昨年は黒人俳優のノミネートがないとして批判を集めたアカデミー賞ですが、一転して今年の第89回授賞式では黒人俳優たちが出演した『ムーンライト』(3月31日公開)が作品賞、助演男優賞、脚色賞の3部門を受賞しました。

アメリカ屈指のリゾート地である一方で、貧困、麻薬汚染、犯罪多発、人種への偏見や差別といった問題を数多く抱えるマイアミに生きる少年シャロン(トレバンテ・ローズ)。学校ではいじめを受け、家では親からの虐待にさらされている彼が、たった一人の親友や父親代わりの麻薬ディーラーと関わるなかで成長する姿を、本作では幼少期、少年期、成人期に分けて描きます。

静謐なタッチを貫きながらも、誰もが抱えている個性やアイデンティティーの尊さをエモーショナルに謳い上げた内容はもちろん、助演男優賞を掴んだマハーシャラ・アリが放つ圧倒的存在感、時に淡く、時に鮮烈でもあるカラフルな映像には、誰もが引き込まれることでしょう。

昨年こそ黒人を無視したと非難されたものの、これまでにもアカデミー賞で社会問題をテーマにした黒人俳優出演の作品が受賞することがありました。

『チョコレート』:白人男性と黒人女性、葛藤しながらも惹かれ合う2人

『チョコレート』(2001年)は、同じ仕事に就いていた息子を自殺に追い込んでしまった看守の白人男性(ビリー・ボブ・ソーントン)と、犯罪者の夫を死刑で失った黒人女性(ハル・ベリー)が心を通わせるさまを描きつつ、家庭の崩壊、人種差別も浮き上がらせた人間ドラマです。

人種差別主義者であった父親に育てられ黒人を蔑むべき存在としか捉えられず、夫の死刑を執行した男。そんな彼の秘めた優しさに気づき、葛藤しながらも惹かれる女性の複雑な胸中をハル・ベリーが熱演して、第74回アカデミー賞で主演女優賞を受賞。いまも根強く残っている人種差別を愛で打ち負かすことができることを訴えました。

『Ray/レイ』:盲目の天才ミュージシャンを完璧に再現

『Ray/レイ』(2004年)は、ソウル・ミュージックの神様と謳われた黒人アーティストであるレイ・チャールズ(1930〜2004年)の伝記ドラマです。人種差別の激しいアメリカ南部ジョージア州に生まれ、貧しい暮らしを強いられる中で、仲の良かった弟を溺死させてしまったトラウマと緑内障による失明、さらに麻薬依存を抱えながらも音楽業界で成功を納めていきます。

人種差別はなくならないと冷めていたレイが、ステージ上で主催者から心無い言葉を投げかけられたのを機に黒人としてのアイデンティティーとプライドに目覚める展開は、観ているこちらも熱くなってしまいます。

そして必見なのが、本作で第77回アカデミー賞主演男優賞に輝いたレイ役のジェイミー・フォックスの熱演。盲目だったレイに少しでも近づけようと、1日12時間も目隠しする役作りを敢行。まるで本人が憑依したかのように所作や喋り方までも完璧に再現し、受賞も納得できる大熱演を披露しました。

『それでも夜は明ける』:1841年の奴隷制度に迫る衝撃作

『それでも夜は明ける』(2013年)は、第86回アカデミー賞作品賞、助演女優賞、脚色賞に輝いた、スティーヴ・マックィーン監督による実録ドラマ。1841年のニューヨークでヴァイオリニストとして活躍していたものの、奴隷としてニューオリンズへと売り飛ばされた黒人ソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)。そんな彼が黒人を家畜のように扱う非人道的な環境のなか、いかにして人間としての尊厳と希望を失わずに自由を取り戻して妻子のもとへ帰ろうとするかを描きます。

農場主による鞭打ちや厳しいノルマを課せた労働といった当時の黒人奴隷が置かれた状況をリアルに再現した描写に加え、怒りと哀しみを胸に秘めた主人公に扮して主演男優賞にノミネートされたイジョフォーや助演女優賞に輝いたルピタ・ニョンゴが見せる熱演にも圧倒されます。また、黒人監督が手掛けた初のアカデミー賞作品賞受賞作としてもエポックな話題を集めました。

誰もが間違っていることと知りつつも、いまも消えることのない人種への差別と偏見。その苦しみ、哀しみ、怒りを、マイノリティの立場から演技を通して伝えようとする黒人俳優たちの熱演と想いをこれらの作品を通してしっかりと受け止めたいものです。

『ムーンライト』 3月31日(金)、TOHOシネマズシャンテ他にて全国公開-(C)2016 A24 Distribution, LLC

(文/星メテオ・サンクレイオ翼)