第21話でお嬢(浅丘ルリ子)の怒りを鎮める呪いを伝授する九条摂子(八千草薫)
(c)「やすらぎの郷」/テレビ朝日

「逃げ恥」への対抗心にテレビ業界批判!?高視聴率シルバー向けドラマ 巨匠・倉本聰の「やすらぎの郷」

コラム

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文=中山治美/Avanti Press

ただならぬドラマが始まる予感

フジテレビ系ドラマ「北の国から」シリーズで知られる脚本家・倉本聰が、今の若者主流のテレビ業界への異議と、人間を掘り下げられないドラマへの喝ッ! を入れるべく自ら企画立案・脚本を手がけた連続ドラマ「やすらぎの郷」(テレ朝系。月~金曜・後12時半)が話題だ。同局がシニア世代を取り込むべく新たに設けた帯ドラマ枠で、別名「シルバータイムドラマ」。物語も、テレビ界を支えた往年のスターだけが入居できる老人ホームが舞台と徹底的にシニア視聴者向け。視聴率も好調なことから、これで逆にテレビの若者離れを実証してしまったとの声もある。……って、本当にそうだろうか?

何を隠そうアラフィフの筆者も大ファン。シニアの一歩手前じゃん! と言われればそうなのだが、でも第1話からがっつりハートを掴まれてしまった。主人公の脚本家・菊村栄(石坂浩二)の亡き妻で元女優・律子(風吹)の登場シーン。石坂の「舞台女優として劇団に所属し、テレビの脇役としてその天然のトロさが皆に愛され、トロコという愛称でブレイクした」というナレーションに乗せて、ふわっふわのワンピースを着て無邪気に“けんけんぱ”遊びをしている風吹。食べていた昼食をププーッと吹き出しそうになったが、同時に、ただならぬドラマが始まることを予感させた。

とにかく本作はネタが尽きない。石坂と元妻・浅丘ルリ子、さらに元恋人・加賀まりこが怨讐の彼方に膝を突き合わせて共演しているとか、あのキャラクターのモデルは誰か? とか、セリフの随所に散りばめられた痛烈なテレビ業界批判とか。でも今回、意外にも……と言っては失礼だが、倉本氏のコメディセンスの秀逸さを再発見。それも、ちょっと一般常識から外れた大スターたちの意表を突く言動なので、破壊力が凄まじい。その印象的な3つのエピソードをピックアップ。

【女の生涯の3つのターニングポイント】

色香を醸しながら3つのターニングポイントを脚本家・菊村(石坂浩二)に説く三井(五月みどり)
(c)「やすらぎの郷」/テレビ朝日

第7話。三井路子が亡き女優・栗山たか子と構想していた舞台台本の執筆を栄に依頼する。内容は一人の女性の一生を、3つのターニングポイントに分けて描く3幕もの。三井役の五月みどりが、かつての当たり役“かまきり夫人”の色香を放出しながら「先生、3つのターニングポイントってわかります?」と迫りつつ吐いたのが、次の言葉。

1つ目。誰かに処女を捧げるとき。

2つ目。男にお金で買われる時。

3つ目。もう誰からも振り返られなくなって、自分がお金を出して男を買う時。

ええーっ! 予想だにしないターニングポイントのシチュエーションに、栄ならずともシュールすぎてたまげた。

【茄子の呪い揚げ】

第21話。出席者が少なく、誕生日パーティーをキャンセルすることになったお嬢こと白川冴子(浅丘ルリ子)の怒りを鎮めるべく、大先輩の九条摂子(八千草薫)が伝授した呪いの儀式。呪いたい人の名前を叫びながら茄子を素揚げし、それを食べるだけ。だが計30人分を呪い揚げ、狂乱の一夜と化す。

なんだ? この儀式と笑って見ていたが、実際、夏野菜である茄子は体内の熱を下げる作用があるので、理にかなっている。かつ抗酸化物質のポリフェノールも豊富なので認知症予防にも効果があると言われている。知識豊富な倉本氏ならではの、演者の健康に配慮した愛ある設定に後からじわじわ感動。

【やすらぎ体操】

やすらぎ体操で恋ダンスに対抗!? 石坂とボルトを真似たジャマイカ・ポーズを決める八千草
(c)「やすらぎの郷」/テレビ朝日

第25話。リモコンを謝って押したのかと勘違いしたほど、突如流れた「やすらぎ体操」。「♪今日も生きている~、それが人生~」という深い言葉で曲が始まり、最後は「人生百年 年金に頼るな! 死ぬまで歩こう、自分の足で」と老体にムチを叩きつつ、陸上選手ウサイン・ボルトを真似たジャマイカ・ポーズでキメッ! 一世を風靡した「逃げるは恥だが役に立つ」をはじめ、昨今のドラマは出演者全員でダンスを披露するのがブームだが、まさか対抗心を燃やしてくるとは。これも実際やって見ると健康に留意していて、本気で流行らそうとしているところが恐れ入る。

そして第27話からは“マタタビスター”の異名を持つ男女共に憧れる大スター高井秀次(藤竜也)が「やすらぎの郷」に入居し、シニアたちのラブ・コメディが始まった。双葉社から発売されているシナリオ本で先読みすると、これまでのさらりと描かれていた伏線が、後々大きな事件を起こすようだ。

何より気になるのは、第1話で、栄が「やすらぎの郷」入居前に寺の住職に預けた書類の中身。「子どもたちに対する遺書みたいなもの」と言ってはいるが、伝説のドラマ「6羽のかもめ」(1974~1975年)の最終回「さらばテレビジョン」で朗々とテレビ業界批判をやってのけた倉本氏である。最後に何か隠し球があるような気がしてならず……。このドラマ、ちっともやすらげない。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

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