文=金田裕美子/Avanti Press

映画館を出てきた観客が、主題歌を口ずさんだり、ちょっとステップを踏んでみたり……そんな光景を久しぶりに目にしました。もちろん作品は『ラ・ラ・ランド』です。このタイトルは、舞台となっているロサンゼルス=LAと、la-la land=「おとぎの国」「恍惚」という言葉をかけているそう。大勢の人が文字通りラ・ラ・ランドの世界を堪能して、大ヒットとなっているのは嬉しい限りです。

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『ラ・ラ・ランド』
(c) 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.
Photo courtesy of Lionsgate.

『ラ・ラ・ランド』の主人公は、ジャズピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)と女優志望のミア(エマ・ストーン)。それぞれの夢を追う2人は、LA名物・大渋滞の高速道路やバー、パーティなどで偶然に何度も顔を合わせるうち、次第にお互いの距離を縮め、惹かれ合い、そして……というラブ・ストーリーが、軽快なミュージカルナンバーと共に描かれます。

オーディションに落ちてばかりのミアの夢は、もちろん大きな役をつかんで女優になること。セブの夢は、自分のジャズクラブを持って、「いまや瀕死の」ジャズを聴かせる場を作ること。セブはすでに店の名前を「チキン・オン・ア・スティック」にすることも決めています。この不思議な名前の由来は、敬愛する伝説のサックス・プレイヤー、“バード”ことチャーリー・パーカーが「チキン料理が好きだったから」。ミアは「そんな名前の店、誰も来ないわよ」とバッサリ言い放ちますが、セブは意に介さず、「ジャズとビールとチキンの店にするんだ」と張り切っています。

セブの店のメニューを考えてあげようじゃないの

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『ラ・ラ・ランド』
(c) 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.
Photo courtesy of Lionsgate.

セブの店がオープンしたら、どんなチキン料理が出されるんだろう? 楽しみに待っておりましたが、店の料理が映画に登場することは最後までありませんでした。なんだとおーっ。出てこないのなら、私がセブの店のためにメニューを考えてあげようじゃないの。頼まれてもいないのに、なぜか上から目線で恩着せがましく決意いたしました。というわけで、今回はセブの店のチキン料理(想像)を作ります!

チャーリー・パーカーといえば、ジャズマニアとしても知られるクリント・イーストウッド監督、フォレスト・ウィテカー主演の伝記映画、その名も『バード』があります。でもこの映画でのパーカーは、ひたすらアルコールとドラッグを摂取していて、チキン料理の登場はなし。そもそもパーカーがチキン好きだからといって、なぜ「チキン・オン・ア・スティック」という店名に発想が飛ぶのか謎です。だって料理の名前じゃん。映画のサントラにも『チキン・オン・ア・スティック』という曲(オープニングで使われる『アナザー・デイ・オブ・サン』のヴィブラフォン・アレンジ)が入っていて、どうやらこの名前には作り手の並々ならぬこだわりがあるようなのです。

なぜジャズクラブに料理の名前をつけるの?

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『ラ・ラ・ランド』
(c) 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.
Photo courtesy of Lionsgate.

と思っていたら、ちょっと面白いことを発見しました。ミュージシャンかつ重度のジャズオタクでもあるセブは、名曲『スターダスト』の作曲家としても知られるホーギー・カーマイケルが座ったというスツールを宝物にしています。「“ザ・ベイクトポテト”が捨てようとしていた」ものを手に入れたんだとか。字幕では単に「店」と訳されていたこの「ザ・ベイクトポテト」とは、ロサンゼルスに実在する老舗ジャズクラブ。オーナーはジャズピアニストのドン・ランディで、店のフードメニューには、店名に偽りなくベイクトポテトばかりが並んでいます。同じくジャズピアニストのセブが、料理の名前をつけたジャズクラブを作ろうとする……というのはこの店がヒントになっているのかもしれません。

ザ・ベイクトポテトのポテト料理は、メルティッド・チーズ・ポテトからテリヤキ・チキン・ポテトまで、その数なんと21種類! そこまで厳密にポテトばっかりにしなくても、とも思いますが、向こうがその気なら、セブの店のチキン料理も負けてはいられません。フライドチキンでしょ、ローストチキン、チキンパルメザン、チキンコルドンブルー、テリヤキチキン、ヤキトリ、水炊き、筑前煮、鶏わさ……。考えているうちに、ふと意味不明な対抗心を燃やしている自分に気づき、数で勝負するのはやめました。

アメリカのバーの定番チキン料理、作ってみます

アメリカのバーなどで出されるチキンメニューの定番といえば、バッファローウィングとチキンテンダー。このふたつは『ラ・ラ・ランド』にも登場する実在のジャズクラブ、ザ・ライトハウス・カフェのメニューにも載っています。これにしましょう。もうひとつ、外せないのはセブが店名にかかげたチキン・オン・ア・スティックです。だけどチキン・オン・ア・スティックってなに? 

調べてみると、アメリカでも「こういう味付けでこういう串に刺したもの」という決まったレシピがあるわけではないらしい。串に刺したチキンといえば、ニッポンのわたくしたちはどうしたって焼鳥を思い浮かべますが、LAのジャズクラブで焼鳥とホッピーっていうのもねえ……(個人的には嬉しい)。焼鳥に似た東南アジアの串焼き料理、サテも考えましたが、ここは色彩的に映像映えしそうなチキンケバブにしたいと思います(映画に出してもらえるわけじゃないんだけど)。

まずはバッファローウィングから!

