伝統 (C)2016 日活

本作『ホワイトリリー』は、女同士の“究極の愛”にまつわる感情劇だ。かつて事故でフィアンセを失った有名陶芸家・登紀子と、彼女に思いを寄せる弟子のはるか。傷付いた過去を慰め合い、師弟関係を超えて共に暮らしていた二人のもとに、あるとき悟という新弟子が踏み込んできて……。今回のリブート企画を引き受けるにあたり、いわゆる“百合もの”を選んだのは「はっきり行って直感でした(笑)」と中田監督。

「あえて理由を探すなら、僕自身が昔から数あるロマンポルノ作品の中でも、女性のパッションを描いた系譜が好きだったからかもしれません。こういうと初めて接する世代は意外に思われるでしょうが、実はロマンポルノって男目線の話より、女性の目線で女の生きざまを描いたものの方が圧倒的に多かったんですよ。記念すべき1作目の『団地妻 昼下りの情事』(1971年)にしても、ふとした浮気心から主婦売春に引き込まれてしまう女性を描いたものでしたし。しかも僕の場合、監督として“ずっと女優さんを見つめていたい願望”も強いので。きっと自分には女同士の話が合ってると、本能的に思ったんでしょう(笑)」

ねっとりした感情劇としてのレズビアンもの。ただそこには、中田監督なりのテクニカルな計算も働いていたようだ。

「かつてのロマンポルノ作品って、実は今の基準だとその多くは『R15+』作品なんですよ。たとえば濡れ場を描く際に、どちらか一方は着衣じゃなきゃいけないとか。あるいは画面サイズで腰元を切る、引きの場合はキャメラの近くに何かを置いて腰元を映さないとかいろんな制約があった。ところが今回のリブートは『R18+』なので、要はフルヌードでラブシーンが撮れるわけです。作り手として、この解放感ったらなかった(笑)。で、そうなると女性同士の方が、男女の濡れ場に比べてより隠すべき面積が少なくてすむでしょう。今回、設定をレズビアンにしたのは、そういう映像的な判断もありました」

「仮面ライダーW」の飛鳥凜が“心理的なSM状態”を表現!?

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支配しつつも突き放すダブルバインドを演じた飛鳥凛(左)と山口香緒里 (C)2016 日活

主人公・はるかを演じるのは、かつて「仮面ライダーW」(2009〜10年)の人気アイドル“園咲若菜”役で人気を博した飛鳥凜。今回は初のヌードに挑み、年上の女流陶芸家を一途に愛する女性を全力で表現した。

「僕は『仮面ライダーW』は観てなかったんですが、オーディションで最初にお会いした瞬間、この人に決まるんじゃないかなってピンときました。絶対に自分がこの役を演じるというパッションが、全身から伝わってきた。もちろん美しい女優さんにラブシーンを演じてもらうのが大前提なんですけど、今回のヒロイン像はかなり複雑な過去を背負い、それゆえ女性への愛にのめり込んでしまう女性なので。甘くて可愛いだけではない、強い目線を持った女優さんに演じてもらいたいという思いが、こちらにもあったんです」

はるかの相手役・登紀子には、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍する実力派の山口香緒里。かつては傷付いたはるかを庇護していたが、自分も愛する存在を亡くしたことにより、彼女を支配しつつも突き放すようになる。心理学でいうところのダブルバインド(二重拘束)を感じさせる難しい役どころだ。

「あまり難しい用語で語りたくないんですけど、いわゆる『共依存』の関係がテーマになった部分は、結果的にはあると思います。実社会にも少なくないですよね。相手から散々いたぶられたり、甘えられたりしながら、なぜか『私が尽くさないとこの人はやってけない』と思い込んでいる人。そうやってお互いを縛り合う心理的なSM状態が、なにかをきっかけにグワッと揺らぎ、そして究極的には逆転する。ドラマの核にあるのは間違いなくそこですね」

絡みの手順を説明する殺陣師ならぬ“ヨコ師”

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女二人の秘密に踏み込む新弟子の悟を演じるのは気鋭の俳優・町井祥真 (C)2016 日活

ただしロマンポルノ・リブート・プロジェクトであるかぎり、それを濡れ場も通して表現しなければいけない。実際のラブシーンの演出では、エキストラの女性を使って事前にカメラテストを実施。それをビデオに収めた映像を出演者に見せ、必要な動きを理解してもらったという。

「近年、エンタテインメント映画の撮影では、アクション監督が事前にビデオコンテと呼ばれる映像を準備するパターンが多い。監督や役者にそれを見せて流れを説明すると、現場で1つひとつ動きを付けていくより、かなり効率的に時間が使えるんです。今回の『ホワイトリリー』でも、その発想を採り入れてみました。僕が助監督だった時代はビデオはまだ高かったけど、最近は安くてコンパクトな製品も多く、便利になったものだなと」

ちなみに1970〜80年代のロマンポルノ撮影現場では、助監督同士がダミーとなって絡みの手順を決め、俳優の前で実演してみせた上で、テストで前貼りがカメラに写らないかなど、細かくチェックしたそうだ。

「カメラを回す前にある程度流れを決めておかないと、役者さんも困っちゃいますからね。男同士がど真剣な表情で、『ここでこう身体をひっくり返して、こっち側から愛撫して……』とかやってたわけです。時代劇で動きを決める人を殺陣師(たてし)と呼びますが、寝そべって濡れ場の手順を説明する助監督はそれに引っ掛けて、よく“ヨコ師”と呼ばれてましたよ(笑)」

脊髄に直接訴えかける“Jホラー”の技法

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観客をドキッとさせる演出はホラー演出に近い⁉ (C)2016 日活

第三者が紛れ込むことにより、次第にねじれを深めていく女同士の関係──。緊張感溢れる感情激の脚本は、加藤淳也と三宅隆太が担当した。中田監督とは『クロユリ団地』(2013年)、『劇場霊』(2015年)などのホラー作品でもタッグを組んだ、いってみれば若き盟友たちだ。

「今回の『ホワイトリリー』はいわばラブシーンを介した感情劇なので、特にホラー的な演出や見せ方というのは意識してません。ただ、お客さんの本能に直接訴えかける緊張感という部分では、一脈通じるものはあったかもしれないですね。たとえば映画冒頭、はるかが唇を使って登紀子の背中のファスナーを上げてやる。そのエロティックな唇をアップで印象づけておき、次の瞬間にはぱっとカメラを引いてサイズの落差を思いきり付けるとか……。観てくれる人をドキッとさせたいという意識は、頭の片隅につねにありました」

中田秀夫監督 1961年、岡山県生まれ。東京大学卒業後、にっかつ撮影所に入社。小沼勝監督や澤井信一郎監督らの下で助監督として経験を積み、92年、TVドラマ「本当にあった怖い話」シリーズを演出する。96年に『女優霊』で映画監督デビューを果たし、その後『リング』(98)、『リング2』(99)で日本映画界にホラーブームを巻き起こす。その後ハリウッドに招かれ、『ザ・リング2』(05)を自ら監督する。以降もイギリスで『Ch@troom』(10)など、国内外で活躍。近年の作品に『クロユリ団地』(13)、『MONSTERZモンスターズ』(14)、『劇場霊』(15)、第40回香港国際映画祭Beautiful2016部門の四本の短編映画の1本である『鎌倉にて』(16)などがある。。

『ホワイトリリー』(R18+版)
公開中(新宿武蔵野館ほか全国順次公開)

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)