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ロサンゼルスのウエストウッドの劇場にて行われた『パッセンジャー』のワールドプレミアに登場したジェニファー・ローレンス

文=ロサンゼルス在住ライター 町田雪/Avanti Press

舞台は近未来。新たな惑星への移住を希望する5000人を冬眠装置に収め、120年の旅に出た豪華宇宙船のなかで、90年も早く目覚めてしまった男女。絶望的な状況のなかで求め合い、幸せを探そうともがく2人に、運命の危機が訪れる――。

壮大な宇宙スペクタクルと喜怒哀楽の激しいロマンスが交差する映画『パッセンジャー』。116分の上映時間中、主要な登場俳優はたったの3人(フラッシュバック映像と中盤、フィナーレで、かろうじて数人が登場するが)。“目覚めてしまった”エンジニア役のクリス・プラットと作家役のジェニファー・ローレンス、アンドロイド役のマイケル・シーンだけだ。誰か1人の演技にでも隙があれば、簡単に駄作になってしまう設定。それでも3人は、アカデミー賞で作曲賞と美術賞にノミネートされるほどの壮大な舞台を見事に操っていく。なかでも、作品をカラフルかつエモーショナルに盛り上げるのが、頼れる若手女優ローレンスなのだ。

「メリル・ストリープの再来」!
多様な層を虜にする女優ローレンス

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ジェニファー・ローレンス(右)とクリス・プラット(左)

26歳にして、ローレンスのハリウッドにおける存在感は半端ない。17歳のときに出演した『あの日、欲望の大地』で鮮烈な印象を残し、ヴェネチア国際映画祭の新人俳優賞を受賞。同映画のギジェルモ・アリアガ監督(『バベル』『21グラム』脚本家)に「メリル・ストリープの再来かと思った」と言わしめた逸話は有名だ。その後、2010年の『ウィンターズ・ボーン』では家族を守るために試練に立ち向かう17歳のヒロインを熱演し、アカデミー賞主演女優賞にノミネート。初めてのレッドカーペットに臆することもなく、「いつもテレビで見ていた場所に立っているなんて不思議な感じ」と笑う自然体で貫禄ある姿は、すでに大物スター誕生のムードを漂わせていた。その流れどおり、12年公開の『世界にひとつのプレイブック』では、心に深い傷を負いながらも気丈に生きるヒロイン役で同主演女優賞を受賞。13年の『アメリカン・ハッスル』で同助演女優賞、15年の『ジョイ』で同主演女優賞にノミネートされ、文字通り、ストリープのアカデミー賞ノミネート数20回という記録に向かう前線を走っている。

ローレンスの虜になっているのはアカデミー会員だけではない。『ハンガー・ゲーム』シリーズではヤングアダルト小説ファンに、『X-MEN』シリーズではアメコミ層にもアピール。アカデミー賞に絡んだ3作のデヴィッド・O・ラッセル監督のミューズであることはもちろん、今後もダーレン・アロノフスキー、スティーヴン・スピルバーグ、ロン・ハワードらそうそうたる監督の新作に主演することが決まっている。

恐れず自分の言葉でトークを披露
女性としてのパワフルな魂が心をつかむ

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女優として、実力も存在感も眩しいほどに輝くローレンスだが、それ以上の魅力は、女性としてのパワフルな魂かもしれない。2014年にはアップルのクラウド・サービスから私生活でのヌード写真が流出する事件に見舞われたが、同事件を「スキャンダルではなく性犯罪」と位置づけ、プライバシー侵害と性犯罪について糾弾した。15年にはハリウッドにおける男女の賃金格差について、共演男優より自身のギャラが少なかったこと、ギャラ交渉をする女優が白い目で見られる現状などを、オンライン・マガジンで赤裸々に公表。「ハリウッドの標準では、私は太っているみたい」と、業界における女性の容姿への色眼鏡に警鐘を鳴らしたかと思えば、「レッドカーペットを歩いていると、家に帰ってヒールを脱いでソファに飛び込むことばかり考えてしまう」とセレブ道を外してみせる。キャリア絶頂期にありながら、メディアでも自分の言葉でトークを披露し(時には失言もし)、リスクや守りなんて言葉が辞書にないような姿勢は、これまでの人気女優の概念を覆すものでもあったのだ。もちろん、“アメリカの恋人”と呼ばれるチャーミングな笑顔と鍛え上げられた肉体美、重みのある低音な声には、スター性がたっぷりなのだが。

『あの日、欲望の大地で』のわずかな出演シーンを見たときには、一瞬息が止まるほど飲み込まれたものだが、その後も次々と新しい引出しを見せてくれるローレンス。キャリア絶頂期なんて、まだまだ先のこと。現状に満足せず、夢と愛と自己表現に向けて、全力で突き進むその姿は、『パッセンジャー』のヒロイン、オーロラにも重なるところがあるのかもしれない。

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『パッセンジャー』
2017年3月24日(金)全国でロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督:モルテン・ティルドゥ
出演:ジェニファー・ローレンス、クリス・プラット、マイケル・シーン