アラフィフ・有森也実、女優引退の覚悟も…裸状態からのスタートで“ありのまま”に

インタビュー

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トレンディドラマの代表格「東京ラブストーリー」でブレイクしてから約26年。女優の有森也実が、全4章・4時間超えの大作映画『いぬむこいり』(5月13日公開)で“ありのまま”になった。「イモレ島に行け!」とのお告げを受けた独身小学校教師の梓が、アイドルルックで選挙活動をしたり、犬男と愛欲にまみれたり、放尿したり、血塗られた革命戦線に巻き込まれたり。カオスな旅を通して解放される魂を、演技というベクトルを超えた境地で体現。今年で五十路の有森に、その挑戦の顛末を聞いた。

50代目前は肉体的・精神的にも疲弊

「40代も後半になると体力もなくなるし、台本を読むのにも老眼鏡を探さなければならないし、本当に疲れる。若い時に比べて面倒くさいことが肉体的にも精神的にも増えました」とアラフィフの現状を代弁しつつ「でもこの映画の後半では、状況は過酷であるにも関わらず、生きるパワーがみなぎるという不思議な現象が起こった。まさに人間が生きるとはこういうことだ!と思わせられた。歳をとるとくたびれることが多いけれど、チャレンジ精神・冒険心を持つことでエネルギーが生まれる。この作品は私にとっての挑戦です。その姿を通して冒険心を持つことの素晴らしさを伝えたい」と同年代への応援映画としての側面を強調する。

伝承民話「犬婿入り」にインスパイアされた同作の舞台は現代日本でありながらも、現実とファンタジーが混合する壮大で異様な世界。そこにリアリティを注入するには小手先の演技ではいけない。そう決意した有森は、演じることをやめた。「片嶋一貴監督は自分の頭の中にあるビジョン以上のものが生み出される瞬間を求めていました。その撮影は『いぬむこいり』という映画を作るためのライブのよう。私も役を演じることはやめて、今の有森也実のままで臨みました。それはこれまでの自分の生き様を役に反映させること。当然オンとオフがないのでかなりキツかった」と回想する。

“ありのまま”で女優引退覚悟

片嶋監督とはこれで4度目のタッグ。気心知れた仲ではあるが、キャラクターをまとわぬ“ありのまま”状態で撮影に入るのは初めてのこと。「キャラクターを演じるのであれば、何らかの要素を自分に乗せていけばいいけれど、今回はそれをやめたありのままの、これ以上なにもないという裸の状況からのスタートでした。何度もNGを出された時は『もう何も出ない!わからない!』と叫んだこともあります。それでも片嶋監督は『もう一回』という超ドS。表現の先にあるものを見たいという監督のエネルギーに突き動かされた戦いのような現場。いかに演じることが楽なのかを体感しました」。

恩人の死、島からの追放、孤島生活、同じ民族同士の不毛な殺し合い。梓を演じることなく自分のこととして受け入れた結果、そのキャラクターの感情はダイレクトに自分の中に入ってくる。撮影後1年程は『いぬむこいり』について冷静に語ることのできない精神状態になった。「もうこんな大変な仕事はしたくない!ほかの仕事に変わりたい」と女優業引退もチラついた。過酷な“ありのまま”経験がトラウマのようになり、完成した作品も客観的に見ることができなかった。

女優でなければ生きられない心境

だがマスコミ向け試写が始まると、作品そのものを牽引するかのような有森の際立った存在感が話題に。作家性の強い作品はそれを生み出した監督名で語られることが多いが、『いぬむこいり』の場合は主演女優・有森の名前が先に出るほどだ。作品として女優として評価されたことで、有森も自分自身から切り離して俯瞰できるようになった。「自分でも本編を3回見たところでやっと“この仕事って素晴らしい!”と思えるようになった」と打ち明ける。

「15歳からこの世界に入り、30歳を過ぎてからずっと崖っぷち状態だと自分では思っています。魂を揺さぶられる様な作品に出合えず、どうしたらいいのかわからな時期も長かった」と複雑な胸中を吐露し「でも今回のような作品に出合うと体中がザワザワする。女優という仕事は大変なことも多くて好きじゃないけれど、でも自分の中で女優という表現方法がなくなったら生きてはいけない」と演じざるを得ない自分がいることも痛感している。

今年で50歳を迎えるが「これからも女優さんをやっていきます。今回の映画を通して怖いものがなくなった気がするし、悪いものも全部落ちたような気がする。チャレンジ精神と冒険心だけは失うことなく、色々な役に挑戦していきたい」。年齢を重ねると様々な面で無意識のうちに守りに入り、ブレーキをかけてしまうことがある。しかし有森は“ありのまま”の解放を経て、生まれ変わったような心持ち。踏み出すことに遅すぎることも早すぎることもない。それを証明した。

(石井隼人)

記事制作 : 石井隼人

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