ドキュメンタリー映画『ぼくと魔法の言葉たち』が描く、“ディズニー・セラピー”と自閉症の少年が起こした奇跡

インタビュー

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今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネートやアニー賞特別業績賞など高い評価を得た感動作『ぼくと魔法の言葉たち』。 本作は2歳の時に突然言葉を失った、自閉症の少年オーウェン・サスカインドがディズニー・アニメーションを繰り返し観る“ディズニー・セラピー”で言葉への理解を取り戻し、家族や周囲の人々のサポートを得ながら自立へと動き出す過程を追っています。

本作とオーウェンの父親ロンが執筆した書籍「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」によって、オーウェンの奇跡の物語は、“ディズニー・セラピー”の成功例として広く世界へ知られることになりました。監督は、『Music by Prudence(ミュージック・バイ・プルーデンス・原題)』で、第82回アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞し、オスカーを手にした初の黒人監督となったロジャー・ロス・ウィリアムズ。来日したロジャー・ロス・ウィリアムズ監督にお話を伺いました。

Q:どのようにして、このプロジェクトがスタートしたのですか?

ロン・サスカインドとは15年来の友人で、かつてABCやPBSの多くの番組で一緒に仕事をしたんだ。ロンはピューリッツァー賞を受賞した作家で、彼の息子オーウェンについての書籍「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」の著者でもある。ロンは執筆中にその本のことを話してくれ、私はすぐにこれは素晴らしい映画になると思い、プロデューサーのジュリー・ゴールドマンと一緒にドキュメンタリー化権を取得し、A&Eインディフィルムズ社のモリー・トンプソンへ企画を持ち込んだ。約2年前の話だよ。

Q:ロンの著書「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」を読んだ感想を教えてください。

初めて読んだ時から、とても心を動かされた。サスカインド家の信じられないほどの愛と勇気だけではなく、彼らが直面した困難と、それをどう乗り越えたか、という点もだ。オーウェンがディズニーの脇役キャラクターたちと一緒に頭の中に作り上げたカラフルな世界、そしてロンが独自のやり方でそれに命を吹き込んだという事実にも感動したよ。

Q:本作の撮影に入る前、自閉症に関する知識をどの程度お持ちでしたか?

本作に取り掛かるまでは、本当に僅かな知識しか持っていなかった。正直に言えば、自閉症の人たちに対して、少し恐れを抱いていたよ。どのように触れ合い、コミュニケーションを取ればいいかが分からなかったからね。でも本作のおかげで自閉症への考え方が完全に変わった。自閉症が欠点や障害であるという見方はなくなり、相違点だと思うようになったんだ。このような優れた人々を無視することで、私たちが人間の本当の、最大の可能性を逸しているのは明らか。彼らを置き去りにすることは社会的な損失だと思っているよ。

Q:『ぼくと魔法の言葉たち』を観ていると、オーウェンはとても幸せそうに見えますね。

それは間違いなく彼の家族、とりわけ母親のコーネリアのおかげだと思う。“ディズニー・セラピー”を信じない、伝統的な考えを持つ医療の専門家たちは、オーウェンにディズニーのアニメ映画の鑑賞を禁じたんだ。でも彼女は従わなかった。ディズニーのアニメ映画の鑑賞を禁じることは、彼から幸せや創造性を奪うと分かっていたからだ。オーウェンの両親は彼と一緒に努力し、彼を守り、彼に必要なものを与えてきた。家族の大きな愛に包まれているからこそ、オーウェンは幸せでいられるんだ。

Q:本作には、『リトル・マーメイド』『ピーター・パン』『ライオン・キング』など10作以上のディズニー・アニメーションの映像が使用されています。著作権に厳しいことで知られるディズニーとどのように交渉されたのですか?

ディズニーの実写映画部門トップのショーン・ベイリーが、実写映画やアニメーション部門、法務などの方々が集まるミーティングをセッティングしてくれて。ディズニー・クラブの様子やオーウェンが卒業する映像はすでに撮り終えていたので、そのシーンやオーウェンの家族が撮ったホームビデオを見せながら、彼に起こったことやドキュメンタリー映画化するにあたっての僕のビジョンをプレゼンしたんだ。僕の話が終わった後、ミーティングに参加した方々全員が涙を流していた。これまで、自分たちが手掛けた作品の重要さは認識していたと思うけど、その作品が誰かの人生を劇的に変えたと実感してくれたことが涙の理由だと思う。トータルで1年がかりの交渉を経て、ディズニーは“君が思うように作ってくれ”と背中を押してくれたんだ。

Q:映像を使用する許可を与えたほかに、ディズニーがサポートしてくれたことは?

ディズニーの場合は、映像の使用許可をもらうことがとても難しいんだ。しかも本作では、ディズニーのキャラクターをその作品以外で表現し、さらに、別作品のキャラクターがお互いにやり取りすることまでを許してくれた。そういう許諾は前例がないんだ。フッテージに関しては、規定の使用料を払っているよ。アカデミー賞の前は、各社が自分たちの作品をPRするキャンペーンを行うんだけど、ディズニーには推すべき『ズートピア』や『モアナと伝説の海』があったから、本作に口添えしてくれたことはなかったな(笑)。

Q:ドキュメンタリーは、映画の中でもっとも難しいジャンルだと思います。題材選びが難しく、撮影は長期に渡るにも関わらず、一攫千金は狙えない。そんな過酷な状況下で、監督がドキュメンタリーを撮り続ける理由は?

僕は挑戦が好きなんだ。フィクションを交えずに、美しい物語を作ることが出来たら、観客の方に世界への見方を変えるようなパワフルな力を提供出来るかもしれない。ドキュメンタリーは製作に時間がかかる分、撮る対象や物語に強い情熱を持ち続けなければならないんだ。僕の場合は、自分がゲイの黒人というアウトサイダーだから、アウトサイダーの物語を作っていきたい。ドキュメンタリーを撮ってお金持ちにはなれないし、長い道のりではあるけど、良い作品が撮れた時は自分にとっても観客の方々にとっても有意義な瞬間になる。だからこそ、僕は本作をたくさんの日本の方々に観ていただきたいんだ。オーウェンという自閉症の少年が障害に負けず、人生を取り戻していく過程を観ることで、きっと何かを感じてもらえると思っているよ。

取材・文/田嶋真理 写真/横村 彰

『ぼくと魔法の言葉たち』
4月8日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
配給/トランスフォーマー/(C)2016 A&E Television Networks, LLC. All Rights Reserved.

記事制作 : 田嶋真理

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