市原悦子という女優は、日本人の考える“おばあちゃん”像を具現化した存在なのではないか……! いや、逆に市原が日本人の考えるおばあちゃん像を作り上げたのか? なんだか卵が先か、鶏が先かみたいな話になってきましたが、3月4日より公開される映画『しゃぼん玉』(監督:東伸児)での演技も「こんなおばあちゃんに甘えたい!」と感じさせる見事なものでした。

自己免疫性脊髄炎の治療・療養に専念

市原は昨年11月に朗読公演「朗読とお話の世界」を体調不良で延期(後に中止が決定)。そして、今年1月13日に所属事務所を通じて、長期休業が発表されました。実は昨年11月初旬から入院療養しており、年始より復帰の予定だったものの、検査の結果“自己免疫性脊髄炎”の診断を受けたとのこと。5月復帰を目標に治療・療養に専念すると伝えられています。

市原が療養中の公開になるというのは少々寂しいですが、『しゃぼん玉』とは一体どんな映画なのでしょう? こちらは乃南アサによる同名のベストセラー小説が原作。通り魔や強盗傷害を繰り返す無軌道な若者・伊豆見翔人(林遣都)は、人を刺してしまって逃亡する途中に老婆・スマ(市原悦子)を助けたことがきっかけで、彼女の家に居座ることになる。伊豆見がスマを始めとした村の人々との触れ合いによって変化していく姿を描いた感動作です。

“変わらない”ことが優しさ

林は、繊細な演技によって伊豆見の内面の変化を表現していきます。映画の序盤と終盤では、まさに「つきものが落ちた」という言葉がピッタリなほど雰囲気が変わっている! ある“お願い”をスマにするクライマックスシーンでは、子供のような顔つきになっています。

一方、スマは物語を通じて一切変わりません。どんな伊豆見も優しく受け入れて、態度が変わらないことが彼女の持つ優しさを感じさせます。とはいっても、ただ甘やかすだけのおばあちゃんでもありません。伊豆見の間違った箸の持ち方を「直した方がええど」とたしなめるなど、ダメなことはきちんと叱ってくれるおばあちゃんなんです。

この包容力は“バブみ”超えた

近年「母性を感じる」という意味の“バブみ”というネットスラングが流行しました。『しゃぼん玉』は、母性を超えた“おばあちゃんみ”を堪能できる映画ではないでしょうか!? スマが「坊はいいこ」と伊豆見の頭をなでるシーンは、思わず「おばあちゃん!」とこちらも甘えたくなる圧倒的包容力で、そりゃ伊豆見の心も浄化されますよ。鑑賞後はしばらく「自分がスマに出会ったら、こんな風に甘えたい」という空想に取りつかれてしまうので、ある意味萌え作品に近いものがある……!

療養中の市原は5月の復帰を目指しているとのことですが、こんな名演を見せられたら、ますます待ち遠しくなってしまいます。市原悦子、やはり“国民のおばあちゃん”と言える女優です。

(文/原田美紗@HEW)