大波乱でもLOVE&HOPE!第89回アカデミー賞は愛と共感に溢れていた

コラム

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作品賞を受賞した『ムーンライト』のプロデューサー、キャストら
作品賞を受賞した『ムーンライト』のプロデューサー、キャストら
Phil McCarten / (c)A.M.P.A.S.

文=ロサンゼルス在住ライター 町田雪/Avanti Press

昨年秋から繰り広げられてきた映画界の賞レース終着点となる第89回アカデミー賞。作品賞は、大本命だった『ラ・ラ・ランド』をゴール寸前で抜き去った『ムーンライト』に贈られた。フロリダの貧困地域を舞台に、麻薬常習のシングルマザーに育てられたアフリカ系アメリカ人少年が、同性愛と自身の生き方に目覚めていく姿を描いた作品。作品賞発表においては、前代未聞の大トラブルがあったものの、それも含めて様々な場面で、LOVEとHOPEが感じられる授賞式だった。そのこころを振り返ってみたい。

「ダブル受賞じゃダメ?」作品賞発表トラブル

『ラ・ラ・ランド』のプロデューサー、ジョーダン・ホロウィッツが、作品賞が『ムーンライト』であることを自ら説明。本来の受賞作品名が書かれた紙を客席に差し出す事態となった。
『ラ・ラ・ランド』のプロデューサー、ジョーダン・ホロウィッツが、作品賞が『ムーンライト』であることを自ら説明。本来の受賞作品名が書かれた紙を客席に差し出す事態となった。
Mark Suban / (c)A.M.P.A.S.

1967年の名作『俺たちに明日はない』のコンビであるウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイがプレゼンターとして登場した作品賞発表の瞬間。「アカデミー賞の行方は……『ラ・ラ・ランド』!」との声に、クルーもキャストも登壇し、喜びのスピーチが行われたものの、途中で真の受賞作品が『ムーンライト』だったことが発覚。ステージも客席も困惑するなか、『ラ・ラ・ランド』陣がステージを下り、『ムーンライト』陣が登壇するという前代未聞の受賞劇となった。誤った封筒を渡されたことを弁解するベイティの姿は気の毒だったが、「ダブル受賞じゃダメなの? もっとオスカー像を量産して両者に渡しちゃおうよ」と場を取り直そうとする司会のジミー・キンメルの言葉は、多くの人々の心を代弁していただろう。作品のトーンは大きく異なるものの、ともに愛と希望を描いた珠玉の作品。両作のフィルムメイカーたちが互いを讃え合う姿は、同夜のクライマックスにふさわしい“脚本なしの”貴重な瞬間だったのではないか。

多様性と若さを感じさせる俳優・監督部門の受賞結果

。左からマハーシャラ・アリ(助演男優賞)、ケイシー・アフレック(主演男優賞)、エマ・ストーン(主演女優賞)、ヴァイオラ・デイヴィス(助演女優賞)
俳優部門に輝いた4人。左からマハーシャラ・アリ(助演男優賞)、ケイシー・アフレック(主演男優賞)、エマ・ストーン(主演女優賞)、ヴァイオラ・デイヴィス(助演女優賞)。
Jeff Lipsky / (c)A.M.P.A.S.

今年のオスカーの最大の関心ごととなっていたのが、過去2年連続で俳優部門20枠を白人俳優が占めたことによる「白すぎるオスカー」問題。ノミネーション発表の時点で、4部門すべてにアフリカ系俳優が名を連ね、変革の兆しが見られていたが、助演男優賞をマハーシャラ・アリ(『ムーンライト』)、助演女優賞をヴァイオラ・デイヴィス(『フェンス(原題)/Fences』)が受賞したことは、多様性へのさらなる1歩といえるだろう。一方、主演男優賞は、最有力視されていたケイシー・アフレック(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』)が大先輩と仰ぐデンゼル・ワシントンを抑えて受賞。主演女優賞に輝いたエマ・ストーン(『ラ・ラ・ランド』)は、ともにノミネートされたメリル・ストリープやイザベル・ユペールら名女優たちに敬意を表しながら、「私は未熟者で、まだ学ぶことがたくさんありますが、このオスカー像が今後の成長に向けたシンボルになってくれると思います」と謙虚に語った。授賞式の目玉だけあり、重く深いメッセージや主張が語られることも多い同部門の受賞スピーチだが、ケイシーとストーンが言葉に詰まって涙を浮かべる様子は純粋で、清々しい感動を与えてくれた。さらに『ラ・ラ・ランド』で監督賞を受賞したデイミアン・チャゼルは32歳と若く、今後のハリウッドが明るく見えるのだ。