まず、バッファローウィング。これはウシ属バッファローとは何の関係もなく、ニューヨーク州バッファローで生まれた手羽料理だからこの名がついたそうです。手羽をオーブンで焼くものや揚げるもの、さまざまな作り方がありますが、ここは発祥の店とされるアンカーバーのHP(https://www.anchorbar.com/)に載っているレシピを真似てみます。

店の写真を参考に、手羽の先端は切り落とし、手羽中と手羽元のみ使います。ペーパータオルなどで水分をよくふき取ってから、塩こしょうも粉も何もつけずにそのまま10分ほど素揚げし、カリカリに。油を切って熱いうちに辛いソースと和えます。たまたま食材屋でボトル入りの「バッファローウィング・ソース」なるものを見つけたので、これを使ってみました。市販のものがなければ、タバスコなどのホットソースにお酢、ウスターソース、バターを混ぜて作れます。

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手羽は先端を切り落として手羽中と手羽元を使います。揚げただけでこんがり美味しそう

真っ赤に染まっていかにも辛そうなチキンに添えるのは、ブルーチーズのディップ。こちらはブルーチーズとマヨネーズ、サワークリーム、ヨーグルトを合わせたもの。

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ブルーチーズのディップ。なかなかカロリー高そうです。

これ、材料の名前を並べただけで胸焼けしそうなヘビーさです。こってりと味をつけたチキンに、なぜまたさらにこってりしたディップを添えるのか。かなりトゥーマッチな感じがしますが、これがあちらの定番。必ずセロリのスティックを一緒に盛り付けるのは、このこってりコテコテの罪悪感を少しでも軽減するためでしょうか。

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ホットなバッファローウィング・ソースを絡めてできあがり

お次はチキンテンダーことチキンフィンガー

お次はチキンテンダー。チキンフィンガーとも呼ばれるこの料理は、鶏肉をスティック状に揚げたもの。もともとはチキンテンダー=ささみを使ったところからこう呼ばれていますが、鶏の胸肉を細長く切ったものでもOKです。味付けのバリエーションも、店や家庭によって数限りなくあるようです。今回は2種類作ってみました。

ひとつは映画に合わせてアメリカっぽくクレイジーソルトでささみに下味をつけ、小麦粉と卵液をくぐらせ、クラッカーの衣で揚げたもの。衣がとってもクランチーに仕上がります。もうひとつは塩こしょうで下味をつけ、パン粉とおろしたパルメザンチーズ、パセリの衣をつけたもの。こちらはちょっとイタリアン・テイストになります。

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ささみは縦に2つに切ってフィンガーサイズにして使いました。

チキンテンダーに添えるのは、これまたアメリカの定番、ハニーマスタード。「ハニーマスタード」としてボトルで市販されているものもありますが、最もシンプルに、マスタードとハチミツを混ぜて作りました。甘いのが苦手な人は、普通のマスタードでも、または何もつけずに食べても充分に美味しいです。

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クラッカーの衣とパン粉の衣の2種。ハニーマスタードはその名の通りあまい!

店の名物にして欲しいチキン・オン・ア・スティック・ケバブ風

最後はいよいよチキン・オン・ア・スティック・ケバブ風。まずはマリネ液を作ります。ヨーグルトにすりおろしたニンニクとすりおろし玉ねぎ、レモン汁、塩こしょう、オリーブオイル、クミン、タイム、レッドペッパーを入れてよく混ぜます。ここにひと口大に切った鶏肉を漬け込みます。鶏肉の部位は何でもよいのですが、先ほど手羽とささみを使ったので、今度はもも肉を使いました。1時間ほど漬けたら、金串にししとう、パプリカと交互に差して、200度のオーブンで30分ほど焼けば出来上がり。

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鶏肉をよーく漬け込むのが秘訣です。簡単にフライパンで焼いてもOK。

こちらはクミンを使っているので、ちょっとエスニックな香りが漂います。

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色味も鮮やか! チキン・オン・ア・スティック・ケバブ風

さて、チキン料理3種の完成です。どれも音楽を聴きながらつまめて、ビールにも合うものにしたつもりです。どうよセブ? チキン・オン・ア・スティックをオープンしたあかつきには、私のメニューを採用してくれる? (なぜいばる……)

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どうよ!セブ

【『ラ・ラ・ランド』のレシピ】
《バッファローウィング》
手羽元、手羽中、揚げ油、市販のバッファローウィング・ソース(またはホットソース/酢/ウスターソース/バター)、ブルーチーズ・ディップ(ブルーチーズ/マヨネーズ/サワークリーム/ヨーグルト)
《チキンテンダー》
ささみ、小麦粉、卵、クレイジーソルト、クラッカー、塩こしょう、パン粉、パルメザンチーズ、パセリ、揚げ油
《チキン・オン・ア・スティック・ケバブ風》
鶏もも肉、マリネ液(ヨーグルト/にんにく/玉ねぎ/レモン汁/オリーブオイル/クミン/タイム/レッドペッパー/塩こしょう)、ししとう、パプリカ
《映画っぽい気分を盛り上げる小道具》
いわくありげなスツール、ピアノ、ビール、原色のドレス、ジャズ、タップシューズ