文=ロサンゼルス在住ライター 鈴木淨/Avanti Press

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主演女優賞を受賞した『ラ・ラ・ランド』エマ・ストーン
Jeff Lipsky / (c)A.M.P.A.S.

今年のアカデミー賞授賞式テレビ中継の平均視聴者数は3290万人で、過去9年間で最低だったと調査会社ニールセンが発表した。

電通系のメディア投資会社アンプリファイUS副社長で番組リサーチ担当のビリー・ゴールド氏は視聴率低下の理由を分析し、米紙ロサンゼルス・タイムズにこう語っている。「考えられるのは、政治的要素が一定の視聴者を遠ざけたという事実でしょう」。

どうやら、やはり背景には何かとお騒がせなあの大統領の存在があるようだ。

地域別視聴率が示す「証拠」

ゴールド氏の指摘は、今年度これまでの他の映画賞同様、アカデミー賞でも出席者からトランプ大統領を批判する発言が多く飛び出すと予想されたため、ある種の人々が授賞式中継を視聴しなかった、というもの。こういった見方は事前からあった。

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『ムーンライト』の製作陣が登壇したところで
誤発表の理由を説明しようとするウォーレン・ベイティ
Mark Suban / (c)A.M.P.A.S.

実はこの意見を裏付ける証拠がある。地域別の世帯視聴率が最も高かったのはニューヨークの31.1%。サンディエゴ(30.7%)、ロサンゼルス(30.5%)、シカゴ(30.5%)、サンフランシスコ(30.3%)、フィラデルフィア(25.3%)、シアトル(24.7%)、ボストン(24.1%)、デンバー(23.4%)、ワシントンDC(23.2%)と続く。フィラデルフィアを除き、これらは全て昨年11月の大統領選挙で民主党のヒラリー・クリントン候補を支持した州にある。リベラル派が優勢な大都市が目立つ。

これに対して、最も低かったのがテネシー州メンフィスの10.6%。次いでオハイオ州デイトンの11.3%、ノースカロライナ州ウィンストン・セイレムの11.4%、ルイジアナ州ニューオーリンズの12.6%という順番。これらは全て共和党のドナルド・トランプを支持した州だ。現在、アメリカを蝕んでいる政治的分断を如実に表した数字と言える。

実際の授賞式では、トランプ批判発言は予想されていたよりもずっと少なかった。にもかかわらず、米メディアによると当の大統領は、28日(火)に放送されるテレビのインタビューで「『人種のカード』を切るとき、いつも彼らはひどく負けるんだ。私は何年もそれを見てきた」などと、自身の移民政策への批判コメントもあった同中継をこきおろしたという。

大ハプニングは調査時間帯の後だった

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ウォーレン・ベイティから封筒を譲り受け発表するフェイ・ダナウェイ
Mark Suban / (c)A.M.P.A.S.

同中継の視聴者数3290万人は昨年(3440万人)から4%減で、3年連続の前年比ダウンとなった。

今年のアカデミー賞と言えば「世紀の誤発表」。クライマックスである作品賞が間違ってアナウンスされ大騒動になったが、このハプニングも視聴率には大きな影響を与えなかったことになる。

これにも理由がある。この「誤発表」と「再発表」が行われたのは、ニールセンによる視聴率調査時間帯が終了した後だったというのだ。調査対象は同中継内の最後のCM枠となった東海岸時間の12時2分までで、その後、ハプニングを含む放送は12時10分まで続いた。

今年の同中継の放送時間は、過去10年間で最長の3時間49分(放送枠の尺は決まっていない)。このあたりも低視聴率につながったと見られている。

遅い放送時間、少ない人気作も影響か

前出のゴールド氏は、視聴者数が少なかった理由として「放送時間が遅いこと、大ヒットしたノミネート作品が少なかったこと」も挙げている。これらは例年、問題視されていることでもある。

同中継は西海岸のロサンゼルスで午後5時半から行われ、9時過ぎに終了。しかし3時間の時差がある東海岸では8時半に始まり、先にも述べたように深夜12時過ぎまで放送された。これは2002年の12時34分に次ぐ遅さで、昨年は11時51分に終了している。

また今年も、一般のほとんどが知らない低予算映画のノミネーションが多く、視聴者の強い関心を引けなかった。過去20年間で視聴者数が最高だったのは1998年の5520万人。メガヒット作『タイタニック』が作品賞に輝いた年である。

アカデミー賞ブランドは傷つかない

しかしゴールド氏は、今年度の視聴者数ダウンは、長い目で見ればアカデミー賞のブランドに悪影響を及ぼさないとしている。

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オリジナル歌曲賞部門にノミネートされた『ラ・ラ・ランド』の
「シティ・オブ・スターズ」と「オーディション」を演奏するジョン・レジェンド
Valerie Durant / (c)A.M.P.A.S.

アメリカでもテレビ離れは進行しており、ニールセンの数字にはオンラインの視聴者数は含まれていない。それもあって近年、テレビ中継の視聴者数は98年のような高みに届いていないが、それでも同授賞式がアメリカで最も視聴される番組の一つであることは確か。30秒のCM一枠の広告料も200万ドル(約2億2566万円)と破格だ。

スーパーボウル中継ほどでないにしろ、アカデミー賞授賞式中継には日本人にとっての「紅白」のような“国民的行事”としての趣や希少価値があるのだ。

最後に、2007年以降のアカデミー賞中継視聴者数の推移を紹介する。今年度同様、それぞれの数字のアップダウンには様々な要因が絡み合っているため、ここでの言及は避けるが、右に挙げた作品賞のタイトルを見て「ああ、あの年ね、ふーん」と思える程度の資料として。

【作品賞と視聴率一覧】
2007年 4010万人 作品賞『ディパーテッド』
2008年 3200万人 作品賞『ノーカントリー』
2009年 3630万人 作品賞『スラムドッグ$ミリオネア』
2010年 4170万人 作品賞『ハート・ロッカー』
2011年 3790万人 作品賞『英国王のスピーチ』
2012年 3930万人 作品賞『アーティスト』
2013年 4040万人 作品賞『アルゴ』
2014年 4370万人 作品賞『それでも夜は明ける』
2015年 3730万人 作品賞『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
2016年 3440万人 作品賞『スポットライト 世紀のスクープ』
2017年 3290万人 作品賞『ムーンライト』