映画はときに、私たちの身近な問題をあぶり出し、その真摯なメッセージに心打たれます。 例えば3月18日公開の『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2017年)では、イギリスの労働者階級や社会的弱者の問題が提起されています。

心臓病を患い医師に働くことを止められた初老の男ダニエル(デイブ・ジョンズ)は、国の援助申請がインターネットでしか手続きできないという役所の説明に困惑します。そんな彼が知り合ったシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)と子供たちも複雑で理不尽なシステムや法制度の下、経済的貧窮へ追い詰められていきます。

映画では自分のこと以上にケイティ母子を案じるダニエルの行動を映し出します。貧しい中でも人間としての尊厳を失わず、力強く生きる姿には、観客も自然と勇気づけられることでしょう。

監督は御年81のケン・ローチ。前作『ジミー、野を駆ける伝説』(2014年)で活動休止を表明しましたが、格差や若者の貧困、ひとり親家族への補助制度不足などが深刻化する英国の現状に心を痛め、引退を撤回。日本でも改善が望まれる社会問題をストレートに切り取っています。そんな世界共通の社会問題を浮き彫りにする映画を、本作をきっかけにピックアップしてみました。

『幸せのちから』……ひとり親の就労の難しさを浮き彫りに

貧困と、幼い子供を持つひとり親家族の就労の難しさを描いたのがウィル・スミス主演作『幸せのちから』(2006年)。ホームレスから億万長者になったアメリカン・ドリームの体現者、クリス・ガードナーの半生を描いたヒューマンドラマです。

事業の失敗から貧困家庭となったクリス(ウィル・スミス)は、高収入が見込める株のトレーダーになるために証券会社の養成コースに通います。この半年間の養成コースは、研修期間のため収入なし。お金に困ったシングルファーザーのクリスと5歳の息子クリストファー(ジェイデン・スミス)はついにホームレスに……。

教会が斡旋するシェルターに寝泊りしたり、時には公共施設のトイレで体を洗ったりとギリギリの生活を送りながらも、お互いを支え合う父子愛にほっこりします。本作でクリストファーを演じたのがウィル・スミスの実の息子ジェイデンくん。過酷な状況でも笑顔を失わない愛らしい姿が評判となり、ウィル親子初の共演作としても話題になりました。

『人生に乾杯!』……高齢者に冷たい社会への怒り

ハンガリー映画の『人生に乾杯!』(2007年)は、お年寄りに冷ややかな社会を映し出したクライム・ロードムービー。少ない年金額と高齢者の社会保障が整備されていないことに憤った老夫婦が、連続強盗犯として逃避行します。

1950年代、労働者階級で共産党員のエミル(エミル・ケレシュ)は、伯爵令嬢ヘディ(テリ・フェルディ)と出会い結ばれます。それから数十年後、老夫婦となった2人は思い出の品まで差し押さえられるほどの生活苦に。本作は、まるで高齢者に無慈悲な社会を告発するかのように連続強盗犯を繰り返す老夫婦が、次第に世間から支持を集めていく様子を映し出します。

同じく強盗カップルを主人公とするアメリカン・ニューシネマの名作『俺たちに明日はない』(1967年)を彷彿とさせる、派手な逃避行が繰り広げられますが、あちらが実在した強盗犯ボニーとクライドを刹那的に映し出したのに対し、こちらは痛快でユーモラスに描かれています。

『Mommy/マミー』……障がい者とシングルマザーへの偏見

『マイ・マザー』(2009年)で監督デビューを果たした異才・グザヴィエ・ドランによる世界が絶賛した感動作『Mommy/マミー』(2014年)は、障がい者やシングルマザーへの偏見やサポート体制の未整備にNO! を突きつけながらも、母親と息子の絆と葛藤、崇高な愛を描いています。

映画は、発達障がい児を抱える親が育児困難に陥った場合に、育児放棄ができるという新法が制定されたカナダを舞台にしたタラレバの世界の物語です。夫を亡くしたダイアン(アンヌ・ドルバル)は、矯正施設に入っていたADHD(多動性障害)の息子スティーブ(アントワン=オリビエ・ピロン)を引き取り、共に暮らしはじめます。隣人カイラ(スザンヌ・クレマン)の助けも借りながら束の間の楽しい時を過ごしますが、スティーブが起こす様々な問題を前にダイアンは成す術もなく……。

問題を抱えながらも寄り添うダイアン母子の姿に落涙必至の一作。物語に描かれる彼らの未来には賛否両論あるかもしれませんが、どんな選択であってもその根底に流れるのは複雑で深い母親の愛。魂が震えるような感動に身を任せてみてはいかがでしょうか。

『東京難民』……現代日本の抱える闇をかいま見る

最後は、格差社会や裏仕事、ネカフェ難民など現代日本が抱える闇を浮き彫りにした『東京難民』(2013年)。福澤徹三の小説を中村蒼を主演に映画化し、大学生という身分も、住処も失い絶望の淵に青年が追い詰められる過程を映します。

東京で一人暮らしの大学生・修(中村)は、ある日、学費未納で大学を除籍させられます。父親が借金を抱え失踪しながらも事態を甘くみた彼は、手元に残るお金を散財。家賃滞納でアパートも強制退去させられ、ネカフェ難民に。日雇いバイトやホスト、危ない仕事……と、次第に裏稼業の逃れられないシステムにからみとられていく修の姿は、リアルな現代社会の闇の淵をのぞき見してしまったようで、かなりショッキング。ついにホームレスとなった修が、泥沼から這い上がろうとあがきながら精神的に成長していく姿が胸に迫る社会派ドラマです。

しかし、このような問題に直面した時、個々の力で貧困や泥沼の状態から抜け出すのは、容易なことではありません。

そんな中、ケン・ローチ監督が『わたしは、ダニエル・ブレイク』に込めたメッセージ(「誰もが享受すべき生きるために最低限の尊厳」や「人を思いやる気持ち」)に賛同した日本での提供会社2社が、“チーム「ダニエル・ブレイク」”を結成。本作の上映権を保有する今後30年間にわたり、収益の一部を使って貧困に苦しむ人々を援助する基金を設立したそうです。

今回ご紹介したような社会問題を描いた映画が、観た人の心を揺さぶり社会を変えていくきっかけとなったら素敵ですね。興味をもたれた方は映画と一緒に公式ホームページ内記載の“チーム「ダニエル・ブレイク」”もぜひチェックしてみてください。

『わたしは、ダニエル・ブレイク』 3月18日(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開 (c)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Britsh Broadcastng Corporaton, France 2 Cinéma and The Britsh Film Insttute 2016

(文/足立美由紀・サンクレイオ翼)