政治的主張より「身近な人へのLOVE」メッセージ

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司会を務めたジミー・キンメル
Aaron Poole / (c)A.M.P.A.S.

オスカーに向けた今年の賞レースは、米国を分断した米大統領選や就任式と並行しており、ゴールデングローブ賞授賞式でのメリル・ストリープのように、政治的な主張やコメントが語られることが多々あった。その終着点であるアカデミー賞授賞式も政治色が強いものになると思われたが、蓋を開けてみると、直接的な主張より、互いへの思いやりと愛、共感の大切さを説くメッセージに溢れたものであった。毒舌政治トークが予想された司会のキンメルも冒頭のモノローグで、「この授賞式を見ている数百万人がそれぞれ、リベラル派だろうが保守派だろうが、同じアメリカ人として、自分とは違う考えを持つ誰かと1分間だけでも前向きに思慮深い話ができたら、この国はまた素晴らしい国になるでしょう。私たちから始めましょうよ」と寛容ムードを設定。その後のプレゼンターや受賞者も、親やパートナー、子ども、恩師など、身近な人への想いを語ることによって、現社会への取り組み方を示していった。

いまだ根深い人種差別や警察などによる暴力、現政権の移民政策、ジャーナリズム抑圧などへの懸念を述べる主張もあったものの、個別批判というよりも、前向きな姿勢。ちなみに、授賞式の中継間に流れる各社のコマーシャルもLOVEに溢れるものだった。グーグルやサムスン、ハイアットホテルは、自社サービスや商品の最新テクノロジーを紹介するなかで、人種や宗教、文化の多様性を大切にするメッセージを発信。化粧品会社のレブロンは、レディー・ガガ、ファレル・ウィリアムス、女性人気司会者/コメディアンのエレン・デジェネレスとコラボし、各々が「LOVE」について語るモノクロのコマーシャルを放映した。

オスカーを熟知した司会者による愛に溢れた笑い

天井からキャンディやドーナッツを降らせる演出も。<br />Aaron Poole / (c)A.M.P.A.S.
天井からキャンディやドーナッツを降らせる演出も。
Aaron Poole / (c)A.M.P.A.S.

今年の司会を務めたジミー・キンメルは、アカデミー賞中継局である米ABCの深夜トーク番組の顔。毎年、授賞式後に特番を行っており、オスカーを熟知しているせいか、授賞式を通じて安定した笑いを散りばめた。冒頭は、『トロールズ(原題)/Trolls』の主題歌で歌曲賞にノミネートされていたジャスティン・ティンバーレイクのパフォーマンスに助けられ、その後は、ことあるごとに、盟友のマット・デイモンをいじり倒す。トランプ大統領から「過大評価された女優」と呼ばれたストリープの傷を癒すべく、突然のスタンディング・オベーションを煽ったかと思うと、小腹が空いたころに天井から、キャンディやドーナツを降らせてみせた。そして、最大の見どころは、ハリウッド観光に訪れた一般客を授賞式会場に導き入れるというサプライズ。今夏に結婚予定のアフリカ系アメリカ人カップルの仲人を、デンゼル・ワシントンがかって出たり、ハネムーン中のアジア人カップルがストリープと抱き合ったりと、豪華で楽しい流れが微笑ましかった。

今だからこそ見たい映画がそろった今年のアカデミー賞。トラブルの真相は今後明かされるとして、まずは、映画という芸術とその祭典を通じて、LOVEとHOPEが感じられた一夜(とフィルムメイカーたちの長い旅路と献身)に感謝したい。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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