大学入試が「学力査定」から「人物重視」の試験へと急速に舵を切るなど、学びのあり方が問われる昨今、子供の情操教育に頭を悩ます親御さんも多いのでは? そんな方々にこの春見て頂きたいのが、4月1日公開の『はじまりへの旅』(2016年)です。

アメリカ北西部の現代社会から隔絶された森で暮らす父親ベン・キャッシュ(ヴィゴ・モーテンセン)と6人兄弟。彼らがニューメキシコで亡き母の葬儀に出席するため2,400キロのバス旅に出るロードムービーなのですが、子供たちには一流アスリートなみの身体能力と天才的頭脳が備わっています。人里離れた山中で、いったいどうしてそんな子供たちが育つのでしょう?

テレビやゲーム、インターネットを一切排除

『はじまりへの旅』 4月1日(土)より全国公開-(C)2016 CAPTAIN FANTASTIC PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

キャッシュ家は自給自足のサバイバル・ライフを送っています。学校に通わない子供たちは日頃、狩りにいそしんだり、過酷なフィジカルトレーニングをこなし、大自然の中で瞑想をして気分を整えたり、心身ともに鍛錬に励んでいます。テレビやゲームはもちろんインターネットも一切排除された環境で、夜はたき火を囲みながらベンのギターに合わせてクラシックの合奏を森に響かせます。日頃、情報過多のストレス社会で生きる私たちが妬ましくなるような豊かな時間を過ごしているようです。

ハーバードだって合格しちゃう!! 自宅学習

注目すべきは彼らの勉強方法。ベンは哲学書や古典文学を読む子供たちの読書ペースを管理して習熟度を厳しくチェックしています。例えば、「興味深い」という読書感想には「無意味な言葉だ。もっと具体的に」と重ねて質問をするなど、妥協を許しません。また、常に自分なりの考えを持ち、意見を自分の言葉で伝えることを徹底させているのは、子持ちならずとも参考にしたいところです。

熱血指導の甲斐あって、ボウは名門ハーバード大学ほか一流大学に軒並み合格。サージはアメリカ合衆国憲法の人権規定“アメリカ権利章典”を暗記し、意義を説明できるまでに。そして子供たち全員がエスペラント語を含む6か国語を自在に操ることができるなど、彼らの日々の生活全てが勉強になっていることに驚かされます。

食事はオーガニック。ファストフードはNG、炭酸飲料は毒の水?

先述の通り、普段から生粋のオーガニック派の彼らは、バス旅のさなかに立ち寄ったレストランでも添加物たっぷりのハンバーガーやシェイクはもちろん、コーラに至っては“毒の水”だからと注文させてもらえません。

アメリカのファストフードといえば『スーパーサイズ・ミー』(2004年)などのドキュメンタリーでも問題視されることがありましたが、天然食材第一主義のベンにとって、受け入れがたい食文化なのでしょう。

子供と正面から向き合う

小さな子供でも自立した一個人と認め、「セックス」や「母親の死因」などの質問にも真正面から答えるベン。異なる意見はその理由を尋ね、納得できれば考えを変える柔軟さを持っています。

ストーリーが進むにつれ、子供たちは現代社会と接し、意見交換やカルチャーギャップから、これまで理想的だと思っていた世界が「かならずしもそうでないのではないか?」と、疑いを持つようになります。子供たちのためと考えていた行為を、当の本人たちに疑われるベン。しかし、それでも真正面から向き合ってくる父に、子供たちにも変化が……。子供も大人も関係なく対等に、真摯に向き合う姿勢は、最も見習うべき“教育法”かもしれません。

独創的な教育、異なるものを知る旅を経てキャッシュ家の子供たちは笑って、泣いて、考えてどう成長していくのか。その過程を見る側も一緒に共有することで味わいが深くなる『はじまりへの旅』。時代の最先端をいく(?)トンデモ教育方針、参考にすれば文武両道な天才が育つかもしれませんよ?

(文/足立美由紀・サンクレイオ翼)