冒頭10分だけでもヘビー過ぎ!韓国スター総出演のダークな血まみれ映画『アシュラ』

コラム

  • twitter
  • facebook
  • はてなブログ
  • google+
  • LINEで送る

500

韓国映画には「予想を裏切る」よりも「予想を超える」という言葉が似合う。3月4日公開のアウトロー映画『アシュラ』も、展開、描写、演出のすべての面においてこちらの予想をはるかに超えてくる。

映画が始まり原題タイトルが挿入されるまでの10分程度に、ヘビーかつ異常なまでに濃厚な展開が繰り広げられる。まず説明されるのは舞台となるアンナム市のパク市長の悪党ぶりと、不正刑事ドギョン(主人公)がそれを支えているという関係性。ドギョンには顔面インパクト大な“パシリ”のジャンキーがついており、ドギョンの裏家業の金を狙う先輩刑事や生真面目な後輩刑事がそこに絡んでくる。ところが先輩刑事はドギョンとの押し問答と乱闘の末、不可抗力によってダイブ&鉄柱突き刺さりのスプラッター死をとげる。

松重豊似韓国人俳優のキレ芸

5002

ドギョンはパシリのジャンキー(呼び名が“棒切れ”というのも酷い)に殺人の濡れ衣を着せるが、警察はドギョンに疑いの目を向ける。さらにパク市長との協力関係は反市長派の検察側にも筒抜けで、ドギョンは末期ガンの妻の容態を人質に取られる形で検察側のスパイになることを強制される。しかしパク市長の極悪モンスターぶりにドギョンの心は揺れに揺れ、どっちつかずの板挟み状態に陥っていく。

登場人物に正義キャラはおらず、職業上は善側のようでありながら、それぞれが思惑を持っており、目的のためならば味方の命を失うこともいとわない。特にパク市長のクレイジーぶりは強烈。会談中にブチキレてテーブルにマイクを連打、コップの水を自分にぶちまけ「もらしたじゃねえか」と下半身露出。反市長派のサクラと大乱闘芝居を打ち、自ら頭部大出血。その悲劇のヒーローぶりが報道されると満面の笑み。当たり前のように麻薬密売にも手を染めている。見事なまでの悪党ぶりを松重豊似のファン・ジョンミンが熱演する。

イラつく暴力描写でどんよりトーン

5003

肉弾戦の殺陣も粗削り感を採用し、荒々しさを強調。振りかぶるリーチの短い顔面パンチや張り手の連打は路上喧嘩風。封筒を顔に何度もペチペチしたり、携帯を相手の顎に押し付けて壁際に追い詰める斬新壁ドンや顔面パイならぬ顔面焼きそば、検察による壮絶リンチ(女性キャラが目を背ける細かい芝居あり)など生理的にイラつきそうな暴力描写が作品のどんよりトーンをさらに加速させる。

韓国映画登場武器No.1の手斧やトンカチも持ち出されて、ザックザックといく。しかも手斧は長年研いでいないかのような代物で、“斬る”というよりも“叩き落とす”イメージ。『オールド・ボーイ』『悪魔を見た』のホ・ミョンヘン武術監督による痛覚に直接訴える攻撃描写が冴えている。豪雨の夜を激走するカーチェイスも臨場感たっぷりで、車内と車外を縦横無尽に動き回るカメラワークと、車同士が実際にぶつかり合いクラッシュする様子をハイテンポで見せる編集には高い技術力を感じる。クライマックスは『仁義なき戦い』の舞台に『GONINサーガ』が殴りこんできたかのような阿鼻叫喚ぶりだ。

門前払いも韓流スターの一声で無事完成

5004

そもそも悪人しか出てこないダーティーかつブラッディな題材の作品に、日本でも人気のチョン・ウソンやファン・ジョンミン、クァク・ドウォン、チェ・ジフンら実力派スターが総出演しているというのが邦画では考えられないこと。監督は『MUSA-武士-』のキム・ソンス。「暴力の嫌な感じを観客に思い知らせてやる!」と執筆した脚本は当然ながら各プロデューサーに門前払いされ、暗礁に乗り上げたが、ソンス監督を“兄貴”と慕うウソンが「兄貴が踊れと命令するならば、その言葉通りに踊るのが弟の使命だ」と出演を快諾した。

スターの出演を得たことで製作費もキャストもトントン拍子に集まり、無事に映画が完成。出演者一同が作品のクオリティに満足しており、昨年末にはキャスト陣による『アシュラ』忘年会が開かれ、ソンス監督は「早く次の映画を作れ!」と発破をかけられたそうだ。映画の内容に反して製作の舞台裏は絆を感じさせる激アツモード。韓国映画界は奥が深い。

(文・石井隼人)

3月4日(土)新宿武蔵野館 ほか 全国順次ロードショー
配給:CJ Entertainment Japan
(C)2016 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

記事制作 : 石井隼人