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國村隼が韓国ではホラーアイコンになっている……って、なんだか深夜ラジオのネタハガキみたいな話ですが事実! 3月11日より日本公開される映画『哭声/コクソン』(監督:ナ・ホンジン)における演技で、韓国でもっとも権威ある映画賞のひとつ「第 37 回青龍映画賞」で外国人で初めて受賞を果たしました(男優助演賞・人気スター賞)。君はふんどし一丁で獣を食らう國村隼を見たことがあるか!?

笑顔を封印した國村隼

『哭声』は、韓国で観客動員数 700 万人に迫る大ヒットを記録したサスペンス・スリラー。平和な田舎の村に、得体の知れないよそ者がやってくる。よそ者に関する噂が広がる中、村人が自身の家族を残虐に殺す事件が多発する――。この“よそ者”役を演じるのが、國村です。謎の殺人事件に彼が関わっているのではないかと疑いの目を向けられますが、いやはや果たして?

國村隼といえば、人懐っこそうな目元が印象的な俳優ですが、『哭声』では、あの気さくな笑顔は封印。正体を探りにきた村人たちを無表情に見つめます。黒目がちな人って、無表情だと目が穴みたいに見えて怖いんだよな……。

本作では、こんな國村隼初めて見たよ! と驚くシーンが満載。その筆頭ともいえるのが、先述のふんどしシーンでしょうか。村人が語る噂の中の一幕なのですが、山の中、ふんどし一丁で獣の肉を食らい、人を襲う國村隼! 彼もまさか、こんな体当たり演技に61歳で挑むことになるとは思っていなかったはず。それだけ、この映画に賭ける価値を感じたということなのでしょう。

國村演じるよそ者は、一体どんな人物なのかまったく見えてきません。大きな犬を飼っているが、愛犬家とも思えない。静かな佇まいではあるが、相手を挑発するような言葉を淡々と吐いたりもする。そして、家の中には、殺人事件に関係する村人の写真や持ち物を大量に隠している――。彼はただ静かに見つめ、相手の言葉に返すだけ。にもかかわらず、村人たちは彼にかく乱されていきます。

ジャンルでくくれない圧倒的な熱

おっ、韓国発ゾンビホラーか!? いや、呪術バトルか!?と観客をワクワクさせて、最終的に「自分は一体何を見たんだろう……」と呆然とさせられるのが『哭声』という映画の稀有なところでしょう。これはけっして批判ではありません。どのジャンルでくくって分析していいのかわからない、しかし圧倒的な“熱”を叩きつけられたという不思議な感覚が残るのです。

しいてジャンルでくくるならば、寓話や説話に近いものでしょうか。「相手がどんな人物なのか真実を捉えることは、人を信じることは、不可能なんじゃないか……」という絶望を抱えて試写会場を後にすることになりました。村人をかく乱する謎の男が日本人という設定は、始め反日感情の表れのようにも思えました。しかし、映画を通してみると、そんな感情さえも皮肉るような意図が込められていたのではないかと感じます。彼は本当に日本人だったのか? 村人たちがそう願っただけじゃないのか?

『チェイサー』(2008年)や『哀しき獣』(2010年)と犯罪映画で傑作を送り出してきたナ・ホンジン監督が、人間が抱えるさらにシンプルな“罪”に迫ったように感じられる作品です。

体液、風景、こだわり感じる画面作り

……と、なんだか小難しい映画のように語ってしまいましたが、単純にホラーとして一級品! 殺人を犯した村人たちは例外なく、「濁った眼に湿疹でただれた肌」という姿に変貌するのですが、ゾンビ映画はそれなりに見ている筆者も「なんか汚い! 生理的に無理!」とスクリーンから目をそむけたくなりました。邦画で描写される血液って、サラサラして見える場合が多いですが、『哭声』に出てくる血はヌルヌルしていそう。まさに“体液”という感じの生々しさ。

また、監督が徹底的にロケーションにこだわったため、本作の撮影は6カ月にも及び、さらに全国各地を行き来する過酷なものになったそう。さらに劇中の状況にふさわしい時間や天気で撮影を行うため、雨や霧が降るまで何日も待機したり、夜明けのごくわずかな時間帯で毎日1、2カットずつ撮影していき、ひとつのシーンを完成させるのに数日かかることもあったとか。確かに画面にまったく隙がない。ひとつひとつのカットから、エネルギーがひしひしと伝わってくるので、映像に興味がある人も必見の作品です。

なんだか映画というジャンルの幅を少し広げたようにも感じられる『哭声』。傑作よりも怪作、奇作という言葉がピッタリで、とにかく映画好きなら、この“事件”を目の当たりにすべし!

(文/原田イチボ@HEW)