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“復讐”というテーマを好み、凄惨な暴力描写の中にも悲しみを湛えた作風で知られる同監督の最新作『お嬢さん』(3月3日公開)は、成人指定にもかかわらず全世界で異例の大ヒットを飛ばしています。もちろん日本でもR18+での公開なのですが、いわゆる“百合”好きは全員見てくれ! 教科書のような作品だから!

濃厚ベッドシーン以外も匂い立つような…

『お嬢さん』は、支配的な叔父と、膨大な蔵書に囲まれた豪邸で暮らす華族令嬢・秀子(キム・ミニ)をめぐる騙し合いの物語。秀子のもとに新しいメイドの珠子こと孤児の少女スッキ(キム・テリ)がやってくるが、実はスッキは、秀子の財産を狙う“伯爵”(ハ・ジョンウ)の手先だった――。原作は、「このミステリーがすごい!」で第1位を獲得した、イギリスの小説家サラ・ウォーターズの傑作「荊の城」。原作では19世紀半ばのロンドンが舞台でしたが、本作では舞台を1939年の朝鮮半島に大胆にアレンジしています。

伯爵は秀子を誘惑して日本で結婚した後、彼女を精神病院に入れて財産を奪う計画を立てています。スッキは、秀子が伯爵を愛するように仕向けるサポート役なのですが、彼女自身が秀子に惹かれていってしまうのでした……!

パク・チャヌク監督お得意の暴力描写は今回控えめで、代わりに性描写が濃厚なのですが、そのシーンはほぼ、スッキと秀子、同性同士によるもの。しかもただ裸で抱き合い後はムードでごまかすようなものではなく、〇〇を××して、さらに、さらに……! と、かなり詳細に描写されています。

いまさら説明する必要もないでしょうが、“百合”とは、女性同士の恋愛や、恋愛めいたやり取りを描いた作品のこと。何も筆者はベッドシーンばかりを指して百合と言っているのではありません。たとえば、秀子が自分の豪華なドレスをスッキに着せ替えて、「こうすると、あなたもお嬢さんね」と言うところ、スッキが秀子の入浴を手伝いながらも、彼女の美しさから目が離せなくなるところ、スッキが嫉妬心から相棒であるはずの伯爵にぶっきらぼうに接してしまうようなところなど、思わず「百合だ!」と叫びたくなったシーンが満載。意思を感じさせる瞳を持った素朴な容姿のキム・テリと、美しいけど虚ろな雰囲気もあるキム・ミニという、ビジュアルの対比も最高!

役者たちが日本語での演技に挑戦

しかし、本作はただ美女がイチャイチャするだけの作品ではありません。第1部はスッキの視点、第2部は秀子の視点、第3部はすべての真相という3部構成からなっているのですが、誰がだましているのか、誰がだまされているのか、物語が進むにつれて何が真実なのかわからなくなっていきます。そのため第1部と第2部でまったく印象が変わってしまうシーンも。「究極の騙し合い」のうたい文句は伊達じゃない。月並みな表現ですが、2時間25分の上映時間中、1秒たりとも気が抜けません。

人間同士の思惑が交差するストーリーだからこそ、役者たちには高い演技力が求められますし、しかも韓国映画でありながら、日本語でやり取りするシーンがかなり多い。となると、日本語のシーンに関しては、見る側としては多少“がんばったで賞”的に演技を評価しないといけないのだろうと思っていたのですが、ミニとテリの達者なこと! とくにスッキを演じたテリは、発音にも不自然さはなく、これまで演技経験がほとんどないというのが信じられません。ミニはテリに比べると習熟度こそ一段落ちますが、歌うような口調は、ミステリアスな秀子のキャラクターにピッタリなので、逆に正解かも? ハ・ジョンウは……がんばったで賞だね……。

ビジュアルブックは出版されないの?

日本語と韓国語が入り混じる会話に加えて、和洋折衷の形式で建てられた豪邸、美しいドレス、秀子の叔父・上月(チョ・ジヌン)がコレクションする大量の春画と、『お嬢さん』には、さまざまな国の“美”を拾い集めた結果、どの国にも属さない不思議な空気が漂っています。シンメトリーを意識した画面作りも鮮やかで、映像美に浸るためだけに、もう1周したい気持ち。ビジュアルブックとか出版されないのかしら。世界中の映画祭で、外国語映画賞を総なめにしているというのも納得です。

アートに興味がある人も、美女同士のたわむれに心ときめく人も。また、パク・チャヌク監督の作品にしては珍しく、鑑賞後の後味は悪くないものなので、「暴力は苦手だし、見た後落ち込むような作品は苦手……」と監督の作品を敬遠していた人にも、入門編としてオススメ。見どころが多いからこそ、人それぞれ心に残る部分が分かれて、上映後に感想を語り合うのも盛り上がるだろうなぁ。誰かと一緒に見るのも楽しそうな作品ですが、激しいベッドシーンを一緒に見られる相手となると限られちゃいますかね!

(文/原田イチボ@HEW)