【遺作公開】“りりィ”さんが遺した一筋縄ではいかない母親像 20歳の歌姫が唯一無二の女優となるまで

コラム

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文=金原由佳/Avanti Press

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りりィさん(事務所ご提供)

りりィの遺作となった『彼らが本気で編むときは、』が2月25日公開される。世間で称賛される理想の女ではなく、見る者に「自分にもこういうところがあるかもしれない」とままならぬ人生の重さを実感させる女性を、怖がらずに演じた彼女。やるせなさ、どうしようもなさ、でも生きていく強さ。それらを表現する、彼女の女優としての魅力を改めて振り返ってみたい。

りりィさんの無表情が掻き立てる観客の想像力

2016年度の映画賞を席巻した中野量太監督の『湯を沸かすほどの熱い愛』。宮沢りえが余命2ヶ月と宣告されながら、文字通り命を削りながら、家族の諸問題と向き合う“おかあちゃん”を演じ、主演女優賞を受賞しまくっている。その母性愛の塊のような存在と対照的に、この映画には、子どもを捨てる母親も登場する。宮沢演じるおかあちゃんのおかあちゃんで、演じているのが昨年11月11日、64歳で死去したシンガーソングライターで女優のりりィだ。劇中、宮沢りえ演じる幸野双葉が、幼い時に別れたきりの母親に意を決し、会いに行く場面がある。今は、別の人と結婚して、幸せな家庭を築いているりりィ演じる母は娘の顔を見るなり、玄関の扉を非情にも閉めてしまう。何度、ベルを鳴らしてもそのドアは二度と開かない。なぜ、そこまでして娘を拒絶するのか。映画がそれ以上描かないドラマについて、りりィの無表情が、観客の想像力を掻き立てるのだ。

りりィという女優がユニークだったのは、観客にわかりやすい感情過多な演技をしなかったことにあるが、選び、選ばれる役柄も個性的だった。寡黙な役柄が似合ったのは、含蓄のある表情を持っていたからだろう。

その半生が培っただろうりりィさんの演技

彼女は中洲でバーを経営していた母と、米空軍の将校であった父を持つハーフ。20歳のときに歌手デビューし、22歳で作詞作曲した「私は泣いています」を大ヒットさせ、97万枚のレコード売上を記録した。研ナオコのために作った曲だったが、当時の事務所に「自分で歌ってもらわないと困る」と言われ、やむを得ず歌ったら人々の心をつかんだというのは有名な話だ。この曲は恋の終わりを予感した女性の独り言のような歌詞なのだが、さめざめと泣きながらも、自分の状況を冷静に見つめる醒めた視点もあり、そういう2面性もまた彼女の女優としての持ち味だった。テレビドラマ版「人間の証明」のエンディングテーマ曲「さわがしい楽園」の歌声を覚えている人も多いだろう。音楽活動を経て、結婚、出産の後、長い育児休暇を取っていたことも、後に市井の女性を演じる上で、大きな糧になったのではないだろうか。

『彼らが本気で編むときは、』で演じた因果な母役

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2月25日全国公開『彼らが本気で編むときは、』のりりィさん
(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

荻上直子監督の『彼らが本気で編むときは、』でも、りりィは一筋縄でいかない母親サユリを演じている。サユリには二人の子どもがいた。ミムラ演じる長女ヒロミには子どもの頃から厳しく接し、桐谷健太演じる息子マキオを溺愛した。大人になったシングルマザーのヒロミは育児放棄の状態にあり、毎日、コンビニのおむすびを機械的に小学生の娘トモに与える。そしてある日、恋人と共に家を出て行ってしまう。

トモが助けを求めたのが、叔父のマキオで、彼は手術によって男性から女性へと変換中のトランスジェンダーの恋人リンコ(生田斗真)と同居中。トモは当初、あからさまな嫌悪感を表に出す。だが、日常を大切にし、おいしい手料理を作り、傷ついたトモへ惜しむことなく母性愛を注ぐリンコに、トモも次第に心を開いていく。日常の雑事に手を抜かないリンコの姿は、頑固で気難しいサユリの心もじっくりとほぐし、彼女がなぜ、無条件に娘を愛せなかったのか、その根っこの部分をも明らかにしていく。肉親の情の薄さしか知らなかったトモにとって、サユリとの交流は、シンプルに祖母という人を知る行為であると同時に、自分の母が、その母に愛された記憶がなく、娘である自分とどう向き合えばいいのかわからないのだという事実を知る作業ともなった。

この作品でもりりィは、能面のような無表情さで、淡々と娘にきつくあたった過去を振り返る。世の中には、母親だからと言って、誰もが理想とするような母性愛を持てない人もいる。そこにはおそらく、様々な理由が隠れているはずだ。一般的に娘は父親に似るという。その父と不仲だった母親なら、嫌な男の面影を宿す娘につらくあたることもあるだろう。昨今、「母親が重い」「母親の存在がしんどい」と団塊世代の母親との関係性に悩む娘の嘆きを題材にした小説、漫画、心理を研究する本など増えているが、その捨てたいのに捨てられない重い母との因果関係を喚起させるのが、りりィという女優の不思議な魅力だったと思う。

3月に授与される高崎映画祭最優秀助演女優賞

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『はるねこ』のりりィさん
全国にて順次公開中

りりィは若い時も、大島渚監督の『夏の妹』(1972年)に出るなど音楽活動と並行して、演じてもいたが、本格的に女優活動を始めたのは中年期になってから。振り返れば、TBSドラマ「青い鳥」で、豊川悦司演じる息子を捨てて駆け落ちする母親像も強烈だった。昨年、公開された岩井俊二監督作『リップヴァンウィンクルの花嫁』でも、Cocco演じるAV女優、里中真白の母親を演じたが、娘の死後、彼女とどうしてもうまく関係性を築けなかった後悔を、真っ裸になって慟哭しながら吐露する場面の迫力は忘れ難い。この演技で、りりィは来る3月に開催される第31回高崎映画祭の最優秀助演女優賞を受賞している。

と同時に現在、全国順次公開中の新人監督、甫木元空の商業デビュー作『はるねこ』では、この世に未練をなくした人たちが最後の現世を過ごす、この世とあの世の境にある森の山小屋の番人のような役を演じた。ロッキングチェアで日がな編み物をし、その穏やかな微笑みで、来る者の雑念を吸い取り、浄化しているように思えた。

ハスキーボイスが魅力的。その不思議な存在感は、スクリーンの中で何度でも繰り返し、再会したくなる人だった。最後の公開作品は、5月公開の降旗康男監督、岡田准一主演の『追憶』になる。

『彼らが本気で編むときは、』2月25日全国公開
第67回ベルリン国際映画祭パノラマ部門・ジェネレーション部門正式出品作品
出演:生田斗真、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、込江海翔、りりィ、田中美佐子 / 桐谷健太 ほか
脚本・監督:荻上直子
配給:スールキートス
公式ウェブサイト :http://kareamu.com

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)