レッドカーペットで各局のインタビューに答えるソフィア・カーソン
レッドカーペットで各局のインタビューに答えるソフィア・カーソン
Matt Petit / (c)A.M.P.A.S.

文=ロサンゼルス在住ライター 町田雪/Avanti Press

第89回アカデミー賞は、『ラ・ラ・ランド』の受賞が発表されたあと、本当の受賞作が『ムーンライト』であることが発覚するという、作品賞発表アクシデントの余韻が今でも残っている。そうしたなか、オスカーのもうひとつの目玉であるレッドカーペットにおいても、ジンワリとした、でも確かな困惑と混乱が感じられた。

セレブが減少、カメラを避けて会場に滑り込むケースが増加!?

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セレブの登場が減少するなか、ひときわ輝いていた『ムーンライト』で助演女優賞にノミネートされたナオミ・ハリス
John Salangsang / (c)A.M.P.A.S.

映画ファンはもちろん、ファッション通やセレブ好きな人々にとっても、年に一度のアカデミー賞のレッドカーペットは必見&特別なもの……であったはず。逆に、スターやセレブ側にとっても、同舞台は自身の作品や企画をアピールし、ファッションやユーモア・センスを披露する絶好の場……であったはずだ。ところが、ここ数年、レッドカーペットを歩く(正確に言うと、テレビ中継に映る形でカーペットを歩く)セレブの数は減り、スター級俳優たちがカメラを避けて、授賞式開始直前に会場に滑り込むケースが増えているようだ。

今年も、公式中継局である米ABCがレッドカーペット上に有名レポーター陣を配置し、登場するセレブを捕まえてはインタビューする模様をリレー形式で中継していたのだが、「次は誰が来るでしょう? お楽しみに!」と期待を煽る姿ばかりが時間を取り、肝心のスターたちはなかなか現れない状況が目立った。会場を見下ろせる近隣ホテルの上階に設置されたラウンジでは、恒例のファッションチェックを行っているのだが、これまたチェック対象が少ないために、いまいち盛り上がりに欠けていた。とはいえ今年も、オスカー候補者としてカーペットを歩いたエマ・ストーンやミシェル・ウィリアムズ、ニコール・キッドマン、ナオミ・ハリス、ルース・ネッガ、歌曲賞ノミネートのジャスティン・ティンバーレイクと妻ジェシカ・ビールらの姿は、繰り返し映し出され、光り輝いていたのだが。

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(写真左)『トロールズ(原題)/Trolls』の主題歌で歌曲賞にノミネートされたジャスティン・ティンバーレイクと妻ジェシカ・ビール
Mike Baker / ©A.M.P.A.S.
(写真右)『LION ライオン 25年目のただいま』で助演女優賞にノミネートされたニコール・キッドマン
Mike Baker / ©A.M.P.A.S.

以前なら、セレブがリムジンで続々到着する様子が映し出され、インタビュワーの前に列ができることも珍しくなく、リレー形式のインタビューは露出を取り合い、ファッションチェックも即座にベスト&ワーストの順位付けをするなど、華やかなカオスが繰り広げられたものだが、あのワクワク感はどこへ行ってしまったのか? 理由はいくつかありそうだ。

アワード過多、SNSの普及、そして大人の事情…

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『モアナと伝説の海』の主人公モアナの声を務めたアウリィ・カルバーリョはチャーミングな笑顔を振りまいた
Phil McCarten / (c)A.M.P.A.S.

まずは、レッドカーペットのお決まりであった「そのドレスは、どのデザイナーのもの?」と言う質問が、禁句扱いされていること。女性にだけ、ファッションのことばかりを質問することが性差別にあたるという約2年前からの議論を配慮してのことだが、インタビューする側とされる側の間に、ある種のぎこちなさを生み出していることは否めない。また、アワード数が多すぎて、レッドカーペット自体の新鮮味が薄れているという声も。特に賞レース後半のゴールデングローブ賞あたりからは、ほぼ毎週末のように何らかのアワードが行われ、同じセレブを見る頻度が激増。アカデミー賞に到達する頃には、「やっと、あのセレブを見られる!」ではなく、「今回はどんなモードで登場するのかな?」という、ややニッチな視点になってしまうのだ。

ソーシャルメディアの普及も、あらゆる面で原因となっている。様々なアワードの模様が途切れることなく露出される点では、アカデミー賞のレッドカーペットの特別感を薄め、失言や失態が即座にバイラルに広がる点では、セレブがリスクを回避して、登場しない(発言しない)傾向につながっていることが考えられる。さらに、昨年と今年に関して言えば、晴天でおなじみのロサンゼルスが寒空の雨模様だったこと、政治的・社会的情勢から、テロや抗議運動に対する厳戒態勢が敷かれていたことも、必然的にセレブの足取りを鈍くしたのかもしれない。

ビジネス面での大人の事情もあるようだ。「ロサンゼルス・タイムズ」紙は、1976年以来、アカデミー賞授賞式を放送してきた米ABCが、昨夏の米アカデミーとの契約更新により、年間1億ドルという破格の放送権料を支払うことになったと報じている。それによって、ABCの独占性を強化するため、他メディアが生中継時間を短縮したり、大物スターをキャッチできないほど早いタイミングに放送時間を設定するなど、様々な制限が生まれているようだ。これらの事情でレッドカーペット上のメディア数が減り続ければ、さらに活気が薄れることにもなり得る。

上記の理由のいずれにせよ、すべてにせよ、時代の変化がレッドカーペットに試練をもたらしていることは確か。授賞式とともに(または、それ以上に)、レッドカーペットに心躍らせてきた世界中のファンのためにも、新たな活気を取り戻してほしいと願うばかりだ。