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(c)2016埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ

3月11日から公開される、熊谷まどか監督作『話す犬を、放す』。認知症で幻覚を見るようになった母と、40代の売れない女優親娘の心の交流を、コミカルかつ繊細に描くユニークな作品だ。この映画で、注目したいのは、親娘の亡き飼い犬、チロの存在。実はチロ役のワンコは、12歳にして初めて主役級に抜擢された、遅咲きのタレント犬なのだ。

まずは同作のあらすじ紹介! 介護とキャリアの狭間で…

女優レイコ(つみきみほ)、43歳。今ひとつパッとしないキャリアのままスクールで演技指導を続けている彼女に、すでに活躍中の俳優仲間から映画出演の話が舞い込んだ。突然の朗報に俄然燃えるレイコだったが、同時に一人暮らしの母ユキエ(田島令子)が幻覚や幻聴に悩まされる「レビー小体型認知症」を発症し、実家に戻らざるを得なくなる。その母の見る幻覚で最も顕著なのは、かつてレイコの家で飼われていた、チロという犬だった。しかも、その犬が話しかけてくるというのだから、やはり母を1人にはしておけない。やがて、母の幻覚は意外な事実と結びつくことを知るのだった。

“チロ”役は、遅咲きのタレント犬、めんまちゃん

この映画は、若草色の草原を茶色っぽい毛並みのかわいい犬が駆け回る印象的なシーンから始まる。それが、ヒロイン親娘の家で飼われていたチロだ。遥か時を経て、ユキエの幻覚の中に帰ってくるチロは、物語の重要な鍵を握っている。いわば、主役級のワンコなのだ。
演じるのは雑種の女の子「めんま」ちゃん、12歳。茨城県稲敷市にあるグローバル・アニマルアクト所属だが、実は同社のスタッフ、大河内智子さんの飼い犬だ(ちなみに、大河内家の先住犬「なると」ちゃんが黒いワンコだったので、こちらは毛並みの色合いから「めんま」と名付けたのだとか)。
最近では、町中で野良犬を見かけることが滅多にない。そこで、名もない野良犬の役が必要になると、雑種のめんまちゃんに声がかかることがこれまでも何度かあった。しかし、ちゃんと名前も、さらにはセリフまである役をもらったのは今回が初めてだという。
熊谷監督の“話す犬”のイメージは最初から明確に“雑種”だったそう。動物プロダクションには様々な犬種が揃っているが、逆に雑種は意外に居ない。そこで、めんまちゃんの大抜擢となったわけ。犬の12歳はすでに高齢の域なので、遅咲きの大役獲得と言える。43歳にして映画に初出演しようとする主人公レイコの姿と、どこか重ならないだろうか。
映画の中では高齢犬とは思えぬ颯爽とした走りを見せるめんまちゃんだが、撮影直後はさすがにちょっとお疲れ気味だったよう。でも、食欲旺盛でとても元気なめんまちゃん、健康の秘訣は好物の大根らしい。

認知症の現場で注目されるアニマル・セラピー

ユキエが発症する「レビー小体型認知症」は、幻覚や幻聴の症状は顕著なものの、記憶障害などはあまり見られないタイプの認知症だ。ユキエも薬を処方されてからは比較的落ち着いているし、レイコが誰だかわからなくなるといったこともない。むしろ、幻覚によって心の奥底に沈んでいた記憶が浮上し、大きなカタルシスに結びつく。その意味では、幻覚とはいえ、チロはユキエにとってセラピー・ドッグのような役割を果たしているのではないだろうか。
実際、認知症介護の現場では、近年アニマル・セラピーが注目されている。犬をはじめ、動物と触れ合うことが認知症の症状を緩和する実例が多数報告されているのだ。例えば、認知症に関するポータルサイト「認知症オンライン」(https://ninchisho-online.com/archives/673/)によると、高齢の認知症患者にとって犬と触れ合うことは「この子を守ってあげたい」という使命感を喚起し、それが単なる癒し以上の効果をもたらすのだという。

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日本ではまだまだ普及しているとは言い難いアニマル・セラピーだが、欧米では数十年の歴史がある。日本でも岡山のNPO法人「介護高齢者ドッグセラピー普及協会」などの専門機関が増え始めている。レイコのように介護と仕事の両立に悩む人々にとっても、ワンコたちは癒しの救世主になってくれるかもしれない。関連書籍も出版されているので、関心のある人は探してみてはいかがだろう。

(文/水神晶@H14)

『話す犬を、放す』
3月11日(土)  有楽町スバル座ほかにて全国順次公開

2016年/日本/84分
監督・脚本:熊谷まどか
出演:つみきみほ 田島令子/眞島秀和 木乃江祐希
製作:埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
制作:デジタルSKIPステーション、オフィス・シロウズ
特別協力:川口市
配給・宣伝:アティカス

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