國村隼はなぜフンドシ一丁に!?韓国映画界のドSが明かす狂演秘話「当初は全裸だった」

コラム

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(C)2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

日本が誇る名優・國村隼の狂気的姿に韓国全土が激震した、鬼才ナ・ホンジン監督の新作映画『哭声/コクソン』(3月11日公開)。山の稜線に囲まれた集落を舞台に、いつの間にか住み着いた怪しい日本人の噂が広がり始めると同時に、村人が自分たちの家族を惨殺するという事件が多発する。その怪しい日本人を時にフンドシ一丁で熱演した國村は、第37回青龍映画賞で男優助演賞とライジングスター賞を日本人で初めてW受賞。ジョン・ウー監督、リドリー・スコット監督、クエンティン・タランティーノ監督も認める邦画界の至宝を、韓国映画界の鬼才はなぜフンドシ一丁にしたのか?ホンジン監督を直撃した。

國村隼の衝撃的フンドシ姿誕生秘話

あいつはかなりヤバい奴らしい…。謎めいた殺人事件が勃発した平和な村コクソンを、伝染病のように真偽不明の噂が包み込む。とある村人は、フンドシ一丁の姿で動物の死肉にむしゃぶりつく男を山奥で目撃したと回想する。それが國村隼である。日本であれば國村の長いキャリアから忖度して表現をマイルドにするか、気を使ってシーンの代案を立てそうなものだが、『チェイサー』『哀しき獣』と妥協を許さぬ姿勢で傑作を放ってきた鬼才は、やはり違う。

「國村さんが演じた日本人には物語の構造上、非常に奇怪なシーンや嫌悪を抱かせるようなシーン、さらに村で流される謎めいた噂話によって、観客に悪意に満ちた先入観を植え付ける必要がありました。それを植え付けて初めて、私と観客とのゲームが可能になるからです」とその狙いを明かす。

そもそもフンドシというアイテムも、ホンジン監督にとっては妥協案。決定稿シナリオの段階では全裸の予定だった。「当初は全裸でお願いしようと思っていましたが、撮影に際して私たちでカメラアングルなどを検討した結果、死肉を食べるシーンではどうしても股間部分が映ってしまうという問題が発生しました。もちろんCGでの消去処理もできるでしょう。しかしそれではあまりにも不自然。そこでフンドシを着用することに決めて、國村さんも快諾してくれました」。

十八番の疾走を封印し、新境地開拓

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日本の伝統的な下着でありながらも、普段あまり目にすることのないフンドシ一丁のスタイルというのは、浮世離れしているような感があり、異質なイメージがある。結果的に全裸以上のインパクトを与えることに成功した。「あのおぞましいシーンはこの映画にはなくてはならない重要場面。國村さんが許可してくれたからこそ撮影できたシーンです。國村さんとの時間は自分にとって学びの時間。沢山の事を学び、撮影という過程を通して國村さんを尊敬するに至りました。彼の協力がなければ、この映画を完成させることは不可能だったといえます。日本の皆さんにこれだけはお伝えしたいですね」と最敬礼だ。

追って走る『チェイサー』、追われて逃げる『哀しき獣』とホンジン監督はこれまでキャラクターを激走させてきた。しかし今回の主人公は中年太りの警察官。殺人事件の一報が入り、現場に急行するかと思いきや、年老いた母親から「朝ごはんを食べな」と言われて、食卓を囲んだりする。「今回の作品の中で重要視したのは、観客の疑念と混乱と体感です。劇中に登場するキャラクターのほとんどが走らず、会話を交わしてばかりでじっとしています。しかし物語は誰もが自分の目的に向かって激走していくかのような心理的クライマックスへと向かいます。そんな作りで極度の混乱を表現したつもりです」と説明する。

『丑三つの村』もかすむ呪われし土地

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(C)2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

主な撮影地となった村・谷城(コクソン)も、映画のもう一人の主人公といえる。「今回考えたのは、犯罪被害者はなぜ狙われ殺されなければいけなかったのか、ということ。突き詰めて出た答えは、神の存在でした。人間という存在を作り上げたのが神ならば、その消滅にも神が関わっているはずだからです。人間の姿を通して神の物語を描こうとしたときに、適切な舞台として思い浮かんだのが母方の祖母の故郷である谷城でした。そこではどんなところで人物を捉えても、山の稜線と天空が見える。自然の中での最大の動きといえる天気の変化を通して、見えざる神の力を観客に感じてもらう狙いがあります」と神レベルの視点を持ち出す。

しかも谷城は、朝鮮戦争時代に大きな被害を受けた場所で、大量虐殺が行われた過去を持つ血なまぐさい土地でもある。「その際の加害者の子孫もいれば被害者の子孫もいる非常に複雑で特殊な空間を持つ地域です。私は脚本執筆のための取材で数年にわたりシャーマニズム関係者と関わった経験から、何かおかしいと感じた場所や空間だけを撮影ポイントに選び、空間音も自ら録音し、劇中に使用しました。その土地特有の空気感を映画に反映したかったからです」。自身も幼少期に慣れ親しんだという思い出の土地を、映画で再び血染めにするドSぶり。しかしホンジン監督は納得の笑みを浮かべる。

宗教関連の書籍を読み漁り、各宗教の聖職者を訪ねて、神に対する疑問をぶつけた。あまりにも奥深い世界ゆえに諦めかけたこともあったが、約2年8カ月をかけて脚本を書ききった。この経験はホンジン監督に心境の変化をもたらした。「それまでの私はブルドーザーのように突進するタイプでしたが、本作の製作を通して柔軟な考えを持てるようになりました。すべての問題や障害にも理由があると考えるようになり、受け入れる努力を覚えたからです。今後自分がどのような作品を撮るのかは私自身もわかりません。ただ“典型的な作品”とよばれるような作品だけは絶対に撮らない、と断言できるでしょう」。ホップ、ステップ、ジャンプでいうところのジャンプ的ポジションの『哭声/コクソン』で飛距離を伸ばした先にある到達地点とは?悟りの境地にある鬼才はどこへ向かう。

(石井隼人)

記事制作 : 石井隼人

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